「綾町・照葉樹林探訪」2024 その4

これは、「綾町・照葉樹林探訪」2024 その3の続きです。

8月になって、思った以上に忙しくなり、台風が来たり、お盆やあれこれ行事も増えたことで、思いがけなく間があいてしまいました。残り1回分を何とか終わらせてしまいましょう。前回までに、綾南川エリアと大森岳林道エリアが済んだので、今回は、その他のエリアということになります。

3.その他のエリア

綾町の範囲から上記、2エリアを除いた残りのエリアになります。
採集したのは、概略、照葉樹林と市街地の境界付近(木野田さんは里山エリアと表現しています)と考えていただけば良いと思います。

その他のエリアの地図は次の通りです。

(その他のエリア)

その他のエリア

丁度、このエリアの中央、小高い丘の上にイオンの森という森林公園があります。
山頂には3階建ての櫓が建っています。

(イオンの森の櫓)

イオンの森の櫓

ここに登るとほぼ綾町の全域を眺めることが出来ます。

東南東方向には、綾神社の森と、その後ろに町の中心部の市街地が広がっています。

(イオンの森から綾神社方向)

イオンの森から綾神社方向

また、その逆の西北西方向に大森岳が聳えています。
写真のピークの左後ろにうっすら見えているのが大森岳です。

(イオンの森から大森岳方向)

イオンの森から大森岳方向

北東方向には綾北川、南西方向には綾南川が見えます。

(イオンの森から北東方向)

イオンの森から北東方向

(イオンの森から南西方向)

イオンの森から南西方向

3a. イオンの森 (標高211m)

今坂・國分組は、雨になった6月6日の午後、イオンの森を下見に訪れました。
ここの櫓からは、上に示したように、綾町のほぼ全域を眺める事が出来ます。

翌6月7日、午後から再度、訪れました。

来る途中、道路沿いにシイの花を見つけたので、掬ってみました。
なお、前回同様、綾町初記録の種には和名の後ろに*を付けます。

花からは、ヒメアシナガコガネ、ヒゴシマビロウドコガネ、コイチャコガネ、マメコガネ、クロツヤハダコメツキ、ルリツヤハダコメツキ、アカハラクロコメツキ、クシコメツキ、オオハナコメツキ、ヒメキンイロジョウカイ、アオオビナガクチキ、カトウカミキリモドキ、クリイロクチキムシ、キイロクチキムシが落ちてきました。

また、周辺の林縁を叩いて、サクラコガネ、セアカケブカサルハムシ、シロコブゾウムシ*も採れました。

(ルリツヤハダコメツキ)

ルリツヤハダコメツキ

このうち、ルリツヤハダコメツキは既に綾町の記録があります。
しかし、本種は、そもそも、九州ではブナ帯とその下部で見られる種で、標高200m足らずの、それも、道路脇の畑の縁に生えているクリの花にいるような種ではありません。
この点でも、綾町は特別です。

(追記: 上記、ルリツヤハダコメツキに対する今坂の印象に対して、長らく福岡県の甲虫類の調査をされている城戸さんより、「私はこの種は低地の種と思っていました。私の標本を見ると白髪岳と黒岳、大隅半島の各1頭、後は、県内で城山、久山町、地島、うきは市で、特に城山では山麓の伐採地にたくさんいました(70~80年代)。当時は普通種と感じていました。ただ、最近は急激に数が減少したように思います。うきは市では何十年ぶりかに採集しました。どうも新しい伐採木に集まるような気がします。大平さんも書いてましたが、オスが珍種というのが面白く、うきはのものはオスでした。」とのコメントをいただきました。今坂は本州のブナ帯、九重黒岳、五家荘くらいしか本種を採集したことがありません。また、かつてのベースの長崎県では多良山系のみ、佐賀県では多良と背振山しか分布記録がありません。それで当初のようなコメントになったわけですが、人によって、採れるものも、感じ方もひどく違うものと実感した次第です。読者の皆さんはどう思われますか?)

イオンの森は、名前のように、イオングループが、国内各地で進めている活動の1つです。
綾町の場合は、元々あったスギ植林地を伐採して、雑木を植え、歩道や広場を作り、子供達がオリエンテーリング等の野外活動を行えるよう整備してあります。
木野田さんも、ここの保全活動や子供達の指導に参加されているようです。

(櫓の上から見たイオンの森)

櫓の上から見たイオンの森

ちょうど写真の右手、北東方向から風が吹いていて、吹き上げられた虫が樹蔭に静止していました。

この林縁を叩いていくと結構、虫が見つかり、クビアカモリヒラタゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、ヤマトイクビハネカクシ*、ウグイスナガタマムシ、ヒラタチビタマムシ、ハイイロヒラタチビタマムシ、コバンモチヒラタチビタマムシ、クズノチビタマムシ、コウゾチビタマムシ、キバネクチボソコメツキ、クロハナボタル、ウドハナボタル、クシヒゲジョウカイ*、ササジツツガタシバンムシ*、ヒメホコリタケシバンムシ*、ヒロオビジョウカイモドキ、ナミモンコケシキスイ、ツマグロヒメコメツキモドキ、

キイロテントウダマシ、クロヒメテントウ、コクロヒメテントウ、アラキヒメテントウ*、フタモンクロテントウ、キイロテントウ、ヒメカメノコテントウ、キタツツキノコムシ、ナミアカヒメハナノミ、トゲナシヒメハナノミ*、アワヒメハナノミ、サムライマメゾウムシ*、キボシツツハムシ、ドウガネツヤハムシ、チビカサハラハムシ、カサハラハムシ、キバラヒメハムシ、イチゴハムシ、ニレハムシ、ツブノミハムシ*、クビアカトビハムシ*、コマルノミハムシ、ナトビハムシ*、カシワクチブトゾウムシ、サカグチクチブトゾウムシ、コフキゾウムシ、チビコフキゾウムシ*、チビハナゾウムシ*が落ちてきました。

このうち、シバンムシ類は木野田さん、ベニボタル類は松田さん、ハナノミ類は畑山さんの同定です。

シバンムシを始められた木野田さんによると、シバンムシ類はなかなか難物のようで、外形ではほとんど区別できず、♂交尾器、あるいは、♀産卵管などを確認しないと確実には同定できないそうです。
大部分の種が3mm以下という微小種なので、解剖にもかなりの慣れとテクニックが必要のようです。
その上、国内産既知種80種あまりに対して、未記載種と思われるものが、2-30種は存在しそうで、研究の進展が楽しみです。

そんなわけで、宮崎県でも、綾町でも、記録されている種はごく少数で、さらに、正しく同定されているかどうか、再確認が必要なようです。
ササジツツガタシバンムシは宮崎県と綾町初記録、ヒメホコリタケシバンムシは綾町初記録です。

ササジツツガタシバンムシ Gastrallus sasajiiは、Sakai(2007)によって、大阪府岩湧山産を基に新種記載された種で、本州、四国、九州(福岡市)の記録があります。
コスモポリタン種のフルホンシバンムシに酷似し、西田(2024)は「♂交尾器では2種の区別が良く解らない」と書いています。

Sakai, M., 2007. Gastrallus sasajii, a new Anobiid Species from Japan (Coleoptera, Anobiidae, Anobiinae). Jpn. J. syst. Ent., 13(2): 387-390.

西田光康, 2024. 西九州と対馬のシバンムシについて. こがねむし, (88): 1-17.

Zahradnik, P., 2007. Contribution to knowledge of the tribe Gastrallini (Coleoptera: Bostrichoidea: Anobiidae) – I. New species of the genus Gastrallus from Turkey, with review of the Palaearctic species. Studies and reports of District Museum Prague-East Taxonomical Series 3 (1-2): 171-178

木野田さんが、当地のササジツツガタシバンムシと、都城市高城町産のフルホンシバンムシの♂交尾器の写真、さらに、上記、Sakai(2007)のササジツツガタシバンムシ♂交尾器原図と、Zahradnik(2007)によるフルホンシバンムシ♂交尾器原図を送って下さったので、以下に引用して並べてみます。

(上段、左: Sakai(2007)のササジツツガタシバンムシ♂交尾器原図、右: イオンの森産♂交尾器、下段、左: Zahradnik(2007)によるフルホンシバンムシ♂交尾器原図、右: 高城町産フルホンシバンムシ♂交尾器)

上段、左: Sakai(2007)のササジツツガタシバンムシ♂交尾器原図、右: イオンの森産♂交尾器、下段、左: Zahradnik(2007)によるフルホンシバンムシ♂交尾器原図、右: 高城町産フルホンシバンムシ♂交尾器

こうして並べてみると、左右の♂交尾器は、上段、下段ともにほぼ一致し、また、明らかに上段、下段は別種と考えられるので、イオンの森産をササジツツガタシバンムシと同定して良さそうに思います。

(ヒメホコリタケシバンムシ♂、左から、背面、腹面、♂交尾器)

ヒメホコリタケシバンムシ♂、左から、背面、腹面、♂交尾器

また、ヤマトイクビハネカクシは宮崎県と綾町から初記録です。

(左から、ヤマトイクビハネカクシ、クシヒゲジョウカイ)

左から、ヤマトイクビハネカクシ、クシヒゲジョウカイ

クシヒゲジョウカイ、アラキヒメテントウ、サムライマメゾウムシ、ツブノミハムシ、クビアカトビハムシ、ナトビハムシ、チビコフキゾウムシ、チビハナゾウムシは綾町では初記録ですが、県内各地で記録されていて、普遍的な種です。綾町では、こうした、里山周辺の種の記録が少ない傾向があります。

(左から、サムライマメゾウムシ、チビハナゾウムシ)

左から、サムライマメゾウムシ、チビハナゾウムシ

一方、コバンモチヒラタチビタマムシは既に綾町から記録されていますが、私は初めて採集しました。
名前の通り、コバンモチをホストとし、昨年(2023年)新種記載されたばかりの種です(Kato & Kawakita, 2023)。ホストも含めて、かなり特徴的な種で、九州(佐賀・大分・宮崎・鹿児島)と屋久島から知られています。
アラキヒメテントウもあまり採集した記憶の無い種です。

Kato M. & A. Kawakita, 2023. Diversity and larval leaf-mining habits of Japanese jewel beetles of the tribe Tracheini (Coleoptera, Buprestidae). ZooKeys, (1156): 133-158.

(左から、コバンモチヒラタチビタマムシ、アラキヒメテントウ)

左から、コバンモチヒラタチビタマムシ、アラキヒメテントウ

(訂正; 当初、シロウズヒラタチビタマムシと表示していましたが、堤内さんのご教示によると、昨年、新種記載されたコバンモチヒラタチビタマムシ Habroloma elaeocarpusi Kato et Kawakitaであるとの事で訂正しました。ご教示いただいた堤内さんに厚くお礼申し上げます。)

國分さんは、主に山頂に集まったシジミ類やアゲハ類を観察されていましたが、甲虫でもオオアオモリヒラタゴミムシ、クリイロコガネ、ミドリサルハムシ、マダラアラゲサルハムシ、オキナワトビサルハムシ九州亜種を追加されていました。

次に、イオンの森から眺めた最後の写真の、右手奥が次に紹介する南俣です。
こから、右手に、さらに上流側に進むと、綾大吊り橋、そして、川中ということになります。

3b. 南俣

綾大吊り橋のどれくらい手前か、厳密には線引きしていませんが、まあ、多少とも手前で採集した分を、このカテゴリーに入れています。
地名についても、厳密な字名では、どこからか、北俣から南俣へ、変わってくるようですが、それも区別していません。

ちょっと調べてみたところ、先の地図の綾神社付近に、古代には綾城が築かれ、城を中心にそこから北を北俣、南を南俣と呼んでいたようです。
さらに、綾北川と綾南川で囲まれる地域の外側を入野と言うようですが、現状ではそれらが入り交じっているようです。
字名で地名を示すと、何処の場所を言っているのかかえって解りにくいように思います。

と言う事で、大体の地点を示していると考えて下さい。

南俣では、6月5日の川中への行きがけに、道沿いにクリの花を見つけて掬ってみました。
花が散りかけて遅かったようで、虫の集まりは悪く、オオアオモリヒラタゴミムシ、ヒメアシナガコガネ、コイチャコガネ、ヒメクロコメツキ、ケブカクロコメツキ、キバネクチボソコメツキ、カトウカミキリモドキ、フナガタクチキムシ、キイロクチキムシ、ベニカミキリ、キボシツツハムシ、ルリマルノミハムシ*が採れたくらいです。

また、6月7日には、綾南川へライトFITを掛けに行く途中、再度クリの花を掬い、その後、道沿いにキノコの着いた立ち枯れを見つけてスプレーをしてみました。

クロゲヒメキノコハネカクシ、ケシマルハナノミ、コブマルエンマコガネ、コアオハナムグリ、ウグイスナガタマムシ、クチボソコメツキ、クチブトコメツキ、ヒラタクシコメツキ、オバボタル、ホソホタルモドキ、タイワンチビカッコウムシ、ツヤヒメオオキノコ、コクロヒメテントウ、ミヤマツツキノコムシ、ケナガツツキノコムシ、アマミヒメハナノミ、アワヒメハナノミ、クロホシテントウゴミムシダマシ、キマワリ、ナガゴマフカミキリ、カシノナガキクイムシ*を採っています。

國分さんは、他に、キクビアオアトキリゴミムシ、ツヤヒメオオキノコ、ビロウドカミキリ、ニセビロウドカミキリ、タケトゲハムシ、ヒメコブオトシブミを採られていました。

3c. 綾北川

6月7日、今坂は、大森岳林道からの帰り、綾北川の河川沿いで車を駐め、昼食をとりました。

(綾北川沿いの県道360号線)

綾北川沿いの県道360号線

その後道沿いを少し叩くと、ケマダラマルハナノミ*、ヒメボタル、ツマグロヒメコメツキモドキ、ラミーカミキリ、アカクビボソハムシ、クロウリハムシが落ちてきました。

このうち、ケマダラマルハナノミは、従来は九州(鹿児島)、屋久島、奄美大島、徳之島、沖縄本島から知られていた種で、綾で採れたのにはビックリしました。
勿論、宮崎県と綾町から初記録で、北限記録になります。

(ケマダラマルハナノミ)

ケマダラマルハナノミ

この日、大森岳林道に同行していた大塚・斎藤組も、遅れて下ってきて、彼らも綾北川の川沿いで採集していました。

大塚さんは、メダカチビカワゴミムシ、キンモリヒラタゴミムシ、クズノチビタマムシ、クロハナボタル、キイロテントウダマシ、オオヒラタホソカタムシ、トラフホソバネカミキリ*、ベニカミキリ、アカガネサルハムシ、シイサルハムシ、キカサハラハムシ、ニレハムシ、ナスナガスネトビハムシ*、ルリナガスネトビハムシ、タケトゲハムシ、アカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種、オビモンヒゲナガゾウムシ、キボシメナガヒゲナガゾウムシ、ヒメコブオトシブミ、イヌビワシギゾウムシ、ヒサゴクチカクシゾウムシを採集しています。

同属の珍品、ムモンチャイロホソバネカミキリが綾町では数例記録されているにもかかわらず、トラフホソバネカミキリが綾町初記録とは意外でした。

(トラフホソバネカミキリ)

トラフホソバネカミキリ

綾町特産のオオヒラタホソカタムシを始め、シイサルハムシ、アカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種、オビモンヒゲナガゾウムシなど、綾南川同様の珍しい種が採れることから、綾北川沿いも、もっと、調査する必要があるかもしれません。

(綾北川)

(綾北川)

笹岡さんが、かつて、綾北川の奥でも、興味深い種を採集されていたと聞き及んでいますが、その後、県道360号線は通行止めになって久しいので残念です。

大塚・斎藤組は、翌6月8日も、大森岳林道の帰りに、綾北川で採集されています。
大塚さんの話では、川沿いに良い倒木や立ち枯れが見られたとのことです。

斎藤さんは、この日、ケマダラマルハナノミ*とトラフホソバネカミキリ*、そして、コイチャコガネ、エダヒゲナガハナノミ、マダラニセクビボソムシ*、クビカクシゴミムシダマシ、ムツボシトビハムシ、ウンモンヒゲナガゾウムシを採られています。

コケにつくムツボシトビハムシがいるくらいなので、結構、湿度も高い場所なのでしょう。

また、大塚さんは他に、キボシテントウダマシ、トビイロカミキリ、アカナガクチカクシゾウムシ、オオゾウムシを採られていました。

3d. 綾神社

昨年(2023年7月)、行きやすい割に好成績だったので、今坂は6月5日、綾での採集を始めるに当たって、まず綾神社にライトFITを設置することにしました。

(イオンの森から見た綾神社の森→画面中央、背後に綾の町並み)

イオンの森から見た綾神社の森→画面中央、背後に綾の町並み

(綾神社)

綾神社

ライトFITはなるべく湿気重視ということで、谷間の川が見える場所に3基、そして、駐車スペースのすぐ横、谷を見下ろせる場所に1基の、計4基設置しました。

(設置したライトFIT)

設置したライトFIT

このライトFITは、帰る前日の6月8日に回収しましたが、期待するほど良くはありませんでした。
それでも、ヒメツヤゴモクムシ、ミドリマメゴモクムシ、ウスイロチビホソハネカクシ、ゴホンダイコクコガネ、オオカンショコガネ、サクラコガネ、ツヤコガネ、アシナガミゾドロムシ、ヒゲナガコメツキ、ヒメホソキコメツキ、ヒラタクシコメツキ、クシコメツキ、コヒメミゾコメツキダマシ、ツツガタシバンムシ*、オオナガシバンムシの一種*、デメヒラタケシキスイ*、アカマダラケシキスイ、ウスオビカクケシキスイ、ツヤヒメオオキノコ、マエキミジンムシ*、(仮称)ホソミジンムシ*、クロミジンムシダマシ、ウスチャケシマキムシ、カトウカミキリモドキ、アカホソアリモドキ、 アカバネツヤクチキムシ、ガロアケシカミキリ、トドマツオオキクイムシ、シイノコキクイムシ*、サクキクイムシが入っていて、一応の成果でした。

このうち、コメツキダマシは畑山さん、シバンムシは木野田さんの同定です。

ツツガタシバンムシとオオナガシバンムシの一種は、宮崎県と綾町の初記録になります。

(ツツガタシバンムシ、左から、背面、♂交尾器)

ツツガタシバンムシ、左から、背面、♂交尾器

国内のPriobium属には、オオナガシバンムシ Priobium carpini (Herbst) 北海道,本州,四国,九州; 朝鮮,中国,ロシア,ヨーロッパ、ニセオオナガシバンムシ Priobium persimile Nakane 本州(神奈川・鳥取),伊(御蔵・三宅)、ヒメオオナガシバンムシ Priobium yamashitai Nakane 本州(宮城県金華山),九州(鹿児島稲尾岳)の3種が含まれています。
少なくとも、この属の種は宮崎県から記録されていません。

後2種は中根(1989)で、どちらも♀で記載された種です。前胸背基部の背面への盛り上がり方と側方への張り出し方、上翅の点刻列の具合と縦横の比などで区別されています。

梅沢・宮ノ下・酒井(2013)にオオナガシバンムシの白黒写真が載っていたので、中根(1989)の付図と共に、綾神社産と並べてみました。

(オオナガシバンムシ類)

オオナガシバンムシ類

中根猛彦(1989)日本の雑甲虫覚え書き4. 北九州の昆蟲, 36(1): 1-10.

梅沢謙二・宮ノ下明大・酒井雅博, 2013. 茨城県の市営住宅の一室に発生したオオナガシバンムシ Priobium carpini. ペストロジー, 28(1): 25-27.

写真や図はそれぞれ背面と側面、上段左が綾神社産、右が梅沢・宮ノ下・酒井(2013)によるオオナガシバンムシ、下段左は中根(1989)によるヒメオオナガシバンムシ、右は同じくニセオオナガシバンムシです。

ヒメとニセは、特に側面図で、前胸背基部のとさかのような突起が大きいことが解ると思います。
オオナガシバンムシはこの突起はほとんど目立ちません。
綾神社産は細い体型や、前胸背基部の突起が小さい点でオオナガシバンムシに似ていますが、オオナガシバンムシよりは突出します。
一方、綾神社産の上翅の点刻列はクッキリと深く、この点では、むしろ、ヒメの方に似ています。

結局、木野田さんによると、「本種は近似種との区別が難しく、まだ、種が確定できていない」ということになるようです。

あるいは、国内第4番目の種である可能性もありますが、それより、♀のみで記載されたヒメとニセの♂を確定し、オオも含めた3種の♂交尾器を含めた再検討が重要でしょう。
その上で、綾町産の所属が明らかになるのではないかと思います。

また、ホソミジンムシと仮称した種は、あるいは、オオミジンムシかもしれません。

(ホソミジンムシ)

ホソミジンムシ

デメヒラタケシキスイ、マエキミジンムシ、ホソミジンムシ(オオミジンムシであっても)は、宮崎県と綾町から初記録です。

畑山さんと松田さんも、6月7日から8日にかけて、綾神社にライトFITを設置されました。

畑山さんは、ウスオビコミズギワゴミムシ、ホシボシゴミムシ、ムナビロアトボシアオゴミムシ、アカバヒメホソハネカクシ、コヒゲナガハナノミ、マメフチトリコメツキダマシ、ユアサクロベニボタル、コクロハナボタル、クロハナボタル、ウドハナボタル、ヤククロハナボタル、ツツガタシバンムシ*、ケジロヒョウホンムシ*、ヒラタコメツキモドキ、ヒメオビオオキノコ、ウスチャケシマキムシ、アワヒメハナノミ、キバネカミキリモドキ、アオカミキリモドキ、アカバネツヤクチキムシ、ナガニジゴミムシダマシ、ビロウドカミキリ、ツツゾウムシ、アカナガクチカクシゾウムシを採られていて、上記、オオナガシバンムシの一種*も採られています。

また、松田さんも、他に、クロコガネ、サツマコフキコガネ、アオドウガネ、ドウガネブイブイ、ガロアケシカミキリを採られています。

このうち、畑山さんのベニボタル類は松田さん、ゾウムシ類は的場さんの同定です。

やはり、綾神社は、かなり多くの種が見つかり、それも、川中や大森岳林道と同様の種が見つかるのが特徴です。町中のすぐ近くにあっても、十分に発達した照葉樹林と言えると思います。

松田さんは、ライトFITを設置した6月7日に、ブラックライトでの灯火採集で、クロモリヒラタゴミムシ、タナカツヤハネゴミムシ*、ウスアカクロゴモクムシ、ミドリマメゴモクムシ、キボシアオゴミムシ、ツマアカカワベナガエハネカクシ、オオカンショコガネ、ハラゲビロウドコガネ、ホソサビキコリ、オオハナコメツキ、ベニボタル*、アカマダラケシキスイ、カタモンヒメクチキムシ、ルリツヤヒメキマワリモドキ*、ミカドキクイムシを採られています。

(左から、タナカツヤハネゴミムシ、ベニボタル、ルリツヤヒメキマワリモドキ)

左から、タナカツヤハネゴミムシ、ベニボタル、ルリツヤヒメキマワリモドキ

この3種のうち、タナカツヤハネゴミムシは宮崎県の記録もありません。

前記のように、今坂・國分組は、6月5日に綾神社に出かけましたが、國分さんは、今坂がライトFITを設置している間も、ビーティング等を続けられていました。

國分さんは、コヒゲナガハナノミ、ケジロヒョウホンムシ*、アミダテントウ、フタホシテントウ、ナナホシテントウ、アカバネツヤクチキムシ、サムライマメゾウムシ*、ミドリサルハムシ、ダイコンハムシ*、キバラヒメハムシ、ナスナガスネトビハムシ*、ヒゲナガホソクチゾウムシ、コカシワクチブトゾウムシ*、サカグチクチブトゾウムシを採られています。

(左から、ケジロヒョウホンムシ、ダイコンハムシ、ナスナガスネトビハムシ、コカシワクチブトゾウムシ)

左から、ケジロヒョウホンムシ、ダイコンハムシ、ナスナガスネトビハムシ、コカシワクチブトゾウムシ

これらの種は畑周りや、シイ林に普遍的に見られる種で、綾町ではこれら里山の種の記録が欠けていました。

今坂もライトFIT設置後は周辺をビーティングしたりして、メダカチビカワゴミムシ、アオグロヒラタゴミムシ、カドツブゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、ウスイロヒメタマキノコムシ、ナミツヤムネハネカクシ*、ヒメトラハナムグリ*、ハイイロヒラタチビタマムシ、コヒメミゾコメツキダマシ、ハロルドヒメコクヌスト、ルイスチビヒラタムシ、ムナビロムクゲキスイ*、ハスモンムクゲキスイ、コゲチャミジンムシダマシ、アラキハナノミ、イネゾウムシ*、チビハナゾウムシ*を採っていますが、國分さんと全く種が重複していません。その点も脅威です。

(左から、ナミツヤムネハネカクシ、ヒメトラハナムグリ、ムナビロムクゲキスイ、イネゾウムシ)

左から、ナミツヤムネハネカクシ、ヒメトラハナムグリ、ムナビロムクゲキスイ、イネゾウムシ

このうち、ナミツヤムネハネカクシだけが宮崎県の記録もありません。

また、既に綾町の記録はありますが、アラキハナノミは比較的珍しい種です。
その1で紹介したアカカタハナノミやゼンチハナノミの近縁種ですが、両種のようには派手では無く、地味に金紋を持つ種です。

(アラキハナノミ)

アラキハナノミ

6月8日にはライトFIT回収に綾神社に出かけましたが、國分さんは、その間、ヒメアシナガコガネとヤツメカミキリを追加されていました。

今坂は、ここでも落ち葉を篩って残渣を持ち帰りました。さすがに、川中や綾南川のように、ヤマビルに付かれることはなく、その点では、里山なのかもしれません。

後日、簡易ベルレーゼにかけて、ヒラタキイロチビゴミムシ、コクロヒメゴモクムシ*、クロズホナシゴミムシ、ケシガムシ*、マグソガムシ*、コウセンマルケシガムシ*、ヤマトマンゲツガムシ、ヒサゴムクゲキノコムシ*、シンドシウムムクゲキノコムシ*、オチバヒメタマキノコムシ、ネアカトガリハネカクシ、マメダルマコガネ、ヒメヒラタケシキスイ、コブスジケシキスイ、クロミジンムシダマシ、ホソゲチビツチゾウムシ、オチバゾウムシの一種②、ヒサゴクチカクシゾウムシ、ワタナベヒサゴクチカクシゾウムシ*の19種を抽出しました。

このうち、コクロヒメゴモクムシは宮崎県と綾町の初記録です。

(コクロヒメゴモクムシ)

コクロヒメゴモクムシ

落ち葉篩では、川中から21種、綾南川から15種出ましたので、綾神社の落ち葉もあまり遜色ないようです。
綾神社の林は、結構、成熟した林と思われます。

次に、綾の市街地から、綾南川を渡って南岸の古屋の溜め池、げんだぼの森、三本松橋付近を紹介します。この3地点は隣接していて、1括りにしても良いくらいの近さです。
木野田さんの案内で、今坂・國分組の3名で調査しました。

3e. 古屋の溜め池、げんだぼの森、三本松橋付近

まず、古屋の溜め池から紹介しますが、実際には、この3地点は、まったく逆の、三本松橋から順に調査しました。

古屋の溜め池は標高85m程度、綾の市街地が標高20m前後なので、ほんの少し山手になります。

溜め池の周りはやや公園化されていて、広い草地があり、周囲に雑木が生えていました。
6月6日、当初、湿地性や水生昆虫の可能性を考えて、木野田さんに溜め池を案内していただいたのですが、池の水面は大部分がホテイアオイで覆い尽くされており、湿地物は駄目なようでした。

(溜め池を眺める木野田さんと國分さん)

溜め池を眺める木野田さんと國分さん

気を取り直して、周辺を叩いていきます。

木野田さんは、トビイロマルハナノミ、ヒメアシナガコガネ、ヒメホソキコメツキ、クチブトコメツキ、コヒメミゾコメツキダマシ、キンイロジョウカイ、ヨツボシテントウ、フタモンヒメハナノミ*、アカカタハナノミ*、ゼンチハナノミ*、アマミヒメハナノミ、トゲナシヒメハナノミ*、 (仮称)キイクロヒメハナノミ、アワヒメハナノミ、オキナワカミキリモドキ*、ホソアカクチキムシ、ヤツメカミキリ、シイサルハムシ、スイバトビハムシ*、コカシワクチブトゾウムシ*を採られていました。

このうち、コメツキダマシとハナノミ類は畑山さん、キンイロジョウカイは中村さんの同定です。

キンイロジョウカイやヒメハナノミ類多数を採られているので、アカメガシワの良い花でもあったのでしょう。私は気がつきませんでしたが。

このキンイロジョウカイについて、当初、中村さんも含めて、緑色をしていることから、南九州亜種 ssp. satsumanus Nakane かと思っていました。

(キンイロジョウカイ)

キンイロジョウカイ

調べてみると、南九州亜種は、Suzuyama, Kagoshimaが基産地で、パラタイプとして、佐多岬、霧島山、栗野岳、御池 (以上、全て鹿児島県)が上げてあり、特徴としては、緑色の上翅の色が書かれているだけで、♂交尾器の図もありません(中根, 1988)。

中根猛彦, 1988. 日本の雑甲虫覚え書き 3. 北九州の昆蟲, 35(2): 77-82.

キンイロジョウカイは北部九州産が原亜種とされていて、福岡県などで得られている物は綺麗な青紫色をしています。
これが、九州を南下するにつけ、熊本県あたりから、緑味の強い個体が混じってきて、宮崎・鹿児島県あたりでは大部分が緑の個体ばかりになります。
この点は、ヒメキンイロジョウカイもほぼ同じです。

それで、私は大塚さんと一緒に熊本県のジョウカイボンを纏めた際、熊本県産も、南九州亜種と表示しました。

今坂正一・大塚勲, 1996. 熊本県のジョウカイボン科. 熊本昆虫同好会報, 40(3): 33-71.

しかし、昨年、木野田さんが報告された綾のキンイロジョウカイは、高橋さんの同定で、南九州亜種ではなく、原亜種と表示されています。

木野田毅, 2023. 宮崎県のジョウカイボン科. タテハモドキ, (61): 5-8.

これは私の想像ですが、緑色の上翅の色だけで記載された南九州亜種は、亜種としては無効だと、高橋さんは考えられたのではないかと思います。

(キンイロジョウカイの色彩変異)

キンイロジョウカイの色彩変異

上記写真は綾町産も含めて、中村さんにお願いして、撮影していただきました。中村さんにお礼申し上げます。

写真上段左から、京都産、香川産、ここまでが本州・四国亜種です。上翅基部に金色の光があり、全体鈍い金紫色に見えるのが特徴です。
続いて英彦山産、これが基亜種と考えられます。
右端は黒岳産、ここでは赤金色から濃い紫、青など、金属光沢で可能な千差万別の色が出ますが、他地では余り見ない青味の強い個体を載せてみました。

下段は、左から、大分県緒方町(祖母山系)産、熊本県蘇陽町(現・山都町)長崎鼻産、熊本県白髪岳産です。
大分・熊本両県では紫~青~緑まで、1つの産地で様々な色が出ますが、緑系は主として阿蘇以南で見られます。
最後に、右端は、鹿児島県栗野岳産です。これが南九州亜種とされていたわけで、鹿児島県産はほぼ緑系しか出ません。

以上のように、この種に限っては、色だけでの亜種の設定は難しそうです。

ホロタイプを調べたわけでは無いので、南九州亜種を無効にしてしまうことはできませんが、「とりあえず、宮崎県産について、この亜種名は使わないでおこう」という処置には賛成します。

國分さんはハラアカモリヒラタゴミムシ、ケジロヒョウホンムシ*、ルイスコメツキモドキ、ツマアカヒメテントウ*、ヒメカメノコテントウ、カトウカミキリモドキ、ヤハズカミキリ、ミドリサルハムシ、マダラアラゲサルハムシ、キバラヒメハムシ、アカイロマルノミハムシを採られていたし、

私は他に、ホシハネビロアトキリゴミムシ、チビヒゲナガハナノミ、ミスジツブタマムシ、キバネクチボソコメツキ、クシヒゲジョウカイ*、キアシオビジョウカイモドキ*、キイロアシナガヒメハナムシ、ツヤヒメオオキノコ、アミダテントウ、クロヘリヒメテントウ、ヒメアカホシテントウ、フタモンクロテントウ、ナミテントウ、ヤツメカミキリ、アカクビボソムシ、サムライマメゾウムシ*、サクラサルハムシ*、アオガネヒメサルハムシ、カシワクチブトゾウムシ、サカグチクチブトゾウムシを採集しました。

(左から、キアシオビジョウカイモドキ、サクラサルハムシ)

左から、キアシオビジョウカイモドキ、サクラサルハムシ

キアシオビジョウカイモドキは宮崎県の記録も無く意外ですが、他の近似種と混同されているのかもしれません。

何を叩いても多数のミドリサルハムシとサカグチクチブトゾウムシが落ちてきたのが印象的でした。2種共に綾町では記録されています。
北部九州ではミドリサルゾウムシはそれほど多くはないし、サカグチクチブトゾウムシは採れません。
サカグチクチブトゾウムシの代わりに、ヒレルクチブトゾウムシがサクラなどにいますが、綾町ではヒレルは確認できませんでした。

(左から、ミドリサルハムシ、サカグチクチブトゾウムシ)

左から、ミドリサルハムシ、サカグチクチブトゾウムシ

また、ミスジツブタマムシが採れたのは意外でした。
本種はツル性のオオイタビカヅラがホストですが、綾町でも2-3例の記録しか無さそうです。
久しぶりに、綺麗なヤツメカミキリが採れたのも嬉しかったです。

(左から、ミスジツブタマムシ、ヤツメカミキリ)

左から、ミスジツブタマムシ、ヤツメカミキリ

次いで、げんだぼの森です。
この森は、古屋の溜池のすぐ北西側、350mくらいのところに位置し、元は畑と思われる場所に、雑木を植林して、子供達の観察に供された物と思われます。

(げんだぼの森)

げんだぼの森

6月6日、この森の入り口の道横にアカメガシワの花が咲いていたので掬ってみたところ、ホソコハナムグリとホソクロハナノミ*が入りました。

(道横のアカメガシワの花)

道横のアカメガシワの花

次の三本松橋ではオナガクロハナノミ*が採れていて、ホソクロハナノミと共に、宮崎県・綾町共に初記録です。
いずれも畑山さんの同定です。

(左から、ホソクロハナノミ、オナガクロハナノミ)

左から、ホソクロハナノミ、オナガクロハナノミ

オナガクロハナノミは北海道から九州、屋久島まで、ブナ帯に多い種であり、ホソクロハナノミは本州から沖縄本島まで、むしろ暖地性で、海岸のセリ科の花などに多い種ですが、この2種がほぼ同じ場所(400mほど離れるだけ)で採れたことも興味深いと思います。

畑山さんによると、ホソクロハナノミはクロハナノミ属では最大型で、綾町産は前胸先端から翅端まで約8㎜、オナガクロハナノミは小さく、同じく4.5㎜。
いずれも尾節板は細長く、小楯板は銀白色だそうです。

その後、看板の後の林内に入りましたが、立ち枯れ等も見られ、ハンマーリングで、ハギキノコゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、コヒゲナガハナノミ、クワナガタマムシ、フタモンウバタマコメツキ、クチブトコメツキ、ウスオビカクケシキスイ、ヒメオビオオキノコ、タイワンオオテントウダマシ(幼虫)、モンクチビルテントウ、ツヤケシヒメホソカタムシ、コモンヒメコキノコムシ、コマダラコキノコムシ、クロツヤキノコゴミムシダマシ、アトジロサビカミキリ、アトモンマルケシカミキリ、サムライマメゾウムシ*、アカガネサルハムシ、ミドリサルハムシ、カサハラハムシ、ブタクサハムシ、シリジロメナガヒゲナガゾウムシ、アカナガクチカクシゾウムシ、ヒサゴクチカクシゾウムシ、トホシオサゾウムシ*が採れました。

(タイワンオオテントウダマシ幼虫)

タイワンオオテントウダマシ幼虫

タイワンオオテントウダマシの幼虫も、特徴的な色と形で、すぐ解ります。
当初、鹿児島県で発見された時は、またまた、対馬からとか、台湾からとか、さまざまな議論がありましたが、最近では、ほぼ九州全県で発見されるようになってきているので、九州内でクヌギのホダギか何か、広範囲に流通する物と共に広がっている気がします。

さて、最後に、三本松橋です。ほぼ平地で標高は25mです。
ここは綾町ユネスコエコパークセンター横から、南下し、綾南川を渡る橋が三本松橋です。綾南川の河川敷とその背後の畑・林縁で採集しました。

6月6日、当初、ワンドか、砂礫の河川敷でも見つかれば、川ものを採集しようと出かけてみたのですが、藪が凄くて、河川敷の水辺まで降りることが出来ませんでした。
橋桁の脇には溜まり水の池もできていたので、水網で掬ってみましたが、こちらもカエルとヒメガムシだけでした。

木野田さんは、ヤブジラミの花と畑の周りを叩いて、コアオハナムグリ、クチブトコメツキ、ドウガネツヤハムシ、シイサルハムシ、アオガネヒメサルハムシ、ダイコンナガスネトビハムシ*、アルファルファタコゾウムシを採られていたし、

ナガヒョウタンゴミムシ、アオヘリホソゴミムシ、アカケシガムシ、チビマルガムシ*は水辺で石起しでもやられたのでしょう。

(チビマルガムシ、左から、背面、腹面: 矢印は後胸腹板突起)

チビマルガムシ、左から、背面、腹面: 矢印は後胸腹板突起

國分さんも河川敷や畑の周りの雑木を叩いて、マメコガネ、アカアシオオクシコメツキ、オオハナコメツキ、クロハナボタル、エムモンチビヒメハナムシ*、ツマアカヒメテントウ*、コクロヒメテントウ、ニジュウヤホシテントウ、クリイロクチキムシ、カノコサビカミキリ、アカクビボソハムシ、ヤマイモハムシ、アカガネサルハムシ、マルキバネサルハムシ、ドウガネサルハムシ、ブタクサハムシ、カクムネトビハムシ*、ナトビハムシ*、ヒゲナガアラハダトビハムシ*、コフキゾウムシ、イネゾウムシ*、カナムグラヒメゾウムシ*を採られていました。

(左から、エムモンチビヒメハナムシ、同上翅の拡大、カクムネトビハムシ)

エムモンチビヒメハナムシの名前は、上翅間室の列状の点刻が、見方によってはmの字(矢印)に見えることに由来しますが、よほど良い顕微鏡でないとよく見えません。
そのためか、宮崎県と綾町の記録はありません。
ヨシ・ツルヨシの葉上に普通に見られ、m紋が見えなくとも、細長い体型で同定可能です。
カクムネトビハムシはオカトラノオや水辺に生えるこの仲間をホストにしているようで、私はかなり湿気たところで見ることが多いです。

(左から、ヒゲナガアラハダトビハムシ、カナムグラヒメゾウムシ)

左から、ヒゲナガアラハダトビハムシ、カナムグラヒメゾウムシ

ヒゲナガアラハダトビハムシはヘクソカズラに、カナムグラヒメゾウムシはカナムグラにいて、林縁や畑脇などで見られる種ですが、やや局地的です。
カナムグラヒメゾウムシは宮崎県と綾町の記録はありません。

里山などの身近な場所にいる種でも、その気で注意深く見てみないと、なかなか見つからないわけです。

今坂は、畑の周辺と河川敷で、他にコヨツボシアトキリゴミムシ、キクビアオアトキリゴミムシ、サクラコガネ、コガネムシ、キイロアシナガヒメハナムシ、キイロテントウダマシ、フタモンクロテントウ、ナナホシテントウ、クロミジンムシダマシ、ツヤケシヒメホソカタムシ、オナガクロハナノミ*、(仮称)コシキクロヒメハナノミ*、コクビボソムシ*、キアシクビボソムシ、アトモンマルケシカミキリ、サムライマメゾウムシ*、バラルリツツハムシ、アオバネサルハムシ、サクラサルハムシ*、カサハラハムシ、ツヤキバネサルハムシ、ヤナギルリハムシ、ウリハムシ、モンキアシナガハムシ、ヒメカミナリハムシ、スイバトビハムシ*、ルリマルノミハムシ*、ギシギシクチブトサルゾウムシ*、タデノクチブトサルゾウムシ*、カナムグラサルゾウムシ*、ヒラセクモゾウムシを採集しました。

オナガクロハナノミはススキのビーティング、コシキクロヒメハナノミはヤブジラミの花で採集しています。

オナガクロハナノミはげんだぼの森のところで、ホソクロハナノミと一緒に紹介しました。
コシキクロヒメハナノミは上・下甑島から記録した未記載種です(今坂ほか, 2020)。宮崎県と綾町の初記録になります。

畑山さんの研究で、クロヒメハナノミ種群にはかなり多くの隠蔽種が存在することが判明しています。

今坂ほか(2021)では、畑山さんに、それまでに見つかったクロヒメハナノミ種群を総括していただき、7種を記録しました。
コシキクロヒメハナノミは現状では上・下甑島のみで報告されており、前回報告したコシキオオチャイロコメツキダマシと同様の分布パターン(今坂ほか, KORASANA, (103)投稿中)と思ったのですが、畑山さんによると、コシキクロヒメハナノミは久留米市の筑後川支流、宝満川産も確認されているようです。
あるいは、九州一円の低地に分布している可能性もあります。同定していただき、写真撮影もお願いした畑山さんにお礼申し上げます。

(コシキクロヒメハナノミ、上段は下甑島産、下段は綾町産)

コシキクロヒメハナノミ、上段は下甑島産、下段は綾町産

今坂正一・國分謙一・伊藤玲央・有馬浩一, 2020. 甑島採集紀行2019年夏. KORASANA, (93): 43-108.

今坂正一・國分謙一・和田 潤・築島基樹, 2021. 平尾台で2021年までに確認された甲虫類について-福岡県RDB調査の一環として確認された昆虫類を含む-. KORASANA, (97): 135-198.

今坂 正一・畑山 武一郎・國分 謙一・大塚 健之・堤内 雄二・有馬 浩一・斎藤 猛・和田 潤, 2024. 久留米昆蟲研究會メンバーによる「綾町・照葉樹林」の甲虫調査. KORASANA, (103) 投稿中.

コクビボソムシは、福岡県などではブナ帯から標高4-500m以上の山地で見かける種で、平地では見たことがありません。

スイバトビハムシとギシギシクチブトサルゾウムシは畑の周りのギシギシやスイバなど、タデノクチブトサルゾウムシは多くのタデ科で、カナムグラサルゾウムシはカナムグラに見られる種です。
このうち、ギシギシクチブトサルゾウムシは宮崎県の記録も知られていないようです。

(左から、コクビボソムシ、スイバトビハムシ、ギシギシクチブトサルゾウムシ)

左から、コクビボソムシ、スイバトビハムシ、ギシギシクチブトサルゾウムシ

三本松橋では、やはり、水物や川ものを追加したかったので、6月7日にライトFITを設置しました。

(三本松橋の下に掛けたライトFIT)

三本松橋の下に掛けたライトFIT

6月8日に回収しましたが、國分さんは、この間にバイゼヒメテントウとアオバネサルハムシを採集されていました。

回収したライトFITには、ホソチビゴミムシ、ミドリマメゴモクムシ、コガシラアオゴミムシ*、ミナミウスイロツツハネカクシ、ニセヒメユミセミゾハネカクシ、アカバヒメホソハネカクシ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ、クロコガネ、アカビロウドコガネが採れたくらいで、期待外れでした。

以上、その他のエリアで301種が確認できました。

  1. まとめ

2024年6月3-8日までに、メンバー10名で確認できた綾町産甲虫は、全体で、579種になり、このうち、綾町初記録種は132種でした。
さらに、宮崎県初記録も75種含まれています。

エリアごとでは、綾南川エリアで、同じく、299種中、49種と34種、
大森岳林道エリアで234種中、37種と27種
その他のエリアで301種中、69種と33種です。

(表-1)

表-1

表1を見て下さい。比率的には、大森岳林道エリアで綾町初記録種を見つけると、最も、宮崎県初記録になる可能性が高いと言う事になります。
発達した照葉樹林である中核エリアには、まだまだ、知られていない興味深い種が隠れているということでしょう。

ただ、里山的な一般的な場所での調査が十分でなかったようで、その他のエリアでの綾町初記録種が69種と、飛び抜けて多くなっています。
もちろん、半数以上は宮崎県下から既に記録されている種でしたが・・・。

なお、昨年、当ホームページに連載した、前回、綾町2023年7月の調査結果については、もうすぐ発行予定のKORASANA 103号に、「久留米昆蟲研究會メンバーによる「綾町・照葉樹林」の甲虫調査」として掲載予定です。
KORASANA 103号も是非ご確認下さい。