2020春の英彦山3の続きです。
深倉園地の周囲の採集場所はポイントが少なく、何処か良い場所はないかと思っていました。
古くからの虫屋に尋ねてみたところ、かつて、深倉峡が伐採中で、珍品がボロボロ得られていた時代の好採集地は、渓流沿いの奥の谷間だと教えていただきました。
それで、沢沿いに遡ってみることにしました。
途中、崩れた斜面を通り過ぎると、昔の道らしきものが現れ、そこを過ぎると、また、斜面に張り付くように細い獣道がありました。
その先の行き止まりから、なんとか沢へ降ります。
川底は岩盤で、滑らないように注意して渡ると、傾斜の緩い谷に出ました。
木は小さいですが、湿気が多く、立ち枯れも多く、自由に動き回れそうで、さっそく、ハンマーリングをしていきます。
5月12日に採集したのは以下の写真のとおり。
ベニヒラタムシ、ヘリアカナガクチキ、ビロウドナガクチキ、モジャモジャツチイロゾウムシ、クモノスモンサビカミキリなどです。
嬉しかったのは、カクモンホソオオキノコ、コモンキノコゴミムシダマシ、マルカブトゴミムシダマシなどが得られたことです。
(左から、カクモンホソオオキノコ、コモンキノコゴミムシダマシ、マルカブトゴミムシダマシ)
特に、コモンキノコは綺麗で、ほとんど採ったことが無く、このこともあって、今後も谷奥にも通おうと思いました。
5月20日には國分さんを案内して、再び行ってみました。
直前の雨で水量が増えていたにもかかわらず、國分さんはキャラバンシューズだったので、渡れるかどうか心配しましたが、なんとか、飛び石伝いに渡れたようです。
フト見ると石垣があり、炭焼き窯の跡も見つかったので、この谷は炭焼き後の二次林であることが解りました。
特に道らしい道はないので、私たち同様、渡沢して来ていたのでしょう。
新顔としては、ナミゲムクゲキスイとトウキョウクモゾウムシが見つかりました。
さて、次にカーネットの紹介です。
先に、カーネットで採れた羽毛足のオドリバエを紹介しましたが、英彦山に来た時は、たいてい取り付けて走っています。
ただ、ちょこちょこ回収するのは面倒なので、せいぜい、午前と午後の2回くらいの回収になります。
このため細かい地点のデータは付けられないので、単に英彦山としています。
次の写真は筑後川河原で写したカーネットの全形です。
園芸用の丸支柱と、直線の支柱、カーテン生地、洗濯ネット、マジックテープ、綿ロープ、などを組み合わせて作りました。
全て100円ショップ製品で、カーテンの縫い合わせはカミさんに頼みました。
車の屋根には、結び用の金具を3個取り付けて、3点を留めるだけで固定でき、取り外しも簡単です。
これを付けて、低速(2-30km)で走れば良いわけです。
(カーネット走行中:写真提供・築島)
カーネットでは高知の富田夫妻が多大な成果を上げられており、色々ご教示もいただきましたが、なかなかうまくいきません。
ただ意外な種が採れること、これでしか採れない種があること、付けても付けなくても走行に影響がないことから、付けないと損な気持ちになります。
もちろん、車の通行が多い一般国道では付けないようにしています。
4月30日には、次のような甲虫が入っていました。
左から、ヒコサンミズギワゴミムシ、トゲマグソコガネ、トドマツオオキクイムシ、ヘリムネマメコメツキ、下段は、ルイスチビヒラタムシ、キバナガヒラタケシキスイ、ネアカトガリハネカクシなど。
ヒゲブトハネカクシとキクイムシが多く入りますが、ほとんど同定できません。
次の1mmちょっとの微小ツツキノコムシは、同定に難航しましたが、オチバツツキノコムシの様です。
本種はキノコには見られず、落ち葉の中から得られるようです。
本種に限らず、落ち葉の虫も結構、空中を浮遊しているものが多く(ムクゲキスイ、アリヅカムシなど)、ビックリです。
さて、深倉峡を後にして英彦山周遊道路へ向かいます。
深倉の集落から右へ入る道があり、前から気になっていたので探索してみました。
途中は大部分がスギ植林ですが、峠の手前に民家が1軒だけ有り、その周りはクヌギと雑木林(常緑樹が主体)に囲まれていました。
峠には立て看板があり、貝吹峠とあります。
昔の、小石原から英彦山へ向かう街道の峠とは、國分さんの解説です。
旧街道は九州自然歩道になっていて、立て看板はそのための表示でした。
さらに、國分さんの解説によると、昔、佐賀の鍋島藩がここを通って銅(かね)の鳥居の資材を運び、建設して、寄進されたとのこと。
この道は、結局、英彦山の周遊道路の旧道入り口付近に抜けており、その後、深倉峡から周遊道路への抜け道として使っています。
5月20日、その民家の近くの雑木林で採集してみようと思いました。
深倉峡の奥は当然落葉樹の林ですが、ここは、常緑樹です。
地名は確認していないので、近くにある貝吹峠を代用します。
なお、この一軒家は、現在は無人のようです。
立木に倒れ掛かった状態の細い枯れ枝(赤矢印)を叩くと、3-5mmの小さいコメツキダマシがバラバラと落ちてきました。
全て、触覚をそろえて前方に突きだした体勢で落ちて来たのが新鮮です。
小さくて、とても自力では種名が解りそうにないので、いつものように、畑山さんに写真を送って尋ねました。
すると、意外や意外、年末に畑山さんの同定で、日本初記録として釈迦岳から記録したばかりのママエフヒメフトコメツキダマシ Bioxylus personatus Mamaevだそうです。
今坂正一・齋藤正治・築島基樹・江頭修志・有馬浩一, 2019. 2018年に採集した釈迦岳の甲虫類. KORASANA, (92): 183-226.
本種の写真が公開されるのは今回が初めてですが、いずれ、畑山さんにより詳しく形態や生態の解説があると思います。ご教示いただいた畑山さんに感謝します。
この常緑樹林の採集品は次の通りです。
タテスジゴマフカミキリ、ドイカミキリ、キイロナガツツハムシ、ヨツボシヒメゾウムシ、ヘリアカナガハナゾウムシなど、多くは、深倉峡で見ていない種ばかりでした。
ここは他と違うものかいるポイントとして、重点採集地になりそうで、さっそく、FITを2基下げることにしました。
貝吹峠から下ると、周遊道路に出ます。少し上ると銅の鳥居です。この横にクヌギ林があり、ちょっとハンマーリングをしてみました。
思った通り、ムツボシトビハムシが落ちてきました。実は、過去にもここで採集していたのです。
この種は元々かなり珍しい種と思われていました。
それを、大分の佐々木さんが、湖畔のサクラ並木の樹幹に付いたコケから多数採集して報告されています。
つまりハムシには珍しく、コケに付くハムシだったわけです。
佐々木茂美, 2013. 2012年に採集した記録しておきたい甲虫. 二豊のむし, (51): 48-58.
ここで採れた甲虫は以下の通りです。
ムツボシトビハムシ以外では、ビロウドホソナガクチキ、ヨツボシテントウ、ケマダラムクゲキスイ、マダラニセクビボソムシ、コクロマルハナノミなど。
最後にスキー場跡です。
5月12日は、國分さんと共に、築島さんが同行したので、彼の案内方々スキー場跡に立ち寄りました。
(築島、國分)
ススキがだいぶ伸びていたので、しばらく叩いてみましたが、モリアオホソゴミムシは見つかりませんでした。
ムネアカクロハナカミキリ、ニシアオハムシダマシ、ズグロツヤテントウ、ツノボソキノコゴミムシダマシなど。
やはり、モリアオホソゴミムシは6月にならないと無理のようです。