最新ハムシ事情図説5 ムシクソハムシ属紹介

このシリーズの4は2008年11月の掲載ですから、1年以上、間が空いてしまいました。

ただ、このシリーズの掲載を契機に、「メーリングリストを使用したハムシの情報交換会をやろう」との気運が高まり、複数の方と話していましたが、今年早々には実現することになり、クリ・クラ(Chrysomelid beetles club mailing list)としてスタートしております。

3つ前のトピックに、クリ・クラ入会案内を掲載していますので、興味のある方はどうぞ。

さて、このクリ・クラの中で、数回に分けて、ムシクソハムシ属 Chlamisusの種を紹介しました。

このグループは、黒くて小さく特徴がつかみにくく、おまけに図示されている種が少ないので、同定には苦労されていると思います。
甲虫図鑑IVや木元・滝沢(1993)のハムシ図鑑にも検索表がありますが、種まで落とすのは難しいようです。

今回、上記の検索表を私流に改変し、写真を示しながら絵解き検索として同定のポイントを書いてみました。
ホストを始め、生態、分布等、抜けていることも多いので、新たな情報をお持ちの方はご教示下さい。

コブハムシ属 Genus Chlamisus Rafinesque
世界各地に広く分布し、日本には9種が分布します。

絵解き検索(今坂, 2010. 2 作成)

1. 前胸腹板後突起の側縁は

 先端前で側方に鋭く突出し、矢尻状→2へ進む

 ほとんど平行で、
 側方へは突出せず、単純な棒状→5へ進む

2. 体背面は

 全体黒色で、2.2-2.8mmと小型。
 ヒメコブハムシ diminutus

 体色は赤褐色で、
 暗色の斑紋をまだら状に装う。
 2.7-4.2mmとより大型→3へ進む

3. 体形は

 幅が広く、
 3.5-4.2mmとより大型。
 ハバビロコブハムシ japonicus

 体形はより細く、
 2.7-3.5mmと小型→4へ進む

4. 後胸腹板の後突起は

 ほぼ三角形、その末端はまるい。
 ムシクソハムシ spilotus

 横長の台形、その末端は直線状。
 ツツジコブハムシ laticollis

5. 前胸腹板後突起は

 細長く、前縁の1/5以下。
 先端は細く尖る、琉球産→6へ進む

 より太く、前縁の1/4以上。
 先端は広く丸まる、本土産→7へ進む

6. 前胸背板は

 中央部に浅い縦溝を装い、
 不規則な突起、隆起条を欠く。
 ヤクシマコブハムシ yakushimanus

 中央に縦溝を装い、
 この溝は中央で顕著な横隆起条
 によって中断される。
 アマミコブハムシ geniculatus

7. 前胸背板前部に

 X字状の褐色部隆起を持つ。
 尾節板の側方の縦隆起線は、
 上部1/3付近で中央の
 縦隆起線と連絡する。
 3.5mm〜4.5mmとより大型。
 ツバキコブハムシ lewisii

 褐色部はなく全体黒色。
 尾節板の中央の縦隆起線の両側は
 深い溝となり、
 側方の縦隆起線と連絡しない。
 3.5mm以下で小型→8へ進む

8. フ節は

 黄褐色。2.5-2.8mmと小型。
 前胸と上翅の隆起や溝などの凹凸は弱い。
 カシワコブハムシ consimilis

 黒い。より大型で2.8mm以上。
 前胸と上翅の隆起や溝などの凹凸は強い。
 ミズキコブハムシ interjectus

種の解説

○ヒメコブハムシ Chlamisus diminutus (Gressitt)
大陸から九州までの固有種。
小型で背面は全体黒色。肢は黄褐色の附節を除き暗褐色。触角は黄褐色。
前胸腹板後突起はやや細く、側縁は側方に鋭く突出し、先端は三角形に鋭く尖る。
尾節板の側方の縦隆起は太く、上部1/3のところで内側に強く湾曲し、中央の隆起に連結する。
九州では低地に多く、種々の広葉樹から採集できるが、ホストは不明。

○ハバビロコブハムシ Chlamisus japonicus (Jacoby)
分布:本州(関東以西),九州,天草,屋,奄,石,西
大型で全体ほぼ黄褐色、暗色の斑紋をまだら状に装う。
前胸腹板後突起は幅広く、側縁は側方に鋭く突出し、先端は三角形に尖る。
尾節板の側方の縦隆起は太くて短く、上部1/3のところで内側に強く湾曲し、中央の隆起に連結する。
九州ではシイ林などで採集されるが少ない。ホストは不明。
本土産と琉球産では、印象が若干異なるが、いまのところ、ハッキリ区別できる形質を見いだせない。

○ムシクソハムシ Chlamisus spilotus (Baly)
分布:本州,四国,九州,佐,三宅,対,壱,五,平戸,甑
中型で全体ほぼ赤褐色、暗色の斑紋をまだら状に装う。
前胸腹板後突起はやや細く、側縁は側方に鋭く突出し、先端は三角形に尖る。
さらに、後胸腹板突起は狭くほぼ三角形に突出する。
尾節板の側方の縦隆起は盛り上がりが少なく、長く、上部1/3のところで内側に強く湾曲し、中央の隆起に連結する。
本土産では最も普遍的で、クリ、コナラ、クヌギ、アラカシ葉上などで普通に見られる。

○ツツジコブハムシ Chlamisus laticollis (Chujo)
分布:本州,九州,佐,対
前種よりやや大きく、体幅もより広い。体色は前種とほぼ同様。
前胸腹板後突起は前種より幅広で、側縁は側方に鋭く突出し、先端は三角形に尖る。
後胸腹板突起は、幅が広くて台形に近く、後縁はほぼ直線的。
尾節板の縦隆起は盛り上がりが少なく、側方の縦隆起は太くて長く、上部1/3のところで内側にやや湾曲し、中央の隆起に連結する。
各地の公園、民家の庭、ツツジ園などのツツジ葉上に見られる。低山地のツツジでも見つかるが、野外では比較的少ない。

○ヤクシマコブハムシ Chlamisus yakushimanus Ohno
分布:四国,屋,沖縄,石
小型で赤褐色の肢と触角を除いて、全体黒色。
前胸中央が広い縦溝になっていて、その両サイドも含めて突起がほとんど無い。
前胸腹板後突起の先端部は細長く、両側は平行、先端はやや尖る。
尾節板の両サイドの縦隆起はほぼ直線状で長く、中央の隆起線との間の溝は深く、互いに連絡しない。
かなり珍品で、ホストは不明。

○アマミコブハムシ Chlamisus geniculatus (Jacoby)
分布:九州,種,屋,奄,徳,沖縄
ムシクソハムシなどよりさらに大型、ほぼ全体黒く、頭の前半部、肢は褐色。
前胸中央には縦溝があり、中央付近で横隆起線により二分される。
前胸腹板後突起の先端部は前種よりさらに細長く、両側は平行、先端は尖る。
尾節板の側方の縦隆起は太くて長いが浅く、上部1/3のところで内側に湾曲し、中央の隆起にうっすらと連結する。
沖縄以北の琉球では比較的普通で、ホウロクイチゴ葉上に見られる。

○ツバキコブハムシ Chlamisus lewisii (Baly)
分布:本州,四国,九州,佐,対,五,平戸
本土産では最も大型、ほぼ全体黒いが、頭の前半部、前胸前半部のX字隆起、触角、肢は褐色。
前胸中央には縦溝があり、隆起線で中断されることはない。
前胸腹板後突起は前種とほぼ同じでやや狭い、両側は平行で先端は丸まる。
尾節板の側方の縦隆起は太いが浅く、短くて下縁には達せず、上部1/3のところで内側に強く湾曲し、中央の縦隆起と連絡し、ちょうどX字の様に見える。
本土のツバキ、ヒサカキに比較的普通。

○カシワコブハムシ Chlamisus consimilis (Chujo)
分布:本州(関東以西),九州
前胸中央の縦溝と、その側方に、二股になった溝が、左右一対有る。
前胸・上翅共に凹凸が少なく、やや単純。
前胸腹板後突起は幅広く、先端部へやや広がり、丸みがある。
尾節板の両サイドの縦隆起は短く、側方へ曲がり、中央の隆起線とは連絡しない。
九州では、九重などの高原のカシワ葉上には普通に見られる。

○ミズキコブハムシ Chlamisus interjectus (Baly)
分布:本州 (福島以西),四国,九州,対,平戸,天草,甑
ヒメコブハムシやカシワコブハムシよりは大型。前胸と上翅の隆起や溝などの凹凸は普通。
背面・腹面を含めてほぼ全体黒色。口器やフ節も黒色で、触角のみ褐色。
前胸腹板後突起は前種より狭く、両側ほぼ平行で先端は丸い。
尾節板の両サイドの縦隆起は太く、上部1/3付近で強く湾曲するが、中央の隆起線との間の溝は深く、互いに連絡しない。
ミズキ葉上から採集され、九州ではやや山地性で少ない。

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