長々と続けてきた池と川巡りも今回が最終回です。
今回は、本流ではない分流と、支流の上にあるダムの上流について紹介します。
- 柳川市三橋町枝光(沖端川・おきのはたがわ)
沖端川は柳川市内を流れる矢部川の分流です。
矢部川中流の船小屋付近で分流し、南西へ進む矢部川とは大きく離れ、真っすく西へ向かい、柳川の旧市街の西側でほぼ直角に南南西に曲がり、10kmほどで河口に達します。
また、この屈曲部までの中間地点で二ツ川を分流し、この二ツ川が川下りで有名な水郷柳川の掘り割りの水源になっています。
(沖端川の位置)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-1.jpg)
沖端川では二ツ川分流から約3km下流の三橋町磯鳥に磯鳥堰があり、これより下流は感潮域になります。
つまり、採集地点の三橋町枝光は感潮域にあたります。
(三橋町枝光、グーグルより改変引用、矢印が採集地点)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-2.jpg)
8月10日に國分さんと灯火採集に出かけましたが、大塚さんも「汽水域ならやってみたい」と参加しました。
(左から、三橋町枝光の採集地点、灯火採集)
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左の写真の右上に大塚さんの白い車と白幕が見えます。
この写真の日は干潮に近く、水面は相当下にありますが、後日、訪ねた満潮の日では、川沿いのヨシの半分以上が根本は水没していました。干満の差が数メートル程度有るようです。
そのことは知らず、ヨシ原と裸地が広く存在するので、虫が多そうと思ってこの場所で灯火採集をしたのですが、結果はあまり芳しいものではありませんでした。
そもそも、今回、汽水域での調査を思い立ったのは、ヨドシロヘリハンミョウの発見が目的でした。
福岡県では、福岡市内の旧・九州大学箱崎キャンパスの東側を流れる多々良川での記録が唯一のものです。その後、発生地のあたりでは、河川改修の影響か、再発見されていません。
有明海沿岸では、私と堀さんによる、島原半島南端の口之津町における生息地の発見が最初です(今坂・堀, 1982)。
今坂正一・堀道雄, 1982. シマバラシロヘリハンミョウ(仮称)の発見と保護について. 長崎県生物学会誌, (23): 7-11.
この報告では、関西のヨドシロヘリハンミョウとは微妙に違う点があるとして、シマバラシロヘリハンミョウと仮称しています。
この時、ハンミョウの権威である堀さんの指導で、本種の巣穴や幼虫なども観察しました。
しかし、その後、長い間そのまま保全されていましたが、結局埋め立て等で、この生息地は消滅しています。
(ヨドシロヘリハンミョウのペア、生息地と巣穴、今坂・堀, 1982より引用)
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また、1997年の諫早湾締め切りの際は、陸地化した干潟で本種が大発生し、その後、地表が乾燥し3年で姿を消しました。
その頃、佐賀・長崎県境付近の太良町田古里の海岸に、本種とシロヘリハンミョウが混棲していることを桃下さんが発見され、その後長期にわたって観察を続けられています。
しかし、ここも、2010年までには、見られなくなったようです。
あと、私が知っているのは、熊本県白川の河口で、本種が採集されているという事実です。
以上、地点をプロットして概観すると、ほぼ有明海を一周できますので、有明海沿岸には、全域に渡って、棲息できる環境があれば本種が分布していた可能性があります。
私が観察した限りでは、本種は汽水域のヨシ原に生息し、さらに真水が流れ込んで海水より塩分濃度が相当薄まること、その地点がごく狭い範囲でもオープン(日当たりがある)であること、幼虫の巣穴は深さ30-50cmありますが、少なくとも一定時間(満潮時)は水没すること、以上の全ての条件が必要なようです。
モデルとしては、感潮域の泥地のヨシ原に、小さい用水路からの流れ込みがあって、その流れの両側はオープンで、満潮時は水没する地点に、本種の幼虫は営巣します。
この流れ込みの両側に、干潮時に小型の黒いハエの仲間が帯状に数万個体以上、静止して摂食しているのを見たことがあり、そんな場所には10cm四方に100個以上の巣穴が見られました。
以上の条件を頭に描いて、筑後川と矢部川の感潮域を見て回りましたが見つからず、沖端川の感潮域で泥地のヨシ原を見つけたので、一縷の望みを持って、灯火採集をしたわけです。
結果としては、ヨドシロヘリハンミョウは飛来しませんでしたが、沖端川の感潮域のヨシ原はかなり広範囲にわたるので、可能性は捨てきれません。
今後も探してみたいと思います。
この日、白幕等で採集できたのは、コハンミョウ、アトモンミズギワゴミムシ、ウスオビコミズギワゴミムシ、クリイロコミズギワゴミムシ、ヨツモンコミズギワゴミムシ、キンナガゴミムシ、オオズケゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、キイロチビゴモクムシ、キベリゴモクムシ、ミドリマメゴモクムシ、チビゲンゴロウ、コマルケシゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、ハイイロゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、ウスイロシマゲンゴロウ、アカケシガムシ、セマルケシガムシ、ホソケシガムシ、キイロヒラタガムシ、ヒメガムシ、マメガムシ、トゲバゴマフガムシ、
ニセヒメユミセミゾハネカクシ、ヒメアカセスジハネカクシ、ヒメシリグロハネカクシ、ツマグロナガハネカクシ、カワベナガエハネカクシ、クビボソハネカクシ、チビクビボソハネカクシ、トビイロマルハナノミ、アオドウガネ、イブシアシナガドロムシ、クリイロデオキスイ、ケナガセマルキスイ、マルガタキスイ、ヨツボシテントウダマシ、クロヘリヒメテントウ、ヤマトヒメテントウ、ヒメカメノコテントウ、クロオビケシマキムシ、ウスモンホソアリモドキ、クロオビホソアリモドキ、コスナゴミムシダマシ、キスジノミハムシの46種です。
この中には、大塚さんの白幕から採集させてもらった種や、ライトBOX分も含まれていますので、決して多くありません。
灯火位置から見える範囲で、水溜まりや止水環境はありませんでしたが、感潮域と言うのに、ゲンゴロウ・ガムシ類が、今までの地点より多かったようです。
あるいは周囲の用水路などから飛来しているのかもしれません。
特に、コマルケシゲンゴロウは今回の池と川巡りで初めて確認しました。
(コマルケシゲンゴロウ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-26.jpg)
井上・中島(2009)では、「比較的海に近い溜池に生息地が多い」と書いて、福岡市西区の例を紹介しています。
西田(1998)も佐賀県江北町八町の六角川感潮域で本種を記録していますので、多少、塩気の感じられる止水を好むのかもしれません。
井上大輔・中島淳, 2009. 福岡県の水生昆虫図鑑. 196pp.;
西田光康, 1998. 佐賀県西部の河口付近で得られた甲虫, 佐賀の昆虫, (32): 71-78.
それから、感潮域の種としては、ヤマトヒメテントウとクロオビホソアリモドキが採れました。
(左から、ヤマトヒメテントウ、クロオビホソアリモドキ)
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ヤマトヒメテントウは汽水域のヨシ葉上に普遍的に見られる種です。
クロオビホソアリモドキは海岸の灯火で見つかることの多い種ですが、福岡県では、玄界灘沿いの能古島、福岡市、福津市、行橋市の記録があるだけで、有明海側では初めてのようです。
感潮域の種がいないわけではなく、ヨドシロヘリハンミョウの可能性も皆無ではないので、沖端川ももう少し探してみる必要がありそうです。
11月3日に、國分さんと柳川市の干拓地まで行った帰りに、沖端川のこの地点を訪れてみました。
ヨシとセイタカアワダチソウ、河畔林のセンダンなどを叩いて、
國分さんは、キイロアシナガヒメハナムシ、ダンダラテントウ、ニジュウヤホシテントウ、ウスチャケシマキムシ、ホソクビアリモドキ、クロウリハムシ、フタスジヒメハムシ、チュウジョウキスジノミハムシ、ナトビハムシを、
私はセスジヒメテントウ、ババヒメテントウ、ナナホシテントウ、オビデオゾウムシなどを落としましたが、さすがに、虫の時期も終わりのようでした。
このうち、チュウジョウキスジノミハムシは、キスジノミハムシをやや丸く厚みのある感じにした種ですが、最近、小河川にはびこっているクレソンにも着く種です。
記録はあまり多くありませんが、北海道から九州まで広く分布します。
福岡県の記録は見つけられませんでした。
(チュウジョウキスジノミハムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-25.jpg)
次いで、ダム上流の河川です。
- 朝倉市佐田(佐田川)
採集地点は、筑後川の支流の佐田川の、上流にある寺内ダムの、さらにすぐ上流に当たります。
(朝倉市佐田の位置)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-8.jpg)
寺内ダムの上流部、県道509号線から左折し、佐田川に掛かった橋の上で灯火採集を行いました。
標高は148m、河川敷には結構広い砂礫の河川敷があります。
かなり深い谷川で、橋から川底まで20mほどの高さがあります。
(佐田の灯火採集地、矢印は採集地点)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-9.jpg)
9月23日に國分さんと、灯火採集に出かけました。
さすがに、秋の色が感じられ、あっという間に夕闇が迫り、日没後は涼しくなりました。
(左から、橋下の上流側、灯火採集とライトBOX)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-10.jpg)
トビケラなど水生昆虫が主力で、甲虫は、白幕とBOXを合わせて、ヒラタキイロチビゴミムシ、ヨツボシミズギワゴミムシ、アトモンミズギワゴミムシ、ヒラタコミズギワゴミムシ、キアシツヤヒラタゴミムシ、ケウスゴモクムシ、ヒメケゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、ナガマメゴモクムシ、ホソセスジゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、セマルガムシ、ヒメシジミガムシ、コモンシジミガムシ、
オオモモブトシデムシ、キベリカワベハネカクシ、ニセヒメユミセミゾハネカクシ、アカバナガエハネカクシ、トビイロマルハナノミ、コスジマグソコガネ、ドウガネブイブイ、ヒラタドロムシ、タマガワナガドロムシ、アカマダラケシキスイ、ケナガセマルキスイ、ナミテントウ、ウスチャケシマキムシ、クリシギゾウムシの28種が飛来しました。
ミクロを中心に、蛾は比較的多く飛来しましたが、甲虫はもう終わりという感じがしました。
多く飛来したのは、ヒラタキイロチビゴミムシ、ヨツボシミズギワゴミムシと、ゴモクムシ類、コモンシジミガムシ、タマガワナガドロムシくらい。
、
特に興味深い種も確認できませんでしたが、キアシツヤヒラタゴミムシは、このシリーズで初めて出現した種です。
(キアシツヤヒラタゴミムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-11.jpg)
この種は、一見、胸が赤くない型のセアカヒラタゴミムシを少し小型にしたような種ですが、河川敷のみで見つかります。
本州から九州まで広く分布しますが、福岡県では先頃まで、水国での矢部川の記録が唯一の記録でした。
やっと、前回の筑後川特集号でも記録したところです。
大河川でしか見つからないので、記録が少ないのでしょう。
自身でも、まともに川の記録を出したのは、筑後川特集号が初めてですので、人のことは言えません。
本来、甲虫屋は、山には出かけても、池や川には採集に出かけないものです。
今回、そのために、余りやらないことをやって、それなりに、出会えていなかった種に出会えたわけです。
そんな種の1つとして、ここでも、ナガマメゴモクムシが見られました。
先に紹介した小石原の標高450mと違って、ここは140mです。
所謂平地から、少しでも山手(渓谷)に入ると、本種は棲息可能なのでしょうか?
あるいは、ツヤマメゴモクムシと混生することもあるのか、今後、調べてみたいものです。
(ナガマメゴモクムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-12.jpg)
最後に、広川ダムです。
- 広川町大字水原広川ダム
上記、佐田川同様、広川も筑後川の支流です。
ただ、佐田川は中流域のほぼ中間地点で筑後川と合流しますが、広川は、筑後大堰の下流、このシリーズで紹介した安武町武島の下流4km付近の下流域で合流します。
(広川ダムの位置)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-13.jpg)
この広川と筑後川の合流点付近で、大塚さんが、2023年にミツノエンマコガネを灯火で採集されています。
近くに船着き場があるので、その付近にゴミ捨て場があって、そこで発生しているのではないかと想像しているのですが、確認はできていません。
彼が採集したのは筑後川の左岸ですが、福岡県ではなくて佐賀県になります。まだ記録はされてないようです。
昔の筑後川の湾曲した流路を反映して、筑後川下流では、福岡県と佐賀県の県境が入り組んでいるのです。
とにかく、絶滅してしまったと思っていた本種がまだ、棲息していたことが解ったのは喜ばしいことです。是非、福岡県側でも確認したいものです。
話が横道にそれましたが、広川ダムは、合流点から東へ約18km、標高118mの地点にあります。
洪水を防ぐための防災ダムと言うことなので、ダム周辺にはほとんど規制がありません。
このダムに流れ込む河川は5本ほどありますが、調査したのは主として最も南にある川です。
(円内が広川ダムの採集した範囲、矢印は灯火採集地点)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-14.jpg)
10月9日、下見のつもりで國分さんと広川ダムを訪れました。
矢印の橋の下の谷は、中央を小川が流れていますが、周囲は明るい草地です。
降りて確認することはしていませんが、湿地状の部分もありそうです。
橋の上流側にはヤナギもかなり大きく生育していたので、この谷は、長期間、写真のままの状態を保っているのでしょう。
(左から、橋より下流、橋より上流、正面の数本はヤナギ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-15.jpg)
川沿いに道路があり、遡ると狭いけど明るい谷間に出ました。
かつては、耕作地か集落があったものと思われますが、長く放置されているようです。
(どちらも、上流側の谷間、道沿いにハンミョウがいた)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-16.jpg)
この時期のハンミョウは羽化して間もないこともあり、結構綺麗です。
どこにでもいた普通種ですが、泥の空き地が少なくなったためか、余り見なくなりました。
そのまま石下などで成虫越冬します。
(ハンミョウ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-17.jpg)
久留米周辺では、最近ツマグロヒョウモン以外のヒョウモンチョウは殆ど見られませんが、セイタカアワダチソウの花のあたりを明らかに別種が飛んでいたように思います。
この種については、國分さんが記録されるでしょう。
そんなわけで、こうした明るい草地の谷は、久留米周辺では殆ど最近見られない環境なので、今後、詳しく調べたいと思います。
この日は、周辺の林縁のビーティングなどで、國分さんはハンミョウ、キンモリヒラタゴミムシ、キクビアオアトキリゴミムシ、ヒラタチビタマムシ、アカガネチビタマムシ、ヒロオビジョウカイモドキ、クロチビアリモドキ、ホソクビアリモドキ、チビカサハラハムシ、マダラアラゲサルハムシ、クロオビカサハラハムシ、ヒゲナガホソクチゾウムシ、ハコベタコゾウムシ、オオクボササラゾウムシを、
私は、その他に、コヨツボシアトキリゴミムシ、ヤマトシリグロハネカクシ、オオシリグロハネカクシ、マメチビタマムシ、キムネヒメコメツキモドキ、ケシコメツキモドキ、ツマアカヒメテントウ、モンクチビルテントウ、ケオビアリモドキ、ヨツボシホソアリモドキ、クロウリハムシ、サメハダツブノミハムシ、アカイロマルノミハムシ、イノコヅチカメノコハムシ、ヨツモンカメノコハムシ、ヒメケブカチョッキリ、コブナシクチブトサルゾウムシを採集しました。
私がこの30年ほどベースグラウンドにしている、久留米市東部に位置する高良山周辺の低地では、このうち、キンモリヒラタゴミムシ、マメチビタマムシ、オオクボササラゾウムシ、コブナシクチブトサルゾウムシなどは見たことがありません。
高良山と広川ダムは、わずかに8kmほどしか離れていないのにどういうことでしょう。
(左から、キンモリヒラタゴミムシ、マメチビタマムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-18.jpg)
(左から、オオクボササラゾウムシ、コブナシクチブトサルゾウムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-19.jpg)
ここは何か良さそうなので、道路沿いに斜面から落ちてきて溜まっている落ち葉も篩って持ち帰ることにしました。
そして、自宅で簡易ベルレーゼに掛けたところ、セダカコミズギワゴミムシ、クロズホナシゴミムシ、コウセンマルケシガムシ、コアカツブエンマムシ、クロズマルクビハネカクシ、マメダルマコガネ、クロツツマグソコガネ、ヒメアカマダラケシキスイ、アシナガマルケシキスイ、マルキマダラケシキスイ、クリバネツヤテントウダマシ、クロミジンムシダマシ、チビノミナガクチキ、チビヒョウタンゾウムシ、イコマケシツチゾウムシ、ダルマカレキゾウムシ、ウエノヒョウタンクチカクシゾウムシの17種を抽出できました。
このうち、ヒメアカマダラケシキスイは図鑑類には載って無く、比較的最近、Hisamatsu, S-T.(2005)により新種記載された種です。
Hisamatsu, S-T., 2005. A nea species of the genus Lasiodites Jelinek (Coleoptera< Nitidulidae) from Japan. Jpn. J. syst. Ent., 11(1): 155-160.
本種は、アカマダラケシキスイを小さく、やや丸形にしたような形をしており、照葉樹林の落葉下に限って棲息し、シイ・カシ類のドングリを食べるそうです。
本州、四国、九州、屋久島まで分布しますが、九州では福岡県城山の記録が知られるだけのようです。
(ヒメアカマダラケシキスイ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-20.jpg)
それから、ウエノヒョウタンクチカクシゾウムシは、異様な形のゾウムシですが、「本州から九州まで分布し、オモトやヒガンバナの根茎を加害する」とされている割に、見ない種です。
九州では、長崎と福岡から記録があり、高良山でも落葉下から採っていますが、その他の県の記録は知りません。
(ウエノヒョウタンクチカクシゾウムシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-21.jpg)
以上のように、周囲の樹林は二次林で貧弱な割に、面白い種が採れていたので、10月13日、2024年最後の灯火採集として、國分さんとこの地を再訪しました。
日暮れまでにはまだ時間があったので、まず、気になった上流の谷でスウィーピング、ビーティングなどを実施しました。
國分さんはニジュウヤホシテントウ、ヤクカサハラハムシ、マダラケブカチョッキリを、
私はヤマトデオキノコムシ、サビキコリ、オオクチキムシ、ツヤキバネサルハムシ、イチゴハムシ、ルリマルノミハムシ、カナムグラサルゾウムシを追加して、灯火採集の準備を始めました。
そのときの灯火採集の地点が、この項の最初の地図に示した矢印の地点です。
(広川ダムでの灯火採集セットとライトBOX)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-22.jpg)
昼間は動けば多少とも汗ばむ陽気でしたが、さすがに10月半ばで、日没後は気温が下がりました。
灯火には、小型のカゲロウの一種が大量に来た以外、蛾も甲虫も飛来は貧弱でした。
結局、ヨツボシミズギワゴミムシ、オオヒラタゴミムシ、アカケシガムシ、セマルケシガムシ、キイロヒラタガムシ、ルイスヒラタガムシ、コモンシジミガムシ、ニセヒメユミセミゾハネカクシ、ニセトガリハネカクシ、ツマグロナガハネカクシ、クロズトガリハネカクシ、ツマアカナガエハネカクシ、アカバヒメホソハネカクシ、キアシチビコガシラハネカクシ、キバネセミゾハネカクシ、シラフチビマルトゲムシ、タテスジナガドロムシ、マダラチビコメツキ、デメヒラタケシキスイ、モンチビヒラタケシキスイ、アカマダラケシキスイ、ケナガセマルキスイ、ミツヒダアリモドキ、テントウゴミムシダマシの24種の甲虫が飛来しただけで、早めに、2024年最後の灯火採集を終了しました。
ただ、このうち、テントウゴミムシダマシはちょっと意外でした。
と言うのも、地元の高良山は元より、福岡県の筑後川以北の地域では、古い2例の記録があるだけで、その後本種は、見つかっていないのです。
本種は、本州から九州、屋久島までと、インドシナに広く分布し、大分県以南の九州中・南部にはごく普通に産します。
しかし、佐賀県と長崎県には分布しません。
(テントウゴミムシダマシ)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-23.jpg)
主に筑後川以北の各地で、隈無くと言って良いくらいに採集調査をされている城戸さんは、浮羽町新川の報告の中で、以下のようにコメントされています(城戸, 2023)。
「県下からは高倉,1978(田川市伊田、1955年採集)と高倉,1989(英彦山、1978年採集)の2例の記録があるだけで、極めて稀な種と思われる。中略。県下でこの地だけに普通に見られるのには大変驚いた。」
城戸克弥, 2023. うきは市浮羽町新川で採集した甲虫類(1). KORASANA, (101): 121-150.
奥八女の釈迦岳では本種は記録していませんが、多分、調査範囲が主としてブナ帯とその下部だったので、本種の棲息には標高が高すぎたのでしょう。
うきは市と広川町にいるということは、筑後川以南でも、水縄山地を除く福岡県南部の低山地には、広く分布するものと思われます。
しかし、城戸さんが書かれていたように、なぜそのような分布をしているのかは謎で、今のところ説明できません。
それから、もう1点、ここではタテスジナガドロムシが採れました。
しかし、このシリーズで述べた、支流を含めた筑後川水系では、全て、タマガワナガドロムシでした。
矢部川では水国でタテスジナガドロムシが出ていますが、筑後川でも従来はタテスジナガドロムシと記録されていたので、正確にはどちらか確認する必要があります。
私は、両方とも、矢部川では採集していません。
タテスジナガドロムシは北海道から沖縄まで、タマガワナガドロムシは本州、四国、九州の分布が知られています。
タテスジが中小河川も含めて普遍的に分布し、タマガワは大河川にのみ分布すると考えていました。
しかし、筑後川水系では支流も含めてタマガワが見られました。
両種が同時に見られる地点は、今のところ知りません。
両種は、腹部第一節の腿節線が完全で円弧を描く(タマガワ)か、不完全で腹説の基部中央部分の線を欠く(タテスジ)かで区別できます。その部分を矢印で示しています。
体形もタテスシの方が長細いようです。
(タテスジナガドロムシ背面、腿節線が無い、タマガワナガドロムシの腿節線、背面)
![](https://coleoptera.jp/eassist/wp-content/uploads/2025/01/kawa3meguri-24.jpg)
久留米市内を含む筑後川より南部の福岡県内では、今のところ、タマガワナガドロムシは知られていません。
県内を始め、この2種の分布がどのようになっているのか、棲み分けているのか、興味の尽きないところです。
広川ダムでは、秋が深まった頃2度採集しただけで、水ものを中心に調査が十分とは言えません。
調査を繰り返したら、さらに興味深い種が見つかるような気がします。
今回、県内各地の池や川を巡ってみましたが、いろいろな問題点が見えてきましたし、さらに調査が必要な場所も多数見つかりました。
2025年もまた、?マークを頭に浮かべながら、楽しく虫採りができそうです。
このシリーズに長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
これにて終わりにいたします。