和名考 4

<反エコな改名>

和名は変えないで・・・との話を続ける。
昨年、北隆館の昆虫大図鑑II甲虫編が44年ぶりに改訂された。私もホタルモドキ、ホタル、ジョウカイボン、ベニボタルの改訂に参加した。
この図鑑のハムシの項では、ヒゲナガハムシ亜科を中心に、かなり多くの和名が改名されている。

例えば、イタヤハムシがイタヤウスバヒゲナガハムシ、イタドリハムシがイタドリヒゲナガハムシといった具合で、ヒゲナガハムシ亜科に含まれることを強調する意味で、多くのものにヒゲナガを挿入してある。
しかし、イタヤハムシもイタドリハムシもよく知られた種類で、今になって、ヒゲナガハムシを強調する必要は無いように思われる。

このような改名は、門外漢にとっては和名を混乱させ、一般の利用者には長くなった分だけ多くのキーを叩かせ、多くの印字と余分のスペースを必要とするなど、より多くの資源を消費するので、最近、はやりのエコにも逆行するのではないかと思う。

このことに関連して、今から付ける和名は、できるだけ短く、簡潔に命名されることをお勧めしたい。ただし、簡潔に付ける余り、元からある和名を重複して付けないよう注意が必要である。九大総目録では2種同じ和名のものが数組、3種同じ和名のついたものが1組見られる。

地名などを和名に付ける場合でも、例えば、ギフケンタカヤマノオクノタニゴミムシダマシなどと言った、無闇に長たらしい和名はなるべく避け、タカヤマゴミムシダマシあるいはオクノタニゴミムシダマシくらいには縮めたいものである。

経験的に言うと、15字を越える和名は、読みづらいし扱いにくい。リスト作りなど多くの種を扱う場合、煩雑で手間が増える。是非、長くても15字以内を心がけていただきたいものである。
それと、できれば、付けた和名を早口言葉で3度唱えてみて欲しい。言ってみて閉口するようなら、再考した方が良い。

和名は、その種の特徴を叙述に示す名がふさわしいわけだが、一方では単なる符号であるという側面もあるので、多くの人が解り、他の種と区別できれば良いと言えるかもしれない。
虫の和名については、難しく蘊蓄を傾けた長い名前を付けるより、短くて解りやすい、あるいは読みやすい和名を付けた方が良いと思う。

さらに、亜種関係から和名を変更する人もいる。
例えば、かつてアオバホソハナカミキリと呼ばれていた種は、最近の図鑑では、大陸産が原亜種で、日本本土産は亜種として区別されるために、ホンドアオバホソハナカミキリとの和名が提唱された。
これなど、学名と和名を不用意に関連づけた例と考えられる。そもそも、アオバホソハナカミキリという和名が付いていたのは日本本土産であって、大陸産は和名とは無関係であった。
大陸産にどうしても和名を付けて、原亜種であることを強調したいので有れば、アオバホソハナカミキリ原亜種(あるいは大陸亜種)で良いわけである。
元々日本産に付けられた和名を、外国産に転用し、さらに本土産にわざわざホンドという接頭語を付けて、長い和名に改名するのは、いかにも、本末転倒と言えると思う。

和名は国内産につけられた名前で、かつ、その種の学名の変遷とは別次元のものなので、学名の変更に伴う和名の変更は、むしろ慎むべきだと考える。

間違った食草に由来する名前など、明らかに不都合な和名でなければ、できるだけ、古くからみんなが使用している和名は変えない方が良いと思う。長く馴染んできて、名前を聞いただけで姿が思い浮かぶ種など、万一、分類大系の位置がどの様に変わろうと、和名はそのままで良いではないか。

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