4月21日、英彦山行きの2回目です。
この日は、國分さんと、築島君が同行して下さることになりました。
築島君が深倉峡には行ったことがないということで、ナビを兼ねて國分さんは築島君の車に同乗します。
前回同様のルートを辿り、浅羽大橋まで来たところで、カミさんより電話。
何事かと出たところ、忘れ物をしてるとの連絡でした。
「取りに来る?」と言われても、もう30分以上走った後で、とてもその気にはならず、無しで済ませることにしました。
珍しく、前もって玄関先に準備していた採集道具の小袋を、何時もの事ではないので忘れてきたようです。
毒瓶や回収用のタッパー等、予備を車に積んでいるものは代用できますが、デジカメが入っていたのは痛かったです。
ということで、この日の風景写真は撮れず、臨場感がないことはお許し下さい。
必要な写真は別の日に撮影した写真で代用します。
さて、15日と同様、深倉峡の奥、深倉園地まで進みます。
(深倉園地の案内板:4月30日撮影)
この日は、晴れの予報とは裏腹に、途中でパラパラ小雨も降り、スッキリしない天気で肌寒く、虫が飛ぶような感じではありませんでした。
それで、天候や気温に左右されない水辺の落ち葉を狙ったバケツ採集から始めます。
バケツを使った水没採集については、2008年の5月10日から数回にわたって、このホームページ内にアップしています。
採集方法など、併せてそちらもご覧下さい。
バケツを使った水没採集 その1 -渓流性ハネカクシの採集法-
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=58
それにしても、このトピックのアップからもう12年も経つと思うと、ビックリです。
谷間の水際まで降りて、水際の落ち葉を、水で満たしたバケツの中に入れて採集します。
(深倉峡の水辺:4月30日撮影)
このバケツ採集の本当の適期は、落ち葉の量が増える秋です。大量の落ち葉が流れの中の岩などに引っかかった状態がベストです。
(バケツ採集に最適の流れ落ち葉: 2008年秋、以下の写真3点も同じ)
水を張ったバケツと、それにピッタリ口径のあった水切りザルを用意します。
先の写真にあったような落ち葉をバケツの中に投入しかき回します。
その上から、水切りざるで落ち葉を押さえると、ゴミが少ない状態で、表面に浮いてきた虫達を見つけることが出来ます。これを掬い採るわけです。
今回は、ホソミズギワハネカクシとカクムネヨツメハネカクシの一種、ハバビロドロムシ、ヒラタアオミズギワゴミムシ、ガロアミズギワゴミムシ、ヒゲブトハネカクシの一種くらいで、狙っていたミズギワヨツメハネカクシ類(Lesteva属やGeodromicus属、Philydrodes属)は見つかりませんでした。
種数を稼ぐには、もう少し下流の、礫混じりの河川敷がある場所の方が良かったのでしょう。
本種は九州固有種で、主として河川の、流れの中に頭を出した岩などに引っかかった落ち葉の、水上に出た部分に潜んでいます。
正直、この種がムネボソヨツメハネカクシ属 Boreaphilusなのか、カクムネヨツメハネカクシ属 Archaeoboreaphilusなのか、良く解りませんでした。
しかし、渓流の水辺の落ち葉の下にいたという生態から、後者ではないかと考えています。
この属にはまだ、各地に多くの未記載種(新種)が存在するようです。
(訂正. 当初、カクムネヨツメハネカクシの一種と表示していましたが、写真を見られた伊藤さんのご教示によると、前胸が細長いことから、ムネボソヨツメハネカクシ属だろうということです。この属には国内で5種知られているそうですが、このような斑紋のある種は知られていないので、未記載種であろうとのことでした。伊藤さんに感謝いたします。なお、以下の文章は参考程度に読み飛ばしてください。)
本種は頭頂部と上翅に黒紋があり、斑紋のあるArchaeoboreaphilusは知られていないと思うので、この種も未記載種ではないかと思っています。
現在の所、九州産Archaeoboreaphilus属の種としては、宮崎県椎葉・五ヶ瀬・西米良から記載されたタカシカクムネヨツメハネカクシ Archaeoboreaphilus takashii Watanabe 1種が知られるだけですが、この種は全体に黒褐色の種です。
この種は通常、水中の枯れ枝などに掴まって生活している種です。
今回、たまたま、岸部近くの水中の枝も一緒に、バケツに投入したのでしょう。
どちらも渓流の水辺に多い種です。
ただヒラタアオミズギワゴミムシの方は、各地の深山の渓流沿いに、良く似た別の固有種がいるとの話を聞いたことがありますが、良く解りません。
築島君は流水棲ヒメドロムシ類に凝っていて、ここでもふんどし流しをしていました。
何種か採れたようですが、この場所が源流域であることと、それもほとんどの川底が岩板であるためか、あまり個体数も種数も採れなかったようでした。
岩場の谷は動きづらく、落ち葉を拾える範囲も限られていたので、次に、林床の落ち葉を篩うことにしました。
なるべく湿気のありそうな、流れに近い場所の落ち葉を篩います。
こちらは篩って落ちた残渣をビニール袋に入れて持ち帰り、自宅で、簡易ベルレーゼ(水を張った大型ボールの上に、落ち葉を入れた篩いを乗せて、Zライトで照らしたもの)にかけて抽出します。
虫は乾燥を嫌って下に移動し、水中に落下しますので、これを顕微鏡下で、ソーティングします。
まずは左上の4個体、コバネナガハネカクシ類(Lathrobium)です。
左3個体と右1個体が別種のようで、さらに、左端が♂、後は♀です。
(コバネナガハネカクシの一種♂の腹部)
英彦山からは、ヒコサンオオコバネナガハネカクシ Lathrobium hikosanense Watanabeとタカクワコバネナガハネカクシ Lathrobium takakuwai Watanabeが知られています。
上記の♂は、♂腹部の末端から2節目に黒い毛を密生した一対の突起があり、その形からは、上記2種のどちらとも違うような気がします。
また、♀は分類の決め手になる特徴が乏しく、そちらからの同定もできませんでした。
次のツツキノコムシも落葉から出てきました。
ツツキノコムシ類は本来は特定のキノコにつき、幼虫はキノコの中で育ちます。
しかし本種はホストとなるキノコが不明で、偶然枯れ木などから得られるそうです。
山地性で珍しいとも書いてあります。
所謂キノコの形の菌ではなく、落ち葉の中に混じった細枝などに着く菌糸を食べるのかもしれません。
(チビゴミムシの一種 Epaphiopsis sp.)
Epaphiopsis属のチビゴミムシは林床の落ち葉に見られ、落葉下性ゴミムシの代表です。
各地で、多少とも変化していますが、まだちゃんと研究されていません。
英彦山産は、従来は、山口県萩市付近を原産地とするハギチビゴミムシ Epaphiopsis punctatostriata (Putzeys)とされていました。
しかし、どうも違うような気がします。
九州のEpaphiopsis属としては、他には、島原半島にいるウンゼンチビゴミムシ Epaphiopsis unzenensis (Jeannel)のみが種名の決定がなされています。
隣接する多良山系のものはやはり、一時、ハギチビゴミムシとされており、ウンゼンチビゴミムシとは違っていることが解りました。
しかし、英彦山のものとも違うようです。さらに五家荘など熊本県産も違うように見えますし、九州内でいったい何種に別れるのか、混沌としています。
英彦山産も含めて、いつになったら、ちゃんと分類を確立される方が出てこられるものか、待ち遠しいことです。
落ち葉から出てきた甲虫の中で最も個体数が多かったのは、前回、立木の樹幹から出てきたフクオカツヤツチゾウムシでした。
他に、アリヅカムシ、メダカハネカクシ、ヒメキノコハネカクシ類、ナガハネカクシなども出てきましたが、私には同定できません。
落ち葉ものを除いて、午前中に採集した甲虫は以下の通りです。
紹介していない種としては、ハンマーリングやスプレー他で得られた、左上から、ナカジロサビカミキリ、ニホンベニコメツキ、エサキクロモリヒラタゴミムシ、キンモリヒラタゴミムシ、ミヤマジュウジアトキリゴミムシ、ジュウジアトキリゴミムシ、ケシマルハナノミ、イシハラジョウカイ、シマバラクロチビジョウカイ、アオグロツヤハムシなどです。
樹洞のある立木(生木)があったので、樹洞に出入りする種を狙って、FITを下げます。
(樹洞のある立木に吊したFIT:4月30日撮影)
昼食の後、築島君はもう少し水物をやるということで渓流に戻っていきました。
國分さんは林道を下りながら採集するということで、ビーティングしながら歩いて行かれました。
私はというと、車を走らせながら、道沿いにポイントを見つけては、枯れ木や立木を叩き、スウィーピングをし、立ち枯れやコケ蒸した大木などをスプレーしながら、来た道を戻っていきます。
道横の枯れ木と立ち枯れが何本かある場所で車を止めて、枯れ木をハンマーで叩くと、ミヤママルクビゴミムシ九州亜種 Nippononebria chalceola kyushuensis Habuが落ちてきました。
基亜種の分布は本州、四国ですが、本亜種は九州と山口県に分布します。
余り見ないゴミムシダマシですが、英彦山からはすでに記録されています。
柄の無い褐色のキノコから、10個体もが落ちてきました。
(ササカワツツキノコムシ: 頭と前胸の角)
本種は1mmを少し超えるだけの微小なツツキノコムシです。
しかし、つや消しの黄樺色の地に、短い金色の鱗毛が生えていて、とてもお洒落な虫です。
さらに、頭には平たい横長の板状の角があり、前胸にもM字状の角を持っています。
北海道から九州、対馬まで広く分布しますが、少ない種のようで、私自身は初めての採集でした。
城戸さんのリストでも、福岡県の記録は無いようです。
城戸克弥, 2016. 福岡県のゴミムシダマシ上科. KORASANA, (84): 85-154.
その他、キノコから多く落ちてきた甲虫は以下の通り。
左から、ヨツボシヒメナガクチキ、モリモトヒメナガクチキ、ツノボソキノコゴミムシダマシ、アカバヒゲボソコキノコムシ。
葉上からは、クロボツシシハムシ、マダラアラゲサルハムシ、コブアラゲサルハムシ、トゲアシヒゲボソゾウムシが、カエデの花などから、ハヤトニンフジョウカイ、クロニンフジョウカイ西日本亜種、キイロニンフジョウカイ、ウエダニンフジョウカイ、ウスキホシテントウなどが見つかりました。
(ハヤトニンフジョウカイと、クロニンフジョウカイ西日本亜種)
この2種は従来混同されていて、ハヤトニンフジョウカイは一時、クロニンフジョウカイの九州亜種と扱われていたときもありました。
一般に、前種は低地に、後種はブナ帯に分布すると考えられていますが、標高300m余りの低山地である高良山でも両種が見つかっています。
両種は、九州の低地では生態的に棲み分けており、前種はより乾いた明るい環境を主に広く分布しており、後種は湿気が多くより暗い環境を好み、ごく局所的に生息しているようです。
当然湿気が多く樹林が発達したブナ帯では後種がいて、前種はある程度の標高までしか分布しないので、ブナ帯では後種ばかりになります。
(キイロニンフジョウカイと、ウエダニンフジョウカイ)
キイロニンフジョウカイは、ハヤトニンフジョウカイよりさらに明るい環境が好きなようで、草原や河川敷などでも見られます。
深倉峡では、谷の入り口の集落の近くでのみ見つかりました。
ウエダニンフジョカイは北部九州の固有種ですが、分布地域では低山から高山まで樹林の近くならどこでも見られます。
本種は時々見かける程度で、余り多くありません。斑紋の黄色と黒のコントラストが綺麗ですね。
そろそろ帰りの待ち合わせ時間になり、集落の辺りまで来ましたが、國分さんの姿が見えません。
しばらく、集落手前の小さな土場で、材の上に座りながらお茶を飲みつつ待ってみます。
しかし、時間を過ぎても國分さんの姿は見えません。
しびれを切らして、探しに戻ることにしました。
5-6分走った頃、築島君の車と行き交い、見ると助手席に國分さんが乗っています。
やれやれで、先の土場まで戻って、採集の状況を聞いてみます。
築島君の方は、狙ったハバビロドロムシは採れなかったと残念がっていました。
國分さんはそれなりに虫は採れたようで、毒瓶を預かり、いつものように整理しました。
それを並べたのが次の写真。
上段に並んでいる赤い虫はフタホシオオノミハムシです。サルトリイバラがホストですが、私は見なかったです。
その下の赤い虫はカクムネベニボタル、隣はクビボソジョウカイです。
さらに下の緑の虫はケブカトゲアシヒゲボソゾウムシで、山地に行かないとみられません。
私が採っていないアオグロアカハネムシ、ダンダラチビタマムシ、アカガネチビタマムシ、タイワンツブノミハムシ、アケビタマノミハムシ、ヒレルクチブトゾウムシ等も含まれていました。
本種は花に来ますが、赤くもなく、サイズも特別小さいので、これがアカハネムシとは、教えられなければ解りません。
山地性で、余り多くありません。
その他の多くの種は私と採集品が重なります。
近年、國分さんが同行して下さるおかげで、私も山行きの虫取りが出来ていて、感謝感謝です。
最近は、独行の山行き虫取りはカミさんが許可してくれません。
國分さんも同様と言うことで、連れだって出かけているわけです。
今日はさらに築島君が付き合ってくれたので、記念写真(証拠写真)を撮って貰うことにしました。
写真がないと、採集日がいつだったのか解らなくなってしまうからです。
最初に断ったように、今日はデジカメを忘れてきました。
築島君もカメラは持っていなかったのですが、スマホで良い写真を撮っていただいたので紹介しておきます。
築島君に感謝。
(土場の傍らで、今坂・國分)