2007. 3. 3 第6回山口むしの会総会において、山口県の甲虫相について以下のような講演を行ってきました。
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私は、長崎県島原市の出身で、20年ほど、地元の島原半島と、となりの山塊である多良山系で甲虫を採集して調べて来ました。
この写真は雲仙岳の山頂付近です。右側の方に崩れたように見えるのが、ご存じの噴火した平成新山です。左上にあるのが、長崎県南部の地図で、右側下の方が島原半島、その左上が多良山系です。この両地域の甲虫相を調べながらいろいろな事を考えましたが、本日は、その見方で山口県の甲虫相を見ると、どういうことが考えられるか、今後何を調べていけばよいか、ということをお話ししたいと思います。
今日、ここで私がお話しする山口県産甲虫の情報の大部分は、当会の田中 馨さんが集めて下さったものです。そう言う意味で、今日の話は、田中さんとの共同発表ということになるかと思います。また、パソコン入力などのデータの整理について、田中伸一さんにはたいそうご助力頂きました。心からお礼申し上げます。
さて、はじめに、私のベースグラウンドである島原半島の甲虫相の顔ぶれをご紹介します。ここに、主として雲仙岳のブナ帯に分布する種を載せています。左上が、雲仙の固有種 ウンゼンチビゴミムシ、1つおいてとなりが、ウンゼンルリクワガタです。ルリ色が強いのが特徴です。図版に乗っている多くの種は北方系で、山口県にもいる種ですね。
左上のヒミコヒメハナカミキリは、雲仙から多良、そしてその北の八幡岳までの固有亜種です。雲仙山頂には、火山に多いムナコブハナカミキリがいます。セダカコブヤハズカミキリも英彦山あたりまでのものと似ていますが、各地で微妙に違います。あと、イケザキアシブトゾウムシは、雲仙・多良などの固有種と考えていましたが、今回、調べてみると山口県で記録されていました。
島原半島と多良山系、隣り合った山塊で採集をしていますと、片方しか採れない種があることに気が付きます。どうも、採り方がまずいのではなく、片方しかいないようです。20年ほど調べて、どちらも甲虫リストを作ってみるとその事がはっきりしました。これがその比較表です。島原半島が1972種、多良山系が1901種、合わせると2519種で、共通種が1354種、20年調べて共通種は71%にしかなりません。まだまだ調査が足りないようで、実際の共通種率はもっと高いと思います。この表では、だいたい種が多い科から順に並べてまして、赤字は共通率の高い科、青字は低い科です。まあ、青字のものは、調査がたりないということでしょうか。オサムシやジョウカイボン、カミキリムシなど、種数が多くて調査精度が高いと思われる科で90%程度ですから、まあ、そのあたりが真のこの両地域の共通種の率と言うことになろうかと思います。それでも、1割くらいは明らかに違うものがいるわけです。その違いがなんなのか、と考えたわけです。
もう少し範囲を広げて長崎県内を見渡しますと、もう少し明らかになってきます。最初申し上げましたように、ウンゼンチビゴミムシは雲仙にしかいません。ルリクワガタは、雲仙と多良だけが雲仙亜種で、それ以外の東九州では原亜種に含まれます。コナガキマワリはちょっと佐賀県に掛かりますが、ほとんど長崎県内だけです。興味深いことに、後翅が退化していて、近縁種は奄美大島と沖縄本島にそれぞれいます。いかにも、対馬海流に乗って流れてきて、長崎県にたどり着いてから、種分化を起こしたように見えます。ナガサキトゲヒサゴゴミムシダマシも、ほとんど同じ分布域です。ただ、島原半島にはいなくて、本土でも、南端と、北端のあたりではそれぞれ若干違っています。近縁種は五島のゴトウトゲヒサゴゴミムシダマシで、そちらから長崎県本土に渡ってきて、分化したように思えます。
ヒミコの話は先ほどしましたね。この種は脊振山系の九千部山から東が、原亜種です。その下のリョウコジョウカイは、あとでお話しするヤマグチジョウカイの近縁ですが、雲仙から脊振まで分布し、福岡県から東は、別の種になります。右上のイマサカナガゴミムシは雲仙から脊振まで、その近縁のキュウシュウナガゴミムシは脊振で重複して、それから東にいます。その下、タラダケナガゴミムシとヒコサンナガゴミムシも福岡県が境になります。ヒコサンはさらに阿蘇のあたりで、南北に別の亜種になります。つまり、有る地域を境に、分布がとぎれたり、亜種が違ったりする地域があるわけです。この場合、雲仙と多良の間に、そのような境界が存在して、雲仙と多良の甲虫相の違いになっているわけです。
あと、いるいないというだけでなくて、各地にいても、場所により変化している場合もあります。ご存じのセダカコブヤハズカミキリですが、この種は阿蘇のあたりで別れます。南のは一般に黒セダカと言われています。オオトラフコガネは英彦山と九重の間で、別種まで別れています。北の個体群はヒロシマオオトラフコガネからの流れのようです。
ヒメキンイロジョウカイは、九州周辺で驚くほど様々に色が変化します。対馬・平戸・佐世保のあたりは翅端まで濃い紫で、足も黒です。西彼杵半島にいくと生きているときは上翅は緑がかっています。多良山系から足が黄色くなり、翅端に黄色い部分が現れ、島原半島では極端に拡大します。九州山地では、赤紫〜銅〜緑銅色といろんな色が現れ、南九州と甑島・五島では明るい緑になります。
次にジョウカイボンですが、兵庫県以西のものを私はニシジョウカイと呼んで別種と考えています。九州では、足の黒い個体群と、黄色い個体群があり、亜種程度に考えています。だいたい黄色いのは私が住んでいる久留米から九重を結ぶ線より南で出現します。佐賀・長崎と、北九州市では、足は真っ黒です。ところが、その間の三角地帯ではその両方が混じって現れます。中間的な色のものも多く見られます。一度別れたものが、また出会って混じり合っている最中のように見えます。下関では、翅端が黒くなるものが出ますが、その話は後でします。
以上の分布を見ていますと、いろんな種で同じところで種分化を起こしたり、色が変化したりしているのが解ると思います。試みに、この雲仙と多良にいる種とその近縁種で、その境界線を書いてみるとこのようになります。このうち、九州本土内で最も多くの種が別れていたのが、このbの線、次いでaの線です。
このような線を私は分化線と呼ぶことを提唱しました。分化線とは、種が一度その線を越えて分布を拡げた後で、分断隔離されて、種分化を起こした境界線のことです。個体群が何らかの理由で分断隔離される必要がありますので、その理由は地史的なものと考えています。簡単に言うと、その線を境にして、お互いに別の島になったことがあるのではないか、というわけです。
このような線で別れてしまう種群は、特定の種群に限られます。羽が無くて飛ぶことが出来なかったり、ある特定の環境にしがみついて移動するするのをいやがったり、あるいは、ひどく種として変わりやすい性質を持っている種群です。これらの生き物を、「蝶のきた道」など生物地理学の本で有名な日浦 勇さんは、分化型生物と呼びました。植物ではギフチョウの食草で有名なカンアオイ属、それからササ類、動物ではサンショウウオとか、コバネフキバッタの仲間、ササキリモドキの類、そして、先ほどからお話ししているジョウカイボン、ヒサゴゴミムシダマシ、ナガゴミムシ類などがあります。
先ほど九州内での分化線を紹介しましたが、その傍証として、標高200mの地形図を紹介します。海面が200m上昇してしまうと、九州山地は英彦山から霧島山まで、まだほとんど繋がったままですが、佐賀から西の地域は、小さな島が無数に散らばっているのが解ると思います。大きな親島と多島海。どこかの教科書に載っていた話と同じですね。そう、ガラパゴスとまったく同じ構図です。西九州地域で、細かい変異が起こり、多くの分化線が知られていること、多くの種が、福岡・佐賀の境界付近で切れている事が、この図からも納得できると思います。
それから、分布要素として、対馬海流に乗ってやってくる南方系の虫があります。九州では、なぜか南方系の虫が、東側より西側に多く、西側でより北の方まで達していることが多いのです。これを九州西回り分布と呼んでいます。この延長が若干山口県に及んでいるのではないかと思います。南から、海流に乗って分布する種については、暖流に直接洗われるか(島原半島)、内陸側に位置するか(多良)ということでも違ってくるし、そのことで、気候的にも若干の違いがあり、定着できるかどうかと言う問題が出てくると思います。
結局、雲仙と多良の甲虫相の最も違う部分は、分化線の項目で述べた、地史的な問題が最も大きいと思います。雲仙岳は有明海から、海底火山が成長して成立した陸地のようですから、大部分は多良山系を経由して渡ってきたものの、渡れなかった種も数多く存在するようです。南方系の種は、直接対馬海流に洗われる島原半島により多く分布します。
これは、岡山県産のジョウカイボン科甲虫とその近縁種の分布から描いた分化線の図です。岡山県を中心として、いろんな地域に分化線が存在することに気がつかれると思います。これを書いた頃、まだ、山口県の情報をほとんど持っていませんでしたので、山口県内にある重要な分化線が描かれておりません。
その岡山県産を元にして、共通種の比率と、位置関係、距離などを模式的に描いたものです。いろんな分化型生物で比率を出してみても、種群によって、実際の地理とかなり違うことを示しています。例えば、オサムシでは、岡山は九州と差が無く、くっついてしまいました。カミキリでは、それぞれ一定の差はありますが、その差はわずかで、差がはっきりしません。これが、ジョウカイボン科では、かなり地理を反映した差が明瞭になり、特に、ニンフジョウカイ属の亜種を対象とすると、かなりはっきりと、地域によって異なることが明らかになります。つまり、こうした地域の特性を調べる材料として、ジョウカイボン科、特にニンフジョウカイ属は優れているわけです。
さて、お待たせしました。やっと、山口県の話になります。田中さん達に協力して頂いた上に、自身でも採集して持っている情報の一番確かなものは、やはり、ジョウカイボン科なので、まず、これからお話しします。
山口県産のジョウカイボン科は、未記録のものも含めて、41種1亜種が知られています。便宜的に亜種も1つと数えますと、42種になります。隣接する広島県では52種、福岡県では51種が知られており、共通種は、広島県では37種88%、福岡県では29種69%です。調査不足を補正するために、九州全体と比較しても、31種74%ですから、山口県のジョウカイボン相は、圧倒的に広島県に近いということが解ると思います。
次いで山口県産甲虫全体の集計です。この表は、大部分、田中 馨さんと田中伸一さんの作成によるものと考えて下さい。お手元にお配りした資料には、この表を多少変形したものを加えていますのでご覧下さい。今回、山口県産として、甲虫目 108科2905種をリストアップすることができました。この中には、若干、同定が不確かなものなどが含まれていますが、それらは、今後の課題です。
参考に記した広島県は2003年の集計で2920種、福岡県では高倉康男さんが1987年に作られたリストなどで3012種などが判明しています。山口県との共通種は、広島県2232種(76.8%)、福岡県2216種(76.3%)で、ほぼ同様です。しかし、山口県から記録の無い種が、広島県からは688種、福岡県からは798種知られておりますから、広島県の甲虫相がより近いことは明らかなようです。この点は、先ほどのジョウカイボン科の結果と一致しています。
山口県産甲虫のうち、ハネカクシ、カミキリムシ、コメツキムシ、ジョウカイボン、ベニボタル、ゴミムシダマシ、チビシデムシ、ナガクチキムシ、アカハネムシ、オオキノコムシなどの科では、広島県とより共通種が多いようです。これらの科は、だいたいにおいて北方系で森林性の種が多い科と言うことができます。
また、ゾウムシ、ハムシ、デオキノコムシ、チビキカワムシ、カミキリモドキ、ヒゲナガゾウムシなどの科では、むしろ福岡県と共通種が多く、南方系のものが多いようです。
山口県の甲虫相は、今述べましたように、大勢は広島県産と共通で、つまりは本州系の種で占められています。地理的にもそれは当然のことです。
今回は、私が九州の人間ということもあって、特に九州との関わりを中心に述べてみたいと思います。つまり、九州にいるのかいないのか、という観点です。まず、九州にいない種から述べてみます。
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山口産の種の内、九州の分布が知られていない種が268種あります。そのうち、155種は四国の分布も知られていません。次いで、四国にもいる種が、84種です。それから、一番肝心な山口県とその近隣の固有種が29種あります。固有種の種名は資料に書いておきましたが、そのうち、メクラチビゴミムシなど洞穴性の種は、ほとんど、その発見された洞穴だけの記録しか知られていません。また、最近記載されたコメツキやゴミムシ類なども、記載時の資料だけで、県内の分布はまだ明らかになっていません。比較的、同好者の多いセダカコブヤハズカミキリとか、オサムシ類などは、かなり採集されていると思うのですが、これらもまだ、県内の分布を全体として明らかにしたものはないようです。
山口県の固有種については、地元にしかいない虫なので、是非、分布がどうなっているのか、地元の当会会員の皆さんに頑張って調べて頂きたいと思います。一部は、山口県のワクを超えて、島根や広島、岡山付近まで広がっている種も有りそうです。また、今回調べて解ったのですが、四国と山口県だけで記録のある固有種というのもありそうで、この分布もかなり面白そうです。
次いで、山口と九州にいる種です。今回、64種確認されましたが、従来は、大部分が九州、あるいは四国と九州の固有種と思われていた種を多く含んでいます。このうち九州の固有種が35種、四国にもいる種が13種です。これらの種は資料にも載せています。このグループに含まれる種は、大部分が山口県の西半分の地域で発見されており、ある意味では、山口県西部は、本州と九州を繋ぐ陸橋のような立場と考えることが可能です。
さらに、一部に、琉球から対馬海流によって北上した西回り分布の種が見られ、16種が知られています。このような種は直接暖流に洗われる、山口県西部の日本海沿岸で発見されているようです。今回の集計には含まれていませんが、私は宇部市の海岸通りで、オキナワコアオハナムグリを採集したことがあります。この種など暖流に乗って四国南岸や、紀伊半島などまでも北上しているようです。
山口県内の分布調査というと、勢い、東北部の山地を中心に考えがちですが、今後は、西部や沿岸地方の調査も必要になってくると思われます。
山口県には、本州系の種が東から、九州系の種が西から、さらに、四国系の種が南から進出してきたと考えられますが、互いに近縁な種が出会って、混じり合えなくて、分化線を境に2つの個体群が対峙しているような分布が見られます。というより、実際は、分化線の説明でお話ししたように、一度その線を越えて広がった後で、地史的な理由で分断されて、2つの個体群に別れたのかもしれません。山口県内に分布境界を持つ可能性のある種をザッと並べてみました。この他にも、まだ、たくさん有ると思いますので、是非調べてみて下さい。
[img]http://www.coleoptera.jp/uploads/img4614b4fe4cdf3.jpg[/img]ここで赤字で示している種については、若干の資料がありますので、紹介したいと思います。まず、リョウコジョウカイ群の種です。このグループは九州から東北南部まで分布しますが、一つの地域に唯一種のみが分布し、各地で変化します。記載されているのは2種ですが、私の手元に13種あり、近く発表したいと考えています。山口県には、ヤマグチジョウカイが西に、ヒロシマジョウカイが東に分布し、隣接する九州、岡山県にはそれぞれ別の種がいます。それぞれの外見はほとんど同じで、かろうじて♂の交尾器で区別できます。分布図の赤印がヤマグチジョウカイ、青印がヒロシマジョウカイです。資料は十分ではありませんが、山口市付近に分布境界があることが解ります。
次いでクロニンフジョウカイです。原亜種は神戸付近が原産地で、九州南部から九州亜種が書かれています。かつて、下関付近の報告をしたとき、九州亜種がいることに気が付いて報告したのですが、今回資料を見直してみますと、山口県東部の個体群は原亜種の特徴を持っていました。両者は♂交尾器で区別されますが、一見して、原亜種の方が、前胸側縁など黒い部分が多いようです。ヤマグチジョウカイよりさらに東側にずれた分布境界を示します。
さらにトビサルハムシ種群です。九州産も十数年前までは、トビサルハムシとして本州のものと同じく扱われていましたが、昨年急逝された小宮義璋さんが、台湾から九州までのこの種群を再検討されて、九州産はオキナワトビサルハムシの九州亜種ということになっています。本州に広く分布するトビサルハムシの西限は、私自身が報告した広島県西端の十方山付近でした。今回、田中さんに相談して標本を見せて頂いたところろ、両種の分布境界が山口県内にあることが判明しました。山口県西部の個体群はオキナワトビサルハムシ九州亜種で、図の左が該当します。上翅が幅広いこと、紫味が強いことなどで、慣れれば一見して解ります。まだ、検視した標本が多くありませんが、この種でも、分布境界は、山口市付近のようです。
さらに、ミヤマニンフジョウカイですが、この種は本州全域と四国に分布し、九州にはいません。♂交尾器は、東北北部、東北南部、それ以南で大きく違っていまして、東北北部のものは、亜種名がついています。それ以外に、上翅を含む体色が、太平洋側は黒化し、日本海側は白化します。黒化したミヤマニンフジョウカイは一見して先に述べたヤマグチジョウカイとヒロシマジョウカイに良く似ていますので、注意が必要です。この図では描かれていませんが、太平洋岸に位置する四国でも黒化しており、中国地方では、広島県の西部以西で、黒化タイプから白化タイプまで変異が連続して見られます。近畿以西〜中国地方まで、その他の地域では白化タイプしか分布していませんので、山口の個体群は四国産の影響を受けていると考えることが出来ます。今後、山口と四国の関係を考える必要があると述べた根拠の一つです。
最後に、いわゆるジョウカイボンと言われていた種群の話をします。この種群は、ほぼ日本本土の全域に分布していまして、体色は、真っ黒なものから、黒い斑紋を持つもの、全体黄褐色のものなど、地域によっていろんなものが見られます。♂交尾器にも顕著な差があって、私は、兵庫県を境に東のものをジョウカイボン、西のものをニシジョウカイ、神奈川県付近のものをイズジョウカイと別種として考えています。ただ、正式にはこれら3個体群は、亜種として扱われているようです。
さて、九州では、ニシジョウカイの色彩に大きく二型があり、足の黒いものが西九州と北九州に、足の黄色いものが九重以南の中・南九州に分布することを先にお知らせしました。山口産はと言いますと、体勢は上記の足の黒いタイプなのですが、西北部の豊北町〜長門市あたりを中心として、上翅末端が黒色になるつまぐろ型が分布します。つまぐろ型の出現比率は、豊北町〜長門市あたりではほぼ100%で、そこから離れるに従って、出現比率が下がります。日本海沿岸では、島根県の益田市付近でも半数程度出現しますが、東へ向かって減少し、大田市まで行くと見られなくなります。広島県西端の十方山付近では、1個体だけ見たことがあります。瀬戸内海側では、今のところ、秋吉台がつまぐろ型が見つかった東端です。この変異も、瀬戸内海側では山口市あたりに境界がありそうです。面白いことに、近縁の、ニセジョウカイについても、つまぐろ型が出現する2地域で、同様のつまぐろ型の色彩型が得られています。両種間で♂交尾器などまったく異なっているので、交尾が可能かどうか解りませんが、オサムシ類で、異種間にミトコンドリアのDNAが伝染していることが明らかになったように、このつまぐろ型の遺伝子のみが、伝染しているのではないか?、と私は疑っています。ニセジョウカイのつまぐろ型の分布についても、合わせて調査をお願いしたいと思います。
以上の数少ない例から、山口県内の分化線を推定すると、以上の3つが考えられます。このうち、基本線は山口付近にある1の分化線で、その他は、種ごとの事情によって多少その位置が変化するのではないかと考えています。
今後、山口県内に於いて、多くの種の変異と分布を検討することによって、これらの分化線の位置と意義について、より意味のある結論が得られるのではないかと思います。