壱岐の調査 その2 湿地編 再録

本トピックは2009月6月にアップしたものですが、リニューアル時に消失していたので再録します。

壱岐の調査 その1 海岸編の続きです。

引き続き、今回は壱岐の溜め池や放棄水田などの湿地、ヨシ原での結果をお知らせします。

今回お知らせするのは、

17日に採集した神通の辻の溜め池周辺、18日に採集した、中央部の横断道路沿いに東から、梅の木ダム、大清水周辺の湿地、勝本町立石触のヨシ原、そしておまけの、芦辺町八幡浦の宿で行った灯火採集の報告です。

<神通の辻の溜め池周辺>

壱岐の大動脈である勝本と郷ノ浦を結ぶ国道382号線は、大部分が丘陵地の尾根を通っています。

壱岐は平坦な島で、最高地点は200mほどしかないのですが、樹林はほとんど尾根沿いか、屋敷林的な住宅を取り巻くような林で、奥行きは少なく乾燥しています。
ほとんど、杉などの針葉樹植林は見られないので、その点、楽しいのですが、低地や谷には例外なく水田や集落が発達していて、樹影の濃い渓谷は見られず、なかなか、湿気のある林には行き当たりません。

勝本から南下しながら、林などを物色して走っていると、右手に、多少よさそうな谷間が見えました。
早速入ってみると溜め池があり、その岸辺を通り過ぎて、さらに、もう一つ奥に溜め池がありました。
周囲は山林で、溜め池の奥は放棄水田。地図で見ると、神通の辻とあります。

(神通の辻の奥の溜め池)

神通の辻の奥の溜め池

壱岐には、古代の遺跡で有名な、「原の辻」を始めとして、今回採集したところでも、岳の辻、そして、この神通の辻と、○○の辻がいくつか見受けられます。
辻は文字通り、十字路の意味のようで、原の辻は石田町と芦辺町の中間の水田の真ん中、岳の辻は石田町と郷ノ浦町の中間にある峠で、その由来が想像できます。

しかし、この神通の辻は何でしょう?
付近に祠らしきものも見あたりませんでしたが、地図を眺めると、東に神岳という峰があり、西に八幡神社があります。

地図上では、他に、火箭の辻というのも見つかりました。

地名の詮索より、肝心の、虫の報告でした。

溜め池の手前は道沿いでも湿気ていて、タデ類が多く、スウィーピングするとクサイチゴトビハムシ Chaetocnema granulosa (Baly)が見られました。

この種はタデを探すと必ず見られる普通種ですが、図鑑類に全体図が掲載されたことが無いために、テンサイトビハムシなど、他の種と混同されているようです。

(クサイチゴトビハムシ)

クサイチゴトビハムシ

池の周囲の木立には、羽化したばかりのノシメトンボが静止しており、葉を叩くと、ヒシにつくヒシチビゾウムシ Nanophyes japonicus Roelofsが落ちてきました。

(羽化したてのノシメトンボ)

羽化したてのノシメトンボ

池の上流部に廻ると、放棄された畑で、センニンソウが多く、アケビタマノミハムシ Sphaeroderma akebia Ohnoが沢山付いていました。
また、ホオズキの一種には、常連のルリナガスネトビハムシ Psylliodes brettinghami Balyとナスナガスネトビハムシ Psylliodes angusticollis Baly、ニジュウヤホシテントウもいました。

回り込んだ山側の草地は放棄水田のようで、林縁の葉上から、セスジタワラシバンムシ Holcobius japonicus (Pic)や、モモキアリモドキ Anthicomorphus cruralis Lewisが見つかりました。
後者は、クロチビアリモドキに良く似た種ですが、目が小さいので、区別されます。
琉球ではクロチビアリモドキよりむしろ多く見つかりますが、九州では余り見かけません。
記録が少ないのは、クロチビアリモドキと混同されていることもあるようです。

(上:モモキアリモドキ、下:島原半島産クロチビアリモドキ)

モモキアリモドキ
島原半島産クロチビアリモドキ

草地を進んでいくと、一瞬、水中に足がめり込み、あわてて飛び下がりました。
見ると一面ぬかるんでいて、クレソンが密生しています。
葉上にコガネムシが静止していて、目を凝らすと葉には虫の食痕があり、キスジノミハムシが無数にいました。

(クレソン葉上のキスジノミハムシ)

クレソン葉上のキスジノミハムシ

クレソンはセリの仲間とばかり思いこんでいたので、「ダイコンなどアブラナ科をホストとする本種がどうして?」と、思っていましたが、帰宅して調べたところ、クレソンはオランダガラシ(アブラナ科)と載っていました。
虫はホストを間違えないものですね。しばしば、その食草が属する科などを、虫に教わることがあります。

キスジノミハムシは普通種なので適当に採集して、帰宅して検鏡してみると、中にいくつか、丸くて、足の黄色いのが混ざっていました。

さっそく、この類のモノグラフ、Takizawa(2007)を見てみると、チュウジョウキスジノミハムシ Phyllotreta chujoe Madarのようで、もう少し、真面目に採れば良かったと、悔やむコトしきり。
チュウジョウキスジノミハムシもクレソンを食べることは、知られていないようです。

(チュウジョウキスジノミハムシ 上:背面、下:腹面)

チュウジョウキスジノミハムシ背面
チュウジョウキスジノミハムシ腹面

Takizawa, H., 2007. A revision of the genus Phyllotreta Chevrolat in Japan (Chrysomelidae: Alticinae). Ent. Rev. Japan, 62(1): 113-120.

抽水植物も多少見られたので、水網で池の中を掬ってみることも考えたのですが、暑いのと、先を急ぐ気持ちが強かったのとで、とうとう、水網を取り出すことなく、先へ進みました。

<梅の木ダム>

(梅の木ダム周遊道路のガケ)

梅の木ダム周遊道路のガケ

やや大きな農業用のダムと思われ、周遊道路の林縁は比較的湿気があるようでした。
林縁のガケ沿いに草掃き採集をしていくと、草が絡まった枯れ枝から、ツシマサビカミキリ Ropica tsushimensis Hayashiが落ちてきました。

(ツシマサビカミキリ)

ツシマサビカミキリ

本種は、対馬、五島(中通島)、岡山県の牛窓町、犬島、前島などで見つかっています。これに、壱岐を加えると、古代の対馬国、一大(壱岐)国、値嘉島(五島)、吉備(岡山)となり、邪馬台国の頃からの地域交流が考えられます。この種の分布は、薪などを介しての、古代の人為的な分布のような気がします。

シダの一種からはセマルトビハムシ Minota nigropicea (Baly)、マメ科のツルからサムライマメゾウムシ Bruchidius japonicus (Harold)が見つかりました。後者はなぜか、長崎県本土では記録されていません。

(サムライマメゾウムシ)

サムライマメゾウムシ

また、ササの葉を叩くと、エグリクロヒメテントウ Stethorus (Parastethorus) emarginatus Miyatakeが落ちてきました。
ここでは、採集していませんが、壱岐ではシコクフタホシヒメテントウ Nephus shikokensis Kitanoも少ないながら採れ、この2種は、西日本のタケには必ずセットで見られるようです。

メスグロヒョウモンが、イタドリの花や、アカメガシワの花に、次々に飛来していました。

<大清水周辺の湿地>

芦辺港から、勝本町の湯本へ抜ける道を走り、鬼の岩屋の表示のある次の道を右折し、大清水という大きな溜め池に出ようと進んでいきましたが、なぜか、行き止まりになって、溜め池にはたどり着けませんでした。

その手前と思われるところに、径5mくらいの小さな溜め池があり、クロイトトンボ、アオモンイトトンボ、モノサシトンボ、ショウジョウトンボ、ハラビロトンボがいました。

(上:小さな溜め池、下:湿地)

小さな溜め池
湿地

水網でちょっとさぐってみましたが、何も採れず、その上手が湿地状になり、一面にミゾソバが生えていましたが、イチゴハムシとカツオゾウムシがいただけで、何もいませんでした。

葉上から何か一つ、丸い黒点のような虫が採れ、帰ってから調べてみると、ナラツブエンマムシ Anapleus nakanei M.Oharaのようです。
近似種との区別が難しいようなので、解る人に確認して貰う必要があるかも知れません。

(ナラツブエンマムシ? 上:背面、下:後胸側板)

ナラツブエンマムシ? 背面
ナラツブエンマムシ? 後胸側板

<勝本町立石触のヨシ原>

勝本町立石触のヨシ原

ここのヨシ原を見て、「元は、あの山の端まで、全て、広大なヨシ原だったんだろうな」と、思いました。

地図を見ても、結構最近に、堤防を造成して、海から締め切ったような感じがします。
その大部分は畑に造成され、その合間に、ヨシ原が残っている感じです。

「多分、その時は、ヨドシロヘリハンミョウがいたのかもしれないのに・・・」と思って、あちこち、その痕跡を求めて、歩いてみたのですが、まったく見つかりませんでした。

本土でヨシ原があれば、必ず見られるヤマトヒメメダカカッコウムシ Neohydnus hozumii Nakaneもババヒメテントウ Scymnus babai Sasajiも見つからず、汽水域のみに見られるヤマトヒメテントウ Scymnus yamato H.Kamiyaもダメでした。

唯一、やはり汽水域のヨシ原に限ってみられるジュウクホシテントウ Anisosticta kobensis Lewisが採れ、やっと、ヨシ原を探した証拠が見つかりました。
上記の種たちも、なかなか、離島までは進出できていないのでしょうか?

(ジュウクホシテントウ)

ジュウクホシテントウ

畦道のオオバコでオオバコトビハムシ Longitarsus scutellaris (Rey)が、草地のイネ科からヒメドウガネトビハムシ Chaetocnema concinnicollis (Baly)が見つかり、ガマは掬っていませんが、ガマキスイ Telmatophilus orientalis Sasajiが1個体入っていました。

(ガマキスイ)

ガマキスイ

帰宅した後で、神奈川の平野さんからいただいたメールによると、日本産のガマキスイには2種が記録されていますが、さらに、何種かあるそうです。
この壱岐産が何に相当するかは、今後の問題です。
現在、ガマキスイの採集記録と、各地の標本を集めて調査中、ということのようです。

その成果も含めて、先に出された、「日本産ヒラタムシ上科図説第1巻」の続編を次々に出される予定のようなので、興味のある方は、ご協力下さい。

このホームページの「おたより」のところから、今坂まで、連絡頂ければ、平野さんに、中継いたします。

<芦辺町八幡浦>

おまけとして、芦辺町八幡浦にある「かつまる民宿」さんでの、ナイターの結果も報告します。

ご厚意で、二晩、宿のベランダに幕を張り、灯火採集をさせていただきました。

ただ、連日、低温でやや風が強かったためか、甲虫は、ミドリマメゴモクムシ、オオアトボシアオゴミムシ、アオバアリガタハネカクシ、ウスイロマグソコガネ、アオドウガネ、ヤマトアオドウガネ、マダラチビコメツキ、クシコメツキ、カドマルカツオブシムシ、アカマダラケシキスイ、ツマアカヒメテントウ、ズグロカミキリモドキ、キバネカミキリモドキ、ヒゲブトゴミムシダマシ、ヒメカミナリハムシが飛来した程度でした。

海岸のすぐそばで、近くで牛も飼われているようです。

その3につづく