夏の甑島はライト三昧の7回目です。
2020年7月20-26日に出かけた久留米昆蟲研究會甑島調査の報告の最終回です。
なお、種名の後ろの☆は甑島列島初記録、下甑島初記録は種名の後ろに*印を付けています。
下甑島では22日から有馬、伊藤の二人が加わって、細谷・國分・今坂の5名になりました。
[下甑島 2020年7月22日-26日 有馬・伊藤・細谷・國分・今坂]
前回の弓折牧場では、実は、「離島あるある」の話があります。
自戒を込めて「注意を喚起しておいて欲しい」との、細谷さんからの許可がありましたのでここに書いておきます。
25日午後、伊藤君が手打を探索中、弓折牧場の手前で細谷さんの車が路肩に停まっていたので、採集の調子を伺おうと近くに寄ってみると、細谷さんの車のタイヤがペシャンコになっていたそうです。
(タイヤパンクの車)
7月上旬の大雨の影響で、路肩が崩れていて落石も多かったので、運が悪かったのだろうと思ったそうです。
周辺に細谷さんの姿は見当たらず、携帯の電波も通じない場所だったので、伊藤君は仕方なく採集に戻ったそうです。
細谷さんに詳細を尋ねたところ、以下のように説明していただきました。
「7月25日の午後、弓折牧場の奥まで車で調査に入ったのですが、大雨の影響で道が荒れており、途中で完全に道が崩れていて先に進めなかったため、Uターンして戻りました。
しかし、途中の道が崩れかけたところで、アスファルトの段差にタイヤが引っかかった感触があり、まずいかなぁと思ったら、案の定、弓折牧場を通り過ぎて、手前の林あたりまで来たところで、右前輪のパンクに気づき停車。完全にタイヤがペシャンコになっていました。
あいにく携帯圏外のため、しばらく集落のある方向へ歩いて降りた後、電波を受信できるところから、対応は無理だろうと思いながらもJAFに電話をしてみたが、やはり甑島で対応できるところは無いとの返答でした。
仕方がなく、手打のガソリンスタンド(GS)までテクテク歩いて下り、電波を探し始めてから約1時間後に、やっと修理を依頼できました。
運良くこのGSには、修理のできる方が出勤されていたので、すぐに対応していただけましたが、もし不在だったらいつまでも修理できずに、この後どうなっていたことか・・・。
現場までGSの軽トラで戻って、タイヤを回収してもらい、GSまで持ち帰って修理してもらうことになりました。
この後、現場近くで採集をしつつ待機していると、すでにパンクを目撃していた伊藤さんが通りかかったので状況説明しましたが、同情されつつも面白がられてしまいました。
しばらく経ってからGSの方が戻ってきましたが、タイヤの横の方がやられていて修理不能とのこと。ガソリンスタンドのあり合わせのタイヤを購入してはめることになりました。
(タイヤを外した車)
しかし、このタイヤはインチは同じなのですが薄型タイヤだったため、走行中、微妙に車が傾くという問題がありました。高速道路での運転はやめた方がいいので、本土へ渡った後、川内で再度タイヤを購入して交換してくださいとのこと。二重の出費を被ってしまいました。
とは言え、比較的短時間で修理できたため、その日の夜のライトトラップや、翌日の弓折牧場周辺の調査は継続することができました。
26日にフェリーで串木野に着いた後、すぐに川内のイエローハットで元々のタイヤと同じものを1本購入して交換してもらい、高速道路を経て、無事にその日のうちに帰宅できました。
(教訓)今の車はスペアタイヤを常備していないものが多く、応急キットを使ったとしても長時間は持たないので、離島では別途、スペアタイヤを準備しておいた方が良いかも。」
タイヤパンク事件後での、灯火採集セットずぶ濡れ事件だったわけで、まさしく、泣きっ面に蜂だったんですね。しかし、フォローのできた事故で何よりでした。皆さんも離島の調査では、十分に気をつけて下さい。
○手打 136種(甑島列島初記録23種) 7月22日から25日 伊藤・細谷・國分・今坂
弓折牧場の後、手打の放棄水田で湿地を探してみました。
伊藤君は22日に、この放棄水田のあたりで灯火採集をして、水物や湿地物を沢山採集していたのです。
伊藤君の採集物は70種になり、甑島初記録だけでも16種含まれています。このうち、紹介していないのはムネアカマメゴモクムシ☆、クロズカタキバゴミムシ☆、クビナガゴミムシ☆、マダラコガシラミズムシ☆、アカバクビブトハネカクシ☆、キイロアシナガヒメハナムシ☆、モンチビゾウムシ☆、オオミズゾウムシ☆です。
(ムネアカマメゴモクムシ)
(クロズカタキバゴミムシ)
(クビナガゴミムシ)
本種は本州から琉球まで記録がありますが、九州では長崎、福岡、大分、宮崎などでそれぞれ数少ない記録があり、珍しい種です。
(マダラコガシラミズムシ)
本種は植物が多くて水質の良い浅い湿地で見られます。
(アカバクビブトハネカクシ)
(モンチビゾウムシ)
(オオミズゾウムシ)
いずれも河川などの水辺で見つかる種で、後2種は水田周りなどの植物に着く種です。
その他、興味深い種として、アカヒメヒョウタンゴミムシ☆、ナガマルチビゲンゴロウ、マルケシゲンゴロウ*、チビマルガムシ、キベリカワベハネカクシ、キバネクビボソハネカクシ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ、リュウキュウダエンチビドロムシ、キイロアシナガヒメハナムシ☆、タテスジフトカミキリモドキ☆、ワダカミキリモドキ、ヒメカクスナゴミムシダマシ、ヘリアカゴミムシダマシ、カミナリハムシなどが採れていました。
(ホソチビゴモクムシの近似種☆)
本種については、本シリーズ2回目の上甑島中甑の項で紹介しましたが、さらに、弓折牧場と手打のこの放棄水田でも見つかっています。伊藤君が採った、この場所の個体は10個体余りで、大半を占めます。
上甑島産で紹介した時は、ムネミゾチビゴモクムシとか、クロズアカチビゴモクムシに似ているなどと書いていたのですが、その後、森田さんに送って調べてもらったところでは、まだ詳細は解らないものの、どうも、Acupalpus属の未記載種の可能性があるようです。
ただ、東南アジア産の既知種という可能性もあり、少なくとも日本産既知種でないことは確実で、正体が判明するのが楽しみです。
前夜、伊藤君から、この放棄水田辺りの灯火採集の成果を聞いていたので、行きがけに案内して貰い、場所を確認しておきました。
それで、弓折牧場にトラップを設置した後で、再び訪れ、少し水溜まりを掬ってみました。
しかし、水物はホソセスジゲンゴロウだけで、他に、周辺の草地でクズノチビタマムシ、チャイロヒメハナノミ、アカクビボソハムシ、サカグチクチブトゾウムシ、アルファルファタコゾウムシ、カツオゾウムシ☆、タデノクチブトサルゾウムシ☆を採集しただけです。
(タデノクチブトサルゾウムシ)
ついでに、ライトものを狙ってイエローパンライトFITも設置してみましたが、吹きさらしのことで、翌日、吹き飛んでいて何も採れませんでした。
(放棄水田のイエローパンライトFIT)
國分さんはこの間、付近を歩かれて、アオスジアゲハ、アゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、モンシロチョウ、キタキチョウ、クロマダラソテツシジミ、ヤマトシジミを見られたそうです。
細谷さんは海岸に近いところで、オオハナコメツキ、ムナグロナガカッコウムシ、フタオビミドリトラカミキリ、シリアカマメゾウムシ、クロウリハムシ、サメハダツブノミハムシ、ヒラセノミゾウムシを採られていました。
さらに、伊藤君はこの水田地帯の背後(北側)の樹林で、22日は任意採集をし、地上FITを設置して、25日に回収されたそうです。
22日の任意採集は、落ち葉のリフティングと、立ち枯れ等のスプレーイングだそうですが、32種含まれていました。
その中でも、メダカチビカワゴミムシとテンリュウメダカチビカワゴミムシ☆の近縁種2種が同時に採れていたのが興味深かったです。
(テンリュウメダカチビカワゴミムシ)
本種は本州と九州から知られていますが、九州では宮崎・鹿児島両県のみで記録されています。トカラと徳之島にトカラ亜種が知られているので、どちらか気になったのですが、原亜種の方でした。
さらに、ツノフトツツハネカクシ、イトヒゲニセマキムシ、ヘリアカデオキノコムシ、ミナミヒメミゾコメツキダマシ☆、ツバキヒラタケシキスイ、クロヒラタケシキスイ、アシナガマルケシキスイ、カクモンチビオオキノコ☆、ヒゴノムネビロオオキノコ、オオミジンムシ、キイロアシボソテントウダマシ、コゲチャミジンムシダマシ、クロヒメヒラタホソカタムシ*、ツヤナガヒラタホソカタムシ*、モリモトヒメナガクチキ、アラメヒゲブトゴミムシダマシ、ヒゴキノコゴミムシダマシ*、クロホソゴミムシダマシ、アメイロホソゴミムシダマシ、ホソクビキマワリ、ハネナシセスジキマワリ、ノミヒゲナガゾウムシの一種*、ケナガサルゾウムシも採れています。
イトヒゲニセマキムシについては、彼はあちこちで採っているにもかかわらず、他の誰も採っていません。
ミナミヒメミゾコメツキダマシは本州以南、琉球まで分布し、九州では佐賀・大分・宮崎などで採れています。
オオミジンムシは本州から知られ、四国と九州でも採れているようですが、かなり珍しい種です。下甑島からは既に記録し、結構、いるようです。
ノミヒゲナガゾウムシの一種は、今坂ほか(2020)で、上甑島牧の辻段から報告した種と同じ、未記載種です。
(カクモンチビオオキノコ)
本種は九州の固有種ですが、各県から記録があります。
さらに25日回収の地上FITでも、フジチビヒラタエンマムシ、アカバハネカクシ、マルヒメツヤドロムシ*、コヒメミゾコメツキダマシ☆、モンチビヒラタケシキスイ*、マルキマダラケシキスイ*、キボシテントウダマシ☆、アマミヒメハナノミ、クロチビアリモドキ、ビロウドカミキリ、ツツノミゾウムシ*、ケシクチカクシゾウムシ、サクキクイムシ*などを採られています。
(キボシテントウダマシ)
本種が初記録なのは意外でした。
ライトを付けていないのに、マルヒメツヤドロムシが入っていたのも驚きでした。近くに細流でもあったのかと思って、伊藤君に尋ねてみたところ、「確かに、林内に細流がありました」とのことです。本種も結構、川から出て飛び回るんですね。
それにしても、伊藤君の特に微小甲虫の採集能力には脱帽です。彼が加わるか加わらないかで、成果が全然変わってきます。今後も是非参加して欲しいものです。
さて、25日夜、ナイターで全員雨に濡れて帰宅したのは、前回紹介しました。
私は残ったトラップ回収品などを整理し、他の人は、自分の採集記録等まとめられていたようです。
伊藤君は翌26日は採集をせず、朝一便で帰ることになりました。
細谷・國分・今坂の3名は午後の便なので、お昼までは時間があります。
國分・今坂組は、弓折牧場のベイトとライトFITを回収した後、ほとんど探索していない下甑島北部へ向かいます。
最初に訪ねたのは、有馬さんが23日に灯火採集をされたという、長浜の上の方を横に伸びている林道です。
尾岳の山麓に当たる標高200m前後の所を、ウネウネと北部に延びていて、長浜を眼下に見下ろすことが出来ました。しかし、樹相はもう一つで、余り採集の意欲が湧きません。
ふと看板があり、見ると尾岳登山口とあり、かつての、樫之木児道の跡と書いてあります。ずっと前のまだ、道路がちゃんと整備される前、長浜から尾岳の脇の標高400m近い峠を通り瀬々野浦まで、獣道のような古道を通って、人が往来し物も流通していたのでしょう。昔の島暮らしの大変さに少し思いを馳せました。
(樫之木児道の看板)
○鳥の巣山展望所 17種(甑島列島初記録1種) 7月26日 國分・今坂
それからさらに北上し、こちらも有馬さんが先に訪ねたと言われた下甑島北端の鳥の巣山展望所を見にいきました。眼下に甑大橋が見えます。
(甑大橋を望む)
林縁の花で、アオハナムグリ、シロテンハナムグリ、コシキクチボソコメツキ、ヒロオビジョウカイモドキ*、ナミアカヒメハナノミ、チャイロヒメハナノミ、フタオビミドリトラカミキリが見られました。
下甑島のアオハナムグリは少数しか見てなくて、九州本土産とあまり変わらないという印象があったのですが、ここのは、多少とも腹部は黒化した個体でした。
(アオハナムグリ背面・腹面)
展望所の周りは吹きっ晒しの草地で、カノコユリが沢山咲いています。
(カノコユリ)
草地性のものを期待して、斜面を降りて、あちこち叩いてみましたが、風が強かったこともあり、イクビモリヒラタゴミムシ、クズノチビタマムシ、イガラシカッコウムシ、トビイロヒメハナムシ、アミダテントウ、カワムラヒメテントウ、ツヤキバネサルハムシ、マルキバネサルハムシ☆、オジロアシナガゾウムシ、ムネスジノミゾウムシくらい。
(クズ葉上のオジロアシナガゾウムシ)
また、別の機会に訪れることにしましょう。
○寺家 7種(甑島列島初記録なし) 7月26日 國分・今坂
鳥の巣山展望所からの帰り、海岸近くに溜め池が見えたので、そこまで行ってみようと思いました。
しかし、元の道が完全に藪になっていて、30分ほど藪漕ぎと格闘してみましたが汗だくになったので諦めました。
國分さんがルリナカボソタマムシ、ドウガネツヤハムシ、ブドウハマキチョッキリ、コフキゾウムシを採集されて、私はクズノチビタマムシ、ツヤキバネサルハムシ、アトモンチビカミキリを追加しました。
それから、帰り道の途中、左折して芦浜にも行ってみました。38年前に来たときは、長浜から芦浜までは道がありましたが、ここから北にはありませんでした。
芦浜トンネルから藺牟田までの、ハイウェイのような良い道は、その後作られたものです。
芦浜でも過去には色々採集したように記憶していたのですが、集落周辺を眺めても余り良さそうな感じがせず、眺めただけで通り過ぎました。
帰りのフェリーは長浜港発14時35分なので、まだ多少時間はあったのですが、暑いこともあり、「まあいいか」と言う気分。これで甑島採集、夏の陣はお終いです。
早めに船着き場に行って、前に好評だった冷凍キビナゴのみやげを買い込み、後はフェリーの時間待ちです。待合室で座っていても、さすがに、乗客も係員も全てマスク。島では対応できる病院も無いと思われ、一旦出たらパニックになるのでしょう。久留米などより、よほど、ピリピリしていました。
細谷さんと合流して、フェリーに乗り込みます。
次はまた9月に来る予定で、その時には甑大橋は完成し、上・中・下の甑島がすべて一繋がりで、どこでも自由に行けることになります。
フェリーから、ほぼできあがった甑大橋が良く見えました。
(甑大橋)