池巡りを続けていきましょう。
先に、後回しにしていた小隈裏(おぐまうら)溜池です。
- 朝倉市須川・小隈裏(おぐまうら)溜池
(小隈裏溜池の位置)
この池は2番目に紹介した鐘突溜池のすぐ近くで、小さい丘の麓に3つ並んでいる一番上の小池です。広さは30m四方くらいしか有りません。
(3月14日の小隈裏溜池)
この池の上の斜面は、元は柿畑だったようですが、その後広い範囲で造成されています。この池もその課程でかなり土砂が流入したと思われ、大部分は陸化して草叢~湿地になっています。吐き出し口のみ常に水が溜まっており、メダカが大量に見られました。
このメダカを掬おうと、水辺に近寄った途端、落とし穴状態で、腰までストンと落ち込んでしまいました。
(小隈裏溜池の吐き出し口・7月6日)
ここが、そこまで深いとは、水が濁っていて良く見えなかったこともあり、まったく思いもしませんでした。
慌てて這い上がったので、ズボンが濡れただけで済みましたが、全身ずぶ濡れならひどいことになっていたでしょう。
この日は、林縁を叩いてヒゲナガホソクチゾウムシとツツノミゾウムシを得ただけです。
(ツツノミゾウムシ)
この種は主として九州で見つかり、あまり見ない種です。
さて、7月6日、國分さん、斉藤さん、大塚さんと再訪し、ここで灯火採集をすることにしました。
(7月6日の小隈裏溜池)
夕刻まで時間があったので、周囲をビーティングします。
大塚さんはスウィーピングでミカドテントウを落としたので、よく見ると、林縁にはイチイガシが何本も混じっていました。
近くに月読神社と高木神社があるので、そこから逃げたのでしょうか?
(スウィーピングをする大塚さんと、ミカドテントウ)
夕刻になって、白幕を張る準備を始めましたが、大塚さんが車の中を探しています。どうも、発電機を忘れてきたようです。
残念ながら、彼は、灯火採集をせず、帰って行きました。
灯火採集セットを設置し、暗くなるのを待ちます。
今日は、白幕以外に、ライトトラップのBOXセットも用意しました。
暗くなってきたら、コガネ類が来て、ゴミムシ・ハネカクシ類も来て、大型の虫が来たと思ったら、ミヤマカミキリです。
その後も、次々飛んできましたが、1♂だけ持ち帰ることにしました。
(灯火採集のスクリーンとミヤマカミキリ)
この日は温度も湿度も高く、無風だったこともあり、結構大漁で、トウキョウヒメハンミョウ、クロオビコミズギワゴミムシ、クリイロコミズギワゴミムシ、ヨツモンコミズギワゴミムシ、キンナガゴミムシ、オオアオモリヒラタゴミムシ、ホシボシゴミムシ、キイロチビゴモクムシ、キベリゴモクムシ、ミドリマメゴモクムシ、オオアトボシアオゴミムシ、クロヒゲアオゴミムシ、トゲアトキリゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、アオヘリホソゴミムシ、チビゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、セマルガムシ、キイロヒラタガムシ、ヒメシジミガムシ、ヒメガムシ、トゲバゴマフガムシ、オオモモブトシデムシ、ツマアカナガエハネカクシ、カワベナガエハネカクシ、アオバアリガタハネカクシ、ニジムネコガシラハネカクシ、キアシチビコガシラハネカクシ、
チャイロチビマルハナノミ、トビイロマルハナノミ、オオクロコガネ、オオコフキコガネ、アオドウガネ、ドウガネブイブイ、サクラコガネ、ツヤコガネ、ハンノヒメコガネ、セマダラコガネ、スジコガネ、ヒラタドロムシ、マダラチビコメツキ、サビキコリ、ヒメサビキコリ、アカマダラケシキスイ、ミツモンセマルヒラタムシ、ケナガマルキスイ、クロヘリヒメテントウ、ヒメスナゴミムシダマシ、ガイマイゴミムシダマシ、ミヤマカミキリ、イネネクイハムシ、トゲアシクビボソハムシ、イチゴハムシ、フタスジヒメハムシ、キスジノミハムシと、55種が採れました。
このうち、イネネクイハムシは、久留米に住むようになってから30年ほど経ちますが、県内で初めて採集した種です。
昔はどこでもいたと思われますが、最近はめったに見られません。
(イネネクイハムシ)
河川種のヒメスナゴミムシダマシが来たのにも驚きました。
この池には、本種が生息するような、砂礫の河川敷は存在しません。
(ヒメスナゴミムシダマシ)
さらに、河川種のクロヒゲアオゴミムシ、アオヘリホソゴミムシ、カワベナガエハネカクシ、ハンノヒメコガネ、ヒラタドロムシも来ました。
トウキョウヒメハンミョウが多数飛来したのも意外でした。
また、先に書いたように、今回は、水辺近くにライトBOXも設置しました。
白幕同様、光源はHIDのライトです。
(ライトBOX: 左、林縁に掛けたライトFIT: 右)
このライトBOXの採集品は、白幕に来たのと31種は共通でしたが、それ以外に、小型の種を中心に、次の43種が入っていました。
BOX型で追加したのは、コヒメヒョウタンゴミムシ、ダイミョウチビヒョウタンゴミムシ、アトオビコミズギワゴミムシ、ウスオビコミズギワゴミムシ、ウエノコミズギワゴミムシ、ヒラタコミズギワゴミムシ、チャイロコミズギワゴミムシ、ゴミムシ、ツヤマメゴモクムシ、オオキベリアオゴミムシ、フタモンクビナガゴミムシ、スジミズアトキリゴミムシ、オニギリマルケシゲンゴロウ、ウスモンケシガムシ、アカケシガムシ、セマルケシガムシ、ルイスヒラタガムシ、コモンシジミガムシ、キベリカワベハネカクシ、チビニセユミセミゾハネカクシ、ニセヒメユミセミゾハネカクシ、チビクビボソハネカクシ、
アカバヒメホソハネカクシ、チビカクコガシラハネカクシ、オオドウガネコガシラハネカクシ、ヒラタコガシラハネカクシ、シロヒゲアリノスハネカクシ、コヒゲナガハナノミ、キスジミゾドロムシ、イブシアシナガドロムシ、アシナガミゾドロムシ、リュウキュウダエンチビドロムシ、タマガワナガドロムシ、カドマルカツオブシムシ、デメヒラタケシキスイ、コブスジケシキスイ、トビイロデオネスイ、ルイスチビヒラタムシ、マルガタキスイ、アトモンマルガタテントウダマシ、カグヤヒメテントウ、ミカドテントウ、コクロホソアリモドキの43種です。
このうち、アトモンマルガタテントウダマシは初めて採集しました。
(アトモンマルガタテントウダマシ背面、少し斜め上からの背面)
この種は、体長1.4mmと極微小種ですが、ほぼ円形で、翅端部に赤褐色のハート型の紋を持ち、テントウダマシとしては美麗種です。
頭胸部もよく見ると暗赤褐色の色がついています。
学名もDexialia spectabilis Sasaji(種小名は、目立った、注目すべきの意味)と言うことで、命名された佐々治博士も特に綺麗な種と思われたのでしょう。
鹿児島県の長島産1♂を基に新種記載された種ですが、その後の記録を知りません。
あるいは2頭目かとも思ったのですが、Web上の鈴木さんのサイト(日本列島の甲虫全種目録2024年)を見ると、本州という表示があります。
少なくとも、九州本土初記録のようですが、本州等の既知記録をご存じの方がありましたら、ご教示ください。
それから、ここに来て、ようやく多少ましな池ものが採れました。
それはオニギリマルケシゲンゴロウです。
この種は、元はマルケシゲンゴロウ Hydrovatus subtilis Sharpと呼ばれていた種です。
日本産は元の学名の種とは異なるとして、オニギリマルケシゲンゴロウ Hydrovatus onigiri Watanabe & Biströmとして新種記載されました。
日本本土にHydrovatus subtilis がいないとしたら、元の和名のままで、学名だけ変更したら、混乱も少ないだろうと思います。
前胸腹板突起が三角のおにぎり型であることが、和名の由来のようです。
(オニギリマルケシゲンゴロウ、左から、背面、上翅の点刻、頭胸部腹面)
上翅の矢印は、合わせ目付近までハッキリした点刻が有ることを示しています。
また、頭胸部腹面の矢印は、おにぎり型の前胸腹板突起を示しています。
ウエノコミズギワゴミムシも記録は少ないですが、同定方法が解ると、結構各地に分布していることが明らかになっています。
(ウエノコミズギワゴミムシ)
ライトBOXの採集品は、合計すると74種で、白幕を張っての灯火採集が55種ですから、その35%増しになります。
今回は、光源が全く同じなので、比較材料になると思います。
BOX型の方が、白幕より微少な種の採り零しが少ないのでしょう。
よほど目が良くても、アトモンマルガタテントウダマシほどの極小サイズになると、まず白幕上では見つかりません。
灯火採集には、BOX型も併用すべきです。
さて、7月9日にはライトFITを回収しました。
42種が入っていましたが、追加はアオミズギワゴミムシ、ヨツボシミズギワゴミムシ、タナカツヤハネゴミムシ、アカツブエンマムシ、ツマグロスジナガハネカクシ、ヒロエンマアリヅカムシ、スジビロウドコガネ、クシコメツキ、ミカドヒゲブトコメツキ、エノキコメツキダマシ、スジバネキノコシバンムシ、ケシコメツキモドキ、ヨツボシテントウダマシ、ツヤケシヒメホソカタムシ、アカヒメハナノミ、コスナゴミムシダマシの16種だけでした。
このうち、エノキコメツキダマシは比較的珍しい種です。
(エノキコメツキダマシ)
また、スジバネキノコシバンムシは、図鑑類には掲載されていない種です。
西田(2024)の写真と解説を参考にすると、上翅には伏した被毛の中に長い立毛があり、前胸側面には大小の点刻があり互いに繋がっていないので、スジバネキノコシバンムシ tagetodes uenoi Sakaiになるようです。本州、四国、九州、平戸島に分布するようですが、西田(2024)には対馬に近似の別種がいることが示されています。
(スジバネキノコシバンムシ側面、背面)
西田光康, 2024. 西九州と対馬のシバンムシについて. こがねむし, (88): 1-17.
また、ライトFITはその後も設置し7月23日にも回収しましたが、こちらは夏枯れだったのか12種しか入らず、追加もキベリナガアシドロムシとチャイロコメツキの2種だけでした。
(キベリナガアシドロムシ)
朝倉・うきはの溜池の中では、小隈裏溜池が最もアクセスしやすく、また、虫も多いので、9月18日、最後の灯火採集をしました。
もちろん、ライトBOXも併用し、今回は新兵器も投入しました。
7月6日の灯火採集の際、斉藤さんが使用していた400Wのブラックライトで、こちらはライトBOXに使用しました。
このブラックライトについては、次回、紹介します。
(9月18日の小隈裏溜池と、灯火採集)
この日の成果は、灯火採集とライトBOXを併せて59種でした。
先に見つかったオニギリマルケシゲンゴロウが結構沢山飛来したことと、秋発生のゴモクムシ類が大量に飛来したことが特徴です。
追加したのは、ヒラタキイロチビゴミムシ、ハラアカモリヒラタゴミムシ、セアカヒラタゴミムシ、オオマルガタゴミムシ、オオゴモクムシ、オオズケゴモクムシ、ケウスゴモクムシ、ヒメケゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、コゴモクムシ、ケゴモクムシ、トックリゴミムシ、ヒメゲンゴロウ、ウスイロシマゲンゴロウ、ユミセミゾハネカクシ、クビボソハネカクシ、カクコガシラハネカクシ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ、ヒメコガネ、セマダラナガシンクイ、ケナガセマルキスイ、ウスチャケシマキムシ、ジュンサイハムシ、アカコブコブゾウムシなど、24種です。
水物が少し追加できましたが、特筆する種はありません。
結局、池巡りをしてみたものの、他の池も含めて、池ものと言える特筆種はほとんど得られませんでした。
2-3の意外な種と、何より、なぜ池で河川種が採れるのか?という疑問が大きくなっただけです。
小隈裏溜池では、全部で143種もの甲虫を確認することができましたが、そのうち、河川種はクロヒゲアオゴミムシ、ヒメシジミガムシ、コモンシジミガムシ、キベリカワベハネカクシ、チビニセユミセミゾハネカクシ、ユミセミゾハネカクシ、ツマグロスジナガハネカクシ、カワベナガエハネカクシ、ヒラタコガシラハネカクシ、ハンノヒメコガネ、ヒラタドロムシ、キベリナガアシドロムシ、キスジミゾドロムシ、イブシアシナガドロムシ、アシナガミゾドロムシ、タマガワナガドロムシ、ヒメスナゴミムシダマシの、17種(11.9%)です。
それに、前回紹介した堤上池でセマルケシマグソコガネ、キスジミゾドロムシ、イブシアシナガドロムシの3種と、上に挙げたスジミズアトキリゴミムシ、アオヘリホソゴミムシ、ホソチビゴミムシ、キベリカワベハネカクシ、ハンノヒメコガネの5種、
鐘突溜池でカワベナガエハネカクシ、ヒラタドロムシ、キベリナガアシドロムシ、キスジミゾドロムシ、イブシアシナガドロムシ、アワツヤドロムシ、(仮称)マルチビドロムシの7種、
朝田池でホソチビゴミムシ、コモンシジミガムシ、マルチビドロムシの3種の河川種が確認できました。
改めて、これら4つの溜池周辺の地図を見てみましょう。
(小隈裏溜池)
(堤上池)
(鐘突溜池)
(朝田池)
いずれも、1.2km以内に、これらの河川種が生息可能な小河川が存在します。
多分、これら4つの池で得られた河川種は、周辺の河川から飛来したと考えられると思います。
水物の調査を熱心にやられていて、新種もいくつか発見されている三宅さんから、池巡り 1の記事を見られて、以下のようなコメントをいただきました。
「池まわりのL-FITですが、地図をみると小川のような流水があるやに思いました。飛翔力のある流水性甲虫は十分飛来すると思います。田園地帯での予察灯などには流水性甲虫がビックリするほど集まることもあります。」
私も同様に感じています。
流水性の種は、幼虫の生息可能な環境を確保するために、親はかならず遡上して産卵することが知られており、ゲンジボタルなどでは詳細に報告されています。
一昨年、私も筑後川の県境に近いうきは市保木公園で数頭のヒゲコガネの飛来を観察しました。
本種は砂礫の河川敷で発生すると思われますが、保木公園周辺の河川敷はほぼ岩盤で、生息可能な環境は見られません。
砂礫の河川敷があるのは、3-4km離れた筑後川温泉より下流域です。つまりこの距離を何日か掛けて遡上してきたと考えられるわけです。
また、筑後川の近くでガソリンスタンドを経営されている斉藤さんによると、毎年数頭以上、ヒゲコガネの飛来が見られるそうです。
斉藤さんのガソリンスタンドは国道沿いにあり、筑後川の堤防から100m余り離れています。
と言うことは、河川内だけではなく、河川外の周辺地域まで、ある程度無差別に飛来しているわけです。
私はかつて、アセスメント調査の最中に、河川から1km程度離れた丘の上の灯火採集に、おびただしい数のヒメドロムシ類が飛来したのを観察した経験があります。
と言うことは、河川種の成虫は、基本的には遡上拡散するものの、その多くが(あるいは一部が)、発生場所から上流側に向けて、扇型に拡散していって、水気のある場所を探索し、運良く河川に着水したものが産卵し、世代交代するということではないかと想像しています。
その範囲に溜池など止水環境があっても、やはり水気に引きつけられ、着水し産卵するものの、こちらは世代交代できず消滅する、と言うことではないかと思います。
あるいは、タンポポの綿毛種子のようなものと考えても良いかもしれません。
ヒメドロムシ類は多いときは無数に飛来しますので、よけいに、タンポポの綿毛種子を想像してしまいます。
上記、4つの溜池は、河川から1.2km以内ですから、河川種の飛来可能な範囲に入るのでしょう。
つづく