越智さんの採集記の3回目。
1回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=176
2回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=177
も併せてご覧下さい。
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石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ類採集記 Part. 3
越智恒夫
<5月8日 今日は採集日和―瓶ヶ森林道のハナムグリハネカクシ>
天気予報によれば、今日は晴れて気温も上がりそうな感じでした。
前回(4/29)の石鎚スカイラインでは低温と強風で最悪のコンディションでしたので、今日はリベンジの意味も込めて瓶ヶ森林道へ出かけて見ることにしました。
この林道は、高知県いの町桑瀬から石鎚スカイラインの終点である愛媛県久万高原町土小屋までの約27Kmを結ぶ山岳道路です。片側一車線ですが全線舗装されています。石鎚スカイラインと同様4月から11月までが通行可能で冬場は通行できなくなります。
家を朝の8時に車で出発、今日は4/22とはコースを変えて寒風山林道は通らず、新寒風山トンネル(全長5,432mあり、道路トンネルとしては日本最長)を抜けて、高知県いの町一の谷側より林道に入ってみました。
4/22に採集した寒風山隧道手前の広場にあったサクラ類の花はすでに散り果てていました。
前二回の調査では、1160mが最も高い地点でしたので、今日はそれ以上の標高を何点か変えて採集し、その違いを調べてみようと思いました。
まずは林道沿いの花を探しながら走りますが、日曜日で天気も良く、対向車がかなり多く、気を使いながらの運転になりました。
しばらく走って標高1250m付近にサクラ類の花をみつけ、早速ネットを取り出して掬ってみました。
花の状態は若干遅く、散る間際のような感じでしたが、それでも14頭ばかりのハナムグリハネカクシ類が得られました。
(得られたハナムグリハネカクシ類、左上から、イシヅチ4♀、その下エヒメが2♀、右上の黄色いのはシコクルイス1♀、その横キイロ1♀、その下はキュウシュウ?6♀)
次に1300m付近ではツツジ類が数本あり、樹が低かったので、ビーティングを試みました。
ここでは20頭程採集することが出来ました。
(ツツジ類で採れたハナムグリハネカクシ類、左の黒いヤツは全部イシヅチ10♂5♀、右上はシコクルイス1♀、その下はキュウシュウ?が2♀、さらにその下の黒いのはエヒメ1♂1♀)
その後は林道沿いにクマザサが広がる環境が多くなり、花がなく、やっとシラサ峠手前の1400m地点にあったツツジ類をビーティングして22頭を得ることが出来ました。
(シラサ峠手前で採れたハナムグリハネカクシ類、上からキイロ12♂1♀、左下からイシヅチ1♀、エヒメ1♀、シコクルイス3♂3♀、キュウシュウが1♂)
時計を見るとちょうど12時前になっていたので、パンを食べながら休んでいると、年配の男女3人が通りかかり、いきなり「タカネルリの採集ですか?」と聞いてきました。
タカネルリクワガタのことなど頭になかったので「エツ?」と少し驚いたのですが、すぐに「いえ、私の調べているのはこんな虫です」と虫の入ったカプセルを見せながら少し説明しましたが、その小ささに驚いた様子でした。
どうもリュックに付けていた野生動植物保護推進員の腕章が目についたようで、その後も虫や花のことなどを色々尋ねられましたが、最後には「ご苦労様です」と言って立ち去りました。
今日はここで引き返すことにしましたが、3地点併せて56頭ほどのハナムグリハネカクシ類を得ることが出来ました。
引き返す途中では所々でビーティングをしてみましたが、やはり時期的に少し早いのか他の甲虫類はほとんど見かけることが出来ませんでした。
旧寒風山隧道まで戻ってきたのが14時30分頃で、帰りは寒風山林道を下ろうと思いながら隧道を抜けました。
4/22に採集した場所よりちょっと下がったところ(1120m)で山吹の黄色い花が目につきました。
たぶん駄目だろうと思いながらネットで掬ってみると、何頭かの黒いハナムグリハネカクシが入っていました。そこで何回か掬って、14頭を得ることが出来ましたが、すべて同じもののようでした。
(ヤマブキの花で採れたイシヅチハナムグリハネカクシ9♂5♀)
今日の採集では思っていたよりも多くのを70頭ほど採集することが出来ましたので、これらもすべて今坂さんにお送りして調べていただくことにしました。
その結果、上記のように、瓶ヶ森林道から5種のハナムグリハネカクシが認められたとの連絡をいただきました。次回はさらに標高を上げて、1500m以上の場所での採集を試みたいと思っています。
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(今坂所見)
各地点でのハナムグリハネカクシ類の種構成は上記の通りです。
1300m地点の採集品の内、イシヅチ♂の中にはエヒメより小さいのがいて、この2種はサイズでは区別できないことが解りました。それでどこが違うのか精査してみましたので、次の写真をご覧ください。
(左:イシヅチ♀、右:エヒメ♂)
左がイシヅチ♀、右がエヒメ♂です。
いろいろ違うところはありますが、最も解りやすいのは、イシヅチは前胸が黒一色で、後角前で波曲して抉れるのに対して、エヒメは前胸側縁は褐色、後角前はほぼ直線的になる点です。この特徴で、かなりはっきり区別できます。
1400m地点ではようやく、キュウシュウ?としていたものの1♂が入っていました。
この♂交尾器を確認して、ほぼ、キュウシュウハナムグリハネカクシ Eusphalerum kyushuense Watanabeと確定しました。
(左:キュウシュウハナムグリハネカクシ♂、中:♂交尾器背面、右:♂交尾器腹面)
1300m付近のツツジ類の花と、寒風山林道のヤマブキの花ではイシヅチが圧倒的に多く、シラサ峠手前のクマザサ環境ではキイロが圧倒的でした。
今坂の経験ではイシヅチのように黒っぽい種は湿気の多い深い渓谷や沢沿いに、そして、キイロやシコクルイスなどの淡色の種は尾根沿いや開けた場所に多いようです。多分、淡色の種ほど、乾燥に強い種と考えられます。
多くの個体が得られた割に、残念ながら今回は種の追加は有りませんでしたが、イシヅチとエヒメの差がハッキリし、キュウシュウを確定させることができました。
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