本文は2021年4月30日に投稿したのですが、ホームページ改訂で消失していたので、再録しました。
2021年4月15日から21日まで、國分さんと二人で甑島に出かけましたが、今回は思いの外寒く、強風続きで、おまけに脱輪というトラブルにも見舞われ、思ったほど虫は採れませんでした。
標本の整理もまだちゃんと片付いていませんが、とりあえず、速報ということで写真を並べて、その説明をする形で報告しておきます。
ちょうど、各地で第四波として変異型コロナウィルスが猛威をふるい出し、緊急事態宣言が発出する直前で、そういう意味では島は穏やかでした。
(15日上甑島遠目木山のガレ地にベイトトラップ)
ナガゴミ狙いで掛けてみましたが、チビシデが少し入っただけです。
(チビシデムシの一種)
(15日上甑島遠目木山のライトFIT)
ほとんど蛾のみで、カバイロビロウドコガネとナガハムシダマシくらいでした。
(15日上甑島須口池のイエローパントラップ)
ハナバチとハエが少し。
(15日上甑島牧の辻段でやったライトトラップ)
15度以下の低温で、蛾ばかりで甲虫はゼロ。今峰さん製作の全方位型HIDを試しに点灯してみましたが、非常に明るくて、コンパクト。気温が高いときは効力を発揮するものと思われます。
スクリーンから小さい虫を拾うには紫外線が眩しすぎて、サングラスが必要かもしれません。
(16日民宿みかくの前で記念写真)
10日からオサムシ採集に来られていた和田さんと記念撮影。左から、國分、今坂、和田。撮影者は宿の女将 山下さん。
(16日上甑島牧の辻段のガレ場)
昨年、ここでコイズミコミズギワゴミムシ?とコシキカバイロコメツキが採れたので、ライトトラップとベイトトラップをやってみましたが、全く駄目でした。
(16日中甑島小池)
イエローパンにサツマイモヒサゴトビハムシが入っていました。まだ、報告していませんが、昨年9月、ヒルガオの仲間から、ここで多数採集しています。
(サツマイモヒサゴトビハムシ)
本種もジワジワと分布を広げているようです。
ここでは、枯れ木からチビヒョウタンヒゲナガゾウムシも落ちてきました。
(チビヒョウタンヒゲナガゾウムシ)
(16日中甑島小池の花)
多分、公園化した際、植栽された花と思いますが、各島で一番虫が集まっていた花です。何処でも、ホソヒメジョウカイモドキ Attalus elongatulus Lewisとカイモンヒメジョウカイモドキ Attalus kaimon Nakaneが一緒にいました。
この2種を同時に見たのは、長崎県島原半島の口之津町(1977年)以来初めてです。
(ホソヒメジョウカイモドキとカイモンヒメジョウカイモドキ)
この2種は外見は良く似ていて、カイモンを記載された中根博士も、当初はホソヒメの亜種として記載されています(中根, 1987a)。その後、改めて種に格上げされましたが、その報告(中根, 1987b)中、標本を差し上げた私への言い訳を書かれていて、一人笑ってしまいました。
中根猛彦(1987a)邦産ジョウカイモドキ類の覚え書 II. 北九州の昆蟲, 34(1): 1-5.
中根猛彦(1987b)日本の雑甲虫覚え書 1. 北九州の昆蟲, 34(3): 171-176.
(ホソヒメとカイモンの♂腹節)
2種は、♂腹節末端の背板が、ホソヒメはV字状に2裂して突出する(赤矢印)のに対して、カイモンは通常の種同様、一様に丸まっている(青矢印)ことで区別できます。
両種とも♂交尾器の大半は、中央に剣状に露出しています。
ホソヒメ♂は鞘翅末端に狭く、黄色から透明の部分がありますので、それでも区別できます。
♀同士の区別は難しいですが、それでも、同様にホソヒメは腹節末端の背板中央が抉れ、カイモンは括れていないので区別できます。
個体数は、ここでも、他の地点でも圧倒的にホソヒメが多かったです。
かつて、島原半島の両種を記録した際、カイモンの個体数が多かったため、「全国的なホソヒメの分布は見直しが必要で、かなりカイモンが混ざっているのではないか」という意味の記述をしました。
しかし、その後の調べで、ホソヒメの方が断然分布範囲が広く、むしろ、カイモンは狭いことが解りました。
ホソヒメは黒潮沿いに、屋久島から太平洋岸では九州南部、四国南岸、紀伊半島まで、対馬海流沿いには九州西岸から本州は島根県辺りまで分布し、カイモンは種子島から九州西岸沿いに五島野崎島まで分布します。
この後、この花には注意し、上甑島、中島、中甑島、下甑島全てで、この2種を確認しました。
(キイロムクゲテントダマシ)
小池で掛けておいたライトFITに飛来。従来の記録はトカラ中之島から沖縄までなので、北限記録になります。
また、クリイロコガネも入っていましたが、普通タイプの褐色でした。
(16日中甑島木の口展望所)
ここでは、キイチゴの仲間を叩いてトゲサルゾウの仲間が落ちてきました。
Huang et al. (2014)で確認すると、前胸の括れや肩の張りなどで、アマミキイチゴトゲサルゾウムシ Scleropteroides horridulus (Voss)のようです。本種は屋久島以南と、韓国、中国などで記録されていて、国内では北限記録になります。
(アマミキイチゴトゲサルゾウムシ)
Huang, J., Yoshitake, H., Zhang, R., & M. Ito, 2014, Taxonomic revision of the East Asian genus Scleropteroides Colonnelli, 1979 (Coleoptera, Curculionidae, Ceutorhynchinae). ZooKeys, 437: 45-86.
(16日上甑島中野から小島に通じる林道)
上甑島で最も高い標高(最高地点標高245m)を走る林道。峠近くのライトFITに、ヒメコブスジコガネが入りました。
(ヒメコブスジコガネ)
(16日小島に降りる直前の谷)
林道は小島の集落の手前で、上甑島では希有な渓流を伴う谷を通過します。ここで種不明のヒメゾウムシが採れました。
(種不明のヒメゾウムシ)
また、エゴノキの花にヨツキボシコメツキ(甑島初)もいました。採れた3頭共に上翅の後の紋は消失しています。
(ヨツキボシコメツキ)
(17日上甑町牧の辻段で側溝に脱輪)
上甑島の風車の入り口の空き地に車を停めよう右折したところ、側溝に脱輪。側溝に架かっているフタの縁で、前後2本のタイヤがバーストしました。
(17日レッカー車で駆けつけて下さった平嶺さん)
甑島にはJAFは無いので、宿の女将に電話し、知り合いを紹介して頂いたのですが、土曜日で不在。そこからまた紹介して頂いて、平嶺さんと連絡が付き、駆けつけて頂きました。聞くと宿の女将の知り合いで、親身にお世話いただきました。
車の様子を確認された平嶺さんは、レッカー車が必要と判断され、関連会社に依頼。1時間ほど掛かって、なんとか引き上げて頂きました。
タイヤは2本バーストしていて、在庫を確認されましたが島には無く、本土のメーカーから送っていただくことに。ただ土曜日で連絡がとれないことから、月曜日に連絡し、火曜日までには装着するとのこと。
結局、火曜日までは平嶺さんに軽のワゴンを借りて、採集を続行できました。
重ね重ね、平嶺さんにはお世話になりました。女将さん共々、ありがとうございました。
この日から20日朝まで、この軽のワンボックスカーで走り回りました。
(18日下甑島小牟田での平嶺さんに借りた軽のワンボックスカー)
(18日下甑島小牟田でルリナカボソタマムシのペア)
なぜか、ずっと採れなかった本種が、やっとペアで採れました。
(ツヤナガツツキノコムシ)
枯れ枝のビーティングで落ちてきましたが、四国、九州、対馬の記録があるだけの珍しい種で、当然、甑島初です。
(18日朝、コガネ類の採集とクワガタ等の材採集に訪れた細谷さんと記念撮影)
今回も撮影は宿の女将。
(18日下甑島大崩浜の奇岩)
(18日下甑島藺落の看板)
藺牟田の西側の断崖です。ウミネコの営巣地があるそうで、コブスジコガネ類が採れるかもしれません。
(19日下甑島尾岳の登山口)
前に紹介した登山口とは、また別に表示されました。こちらが大分近い。久留米ではとっくに散っているハクサンボクが咲いていて、チャイロヒメハナカミキリやシロトラカミキリ(甑島初)がいました。
(19日尾岳でスプレー採集)
あまりめぼしいものは採れませんでした。
(20日修理済みの車と落ちた側溝)
修理済みの車を引き取りに上甑島まで行き、改めて落ちた側溝を確認しました。
(20日上甑島牧の辻段のアザミの花に集まるアサギマダラ)
(アザミの花に集まるオオハナアブ)
アザミの花には無数のアサギマダラが集まって吸蜜していました。しかし、他に見たのは、チャバネセセリ、イチモンジセセリ、ヤマトシジミ、アオスジアゲハ、カラスアゲハ、タテハモドキ、ルリタテハ、アカタテハくらい。
(20日里の町を見下ろす)
(20日中島の岩の広場1)
甑島列島は上甑島、中島(なかのしま)、中甑島、下甑島と4島が橋で繋がっています。
中島は上甑島と中甑島の間にありますが、ごく小さい無人島で、長径が1km程度、縦断する海岸沿いの道路沿い以外、脇道は無いので、採集はまったくしておりませんでした。
甲虫ではヒラタクワガタが唯一記録されているようで、ここでの採集品は全て初記録になります。
ほぼ島の中央に岩の広場という公園があり、前述の虫の集まる花が植栽されていたので、叩いてみました。
(20日中島の岩の広場)
予想通り、カイモンヒメジョウカイモドキとホソヒメジョウカイモドキを始め、オキナワコアオハナムグリ、ヒラタハナムグリ、ヒメアシナガコガネ、セボシジョウカイ、キイロニフジョウカイ、ハヤトニンフジョウカイ、マルクビクシコメツキなどがいました。
花の次に林縁を叩いていたら、見慣れないハムシが落ちてきて、老眼で良く見えない中でも、ひょっとしたらと、胸が高鳴りました。
(ハムシが落ちてきた林縁の茂み)
宿に戻って顕微鏡で確認して、1965年に小宮さんが下甑島手打で採集して(原記載では1964年採集と誤記)、1966年に大野正男博士によって新種記載されたコミヤクビボソトビハムシ Pseudoliprus komiyai Ohnoであることを確信しました。
なんと、甑島固有種の56年ぶりの再発見になります。
Ohno Masao, 1966. Supplementary notes on the genus Pseudoliprus of Japan (Coleoptera: Chrysomelidae-Alticinae). Trans. Shikoku Ent. Soc., 9(2): 44-46.
(中島で採集したコミヤクビボソトビハムシ)
帰宅して比較確認のために、手元の標本を見直してみたところ、2度ビックリ!!、小宮さん採集のパラタイプ♂♀が標本箱から見つかりました。
小宮さんは、かつて、何度か島原の私の実家を訪ねられて、夜っぴて虫談を続けて楽しく過ごしましたが、いつか持参されて恵与されていたのでしょう。
(コミヤクビボソトビハムシ手打産パラタイプ♂)
本種はクビボソトビハムシに良く似ていますが、前胸はより太くツヤがあり、後腿節は黒褐色、頭・前胸・上翅は黒色で、色彩変異は知られていません。
一方、近縁のクビボソトビハムシの後腿節は黄褐色で、また色彩変異が多く、前胸や上翅がそれぞれ黄褐色や黒褐色になる型があります。
原記載には♂交尾器の絵があるだけなので、全形図が図示されるのは初めてと思います。
ところで、木元・滝沢(1994)の、日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説のクビボソトビハムシ属の解説には、コミヤクビボソトビハムシは掲載されていません。
しかし、チェックリストの320ページの末からはPseudoliprus komiyaiとして掲載されています。また、解説のクビボソトビハムシの分布には甑島が分布に上げられています。木元博士は多分、コミヤクビボソトビハムシのタイプ標本を調べられる機会が無かったのだろうと思われます。
小宮さん自身、甑島の報告(小宮,1968)で、クビボソトビハムシを上甑島中甑で、コミヤクビボソトビハムシを下甑島手打で採集し、2島で近縁種が棲み分けていて興味深いと書かれています。
小宮義璋, 1968. 鹿児島県甑島のハムシ類. 北九州の昆蟲, 14(2): 37-42.
今回、コミヤクビボソトビハムシは上甑島の目と鼻の先である中島と下甑島で採集しましたが、上甑島ではどちらも採集できませんでした。
今回の甑島採集の概要は以上の通りです。
甑島は私の地元、久留米よりはだいぶ南に位置し、今年の春は、桜の開花も10日以上早かったので、あるいは、5月の連休後くらい気候を予想して出かけたのですが、案に相違して、むしろ、4月初旬くらい、2週間ほど戻った程度の気候で、特に夜は寒いくらいでした。
周囲を海で囲まれている小島では、容易に暖まらない海水温の影響で、緯度から想像した以上に春の訪れは遅いもののようです。
21日の最終日、いつも下甑島の宿としてお世話になる、手打のきまま館の西手さんのところに、カギを返して、支払いを済ませに行ったところ、思いがけずおみやげまでいただきました。
(きまま館の西手さんが営まれている喫茶・軽食α夢)