さて、話を22日に戻します。
大森岳林道の後は、木野田さんに、午後3時過ぎから、こちらもメインの採集地、綾南川沿いのエリアを案内していただきました。
綾の大吊り橋に近づいてくると、綾南川の左岸の斜面は全面、見事な照葉樹林に覆われています。
(綾南川の左岸斜面)
これほど纏まった手つかずの照葉樹林は他では見られません。
(綾南川の照葉樹林)
県道沿いでも立ち枯れや倒木、枯れ木が多く、車が駐められるカーブの広場ごとに、ライトFITを設置していきます。
(ライトFIT設置1)
(ライトFIT設置2)
(ライトFIT設置3)
畑山さんは前日(21日)入りしているので、木野田さんに案内していただいて、既に、県道沿いと、緩やかな斜面に、川近くまで数基、ライトFITを仕掛けられていたようです。
とりあえず、回収し、再設置されていました。トラップの成果は以下の通りです。
(畑山さんのトラップの成果)
ゴホンダイコク、サツマコフキ、カミヤビロウド、マルガタビロウド、ツヤなどのコガネ類、キベリナガアシ*、キスジミゾ*、イブシアシナガ*、ツヤ*などのドロムシ類、トゲバゴマフガムシ*、ツマアカナガエハネカクシ、オオクシヒゲ、アラハダチャイロ、チャイロ、クシなどのコメツキ類、オバボタル、ヒラタコメツキモドキ、ルリゴミムシダマシ、ノコギリカミキリ、トガリシロオビサビカミキリ、オオゾウムシ*などが入っていました。
なお、上記以降、種の後ろに*印があるものは、綾町から記録が無いと思われる種です。
ただ、このベースにした綾町のリストは、綾町の甲虫が集中して記録されている、宮崎昆虫同好会の会誌・タテハモドキの52号(2016年)から60号(2023年)まで(42編)と、2020年に編纂された宮崎県昆虫目録(岩崎編集・今坂監修)で作っていますので、あるいは、抜けている種があることを、お断りしておきます。
畑山さんのライトFIT採集品のうち、ツヤドロムシは、当初、アワツヤドロムシと思っていました。
しかし、大塚さんの指摘を受けて見直したところ、上翅が長目で、上翅基部まで点刻がクッキリあるので、ツヤドロムシが正しいようです。
本種は、九州では大分県から知られるくらいで、他に記録がありません。
当然、宮崎県の記録は知られていませんが、結局、綾町で見つかったのは本種ばかりで、アワツヤドロムシは確認できませんでした。
本種の同定について、指摘いただいた大塚さんにお礼申し上げます。
FIT設置場所のすぐ下を流れる綾南川の水質は清冽で、河川形態も上流域から中流域と思われるにも関わらず、より上流部に分布するツヤナガアシドロムシは見られませんでした。
代わって、主として下流域に多いキベリナガアシドロムシが見られたのも興味深い事実です。
(左から、ツヤドロムシ、キベリナガアシドロムシ)
トラップ地点の上流方向、2-3km先に川中キャンプ場があり、今日は、そこまでの綾南川沿いの足場の良いところで灯火採集をする予定なので、走りながら適地を探します。
堤内さんが、以前、クロモンキイロイエカミキリを採った場所を奨めてくれましたが、思うほど見通しがきかない場所でした。
それで、もっと手前の、道沿いで最も広く、遠くまで見渡せる場所に白布を張ることにしました。有馬さんも同じ場所です。
(照葉樹林を見渡せる灯火採集場所)
結局、堤内さんは、そのクロモンキイロイエ・ポイントで灯火採集をやられたようです。
斎藤さん・大塚さん組は、今坂・國分組の場所の、二曲りほど手前(綾町市街地寄り)の広場に白布を張られました。
木野田さん・畑山さん組は、ライトFIT等の機材に一部不足品が有るとのことで、市街地に買い出しに戻り、その後なぜか連絡が取れず、多少やきもきしました。
暗くなって、みんなが灯火採集を始めてから、ひょっこりとコーラのお土産持参で出現し、あちこちの白布を覗いて回っていました。
聞くと、町に出たついでに、温泉に入っていたとか!!!
なにー!、私はわざわざ、携帯電話が通じる綾南川エリア入り口の集落付近まで戻って、二人それぞれに、電話したというのに。
電話のアナウンスは、「電波の届かない場所」ではなく、「呼び出しましたが出られません」だったので、事故では無く、どこか、電波の届く場所(市街地?)にいると判断して、灯火採集の場所に戻ったのでした。
ともあれ、ナイターの場所に戻ったときは、午後8時近くになっており、暗くなりかけていました。
たまたま、クワガタ類の採集に来たという若い虫屋 2人が個別にナイター場所に出現し、1人は直ぐ横にライトを設置したいとのこと。
有馬さんと、そのクワガタ屋さんが、隣り合わせに、サーチライトを設置し、その隣に、私は白布を張ります。
有馬さんのセットは凄い光量で、飛んでいる虫は全て集まりそうに見えます。
(有馬さんと、クワガタ屋さんのライトセット)
私は最近、白布にFITも吊して、微小甲虫を拾うことにしているので、有馬さんのサーチライトにもFITを下げていただきました。
さらに、斎藤さん・大塚さん組の灯火採集場所まで車で出かけて、ここの白布にも、FITを吊しました。
(FITを吊した私の白布)
これが後で、大変な結果を招こうとは、思いもよりませんでした。
午後8時過ぎた頃からチラホラ虫が来始めましたが、芥子粒のようなドロムシやトビケラ、カワゲラなどの水物が主体でした。
そのうちに羽アリが来始めて、見る見るその数を増してきて、白布は黒い羽アリで真っ黒になってきました。
普通なら来るはずの小さなハネカクシ・ゴミムシ・その他諸々の甲虫は見られません。
暑さも湿度も十分にあり、無風で、前面は見渡す限り綾の照葉樹林、それでも羽アリだけで、甲虫は殆ど来ません。
有馬さんのサーチライトもこれ以上は無理と言うくらいに輝いています。
クワガタ屋同士で、有馬さんは久しぶりのクワガタトークを楽しんでいるようでした。
(クワガタトークを楽しむ有馬さんたち)
少しして、やっと、チラホラ甲虫が来始め、私の幕にカブトムシが来ました。
(白布に来たカブトムシ♀)
ここから、甲虫があれこれ来始めました。
川が近いせいか、黒くて小さい点々はドロムシの仲間でしょうか?
後で確認したところ、畑山さんのライトFITに入った4種と同じ種のみで、特に、キスジミゾドロムシは無数に集まっていたようです。
30分ほど経って、クワガタ類や、コガネ類、ノコギリカミキリ類など、その他の種も飛来するようになり、羽アリの飛来も少し収まってきました。
ふと、有馬さんのサーチライトに吊したFITを見ると、カップが真っ黒で、満杯になるほど羽アリで溢れていました。
自身の白布に吊したFITも、そこまでではないもののコップは真っ黒に見えます。
それを横目で見ながら、自身と有馬さんの白布から、主として、小型の甲虫や、水物のトビケラ、カワゲラなどを採集していきます。
國分さんは、いつものように、主として蛾を専門に採集されていましたが、まだ余り多くはなさそうです。
そのうち、ヘビトンボが多数飛来しだして、2-3個体は確保したものの、下手に掴むと噛むこの虫を、もうその後は採る気がしません。
今夜は月齢も良く、高温、高湿気、風無し、眼前は広大な照葉樹林と、灯火採集には絶好のはずなのに、なぜか、甲虫は余り飛来しません。
特に、通常ならうるさいくらいに飛来するコガネ類が、何故か、少ししか来ません。
ちょっと、斎藤さん・大塚さん組の白布はどんな感じか見に行くことにしました。
車で行って、暗闇の中で見てみると、彼らの白布の位置は、かなり、周囲を高木に囲まれています。
それほど、見通しが良くないためか、煌々と水銀灯が輝いている割には、虫が集まっていません。
大塚さんは、早朝からの強行軍で疲れたそうで、9時頃には灯火採集の白布をたたむとのこと。
「FITはそれまでに回収に来ます」と言って、戻ってきました。
斎藤さんは、この灯火採集で、畑山さんのFIT以外のものとして、ハンミョウ、クロミズギワゴミムシ*、イクビモリヒラタゴミムシ、ベーツホソアトキリゴミムシ、ヒメガムシ、オオクビブトハネカクシ、ヒメサビキコリ、ヒメホソキコメツキ、キノコヒラタケシキスイ、ベニヘリテントウ、クリイロクチキムシ*、ヤマトスナゴミムシダマシ*、コスナゴミムシダマシ、クロホシテントウゴミムシダマシ、モトヨツコブゴミムシダマシ、ニジゴミムシダマシ、キンヘリノミヒゲナガゾウムシ、フタモンツツヒゲナガゾウムシ*、クロオビホソミツギリゾウムシ、カシワクチブトゾウムシなどを採られていました。
このうち、クロオビホソミツギリゾウムシは私は初めて見せていただきました。
本種は九州南部(宮崎県南部各地、鹿児島県稲尾岳杉山谷)と台湾のみで記録されています。
他では全く見つからない種ですが、宮崎県内では綾町を始めとして、数カ所で記録されているようです。
(クロオビホソミツギリゾウムシ)
自身の白布に戻って、有馬さんのライトに吊したFITを見ると、もう、コップは満杯でした。
FIT液も残っていないように見えたし、虫が溢れてもしようがないので、引き上げることにしました。
羽アリがコブシを2つ重ねたくらいの塊で入っており、後のソーティングの大変さを考えて、捨てようかとも思いました。
しかし、万一、珍品が入っていたら・・・と思い直し、面倒ですが、タッパーに回収しました。
大塚さんばかりではなく、私も含めて、みんな朝から久留米から走ってきたわけで、暑さと大汗で疲れています。
あまり虫の飛来も良くないので、そろそろ止めたい気分になってきました。
有馬さんは、既に、ミヤマ、ノコギリ、コクワ、ヒラタのクワガタ類を採られたそうです。
また、上記以外に、オオアオモリヒラタゴミムシ*、クビアカモリヒラタゴミムシ、ニセケゴモクムシ、ヒメツヤゴモクムシ、ムナビロアトボシアオゴミムシ、モリアオホソゴミムシ、コヒゲシマビロウドコガネ、ヨツバコガネ、セマダラコガネ、ヒラタドロムシ*、ムナビロツヤドロムシ、フタモンウバタマコメツキ、オオハナコメツキ、ヨツボシテントウダマシ*、ツマグロキゲンセイ、キイロゲンセイ*、ニセノコギリカミキリ、クロカミキリ、ツシマムナクボカミキリ、シラオビゴマフケシカミキリを採られていました。
(有馬さんの灯火採集品)
モリアオホソゴミムシは、草原性のオオアオホソゴミムシから分離、森林の林縁のススキ群落を利用している種ですが、全国的にあまり多い種ではありません。
それでも、南九州では比較的多いようで、各地で見つかっています。
綾でも数例記録されていて、この夜、私の白布にも来ました。
また、ツマグロキゲンセイは各地の灯火採集で良く見かけますが、キイロゲンセイはめったに見つかりません。
(左から、モリアオホソゴミムシ、キイロゲンセイ)
私が白布から採集したのは、他に、ホソチビゴミムシ*、コゴモクムシ、アトワアオゴミムシ*、ヒラタアトキリゴミムシ、オオモモブトシデムシ、ニセユミセミゾハネカクシ、キバネクビボソハネカクシ、オオドウガネコガシラハネカクシ、ドウガネブイブイ、ヒメコガネ、タイワンチビカッコウムシ、ハバビロヒラタケシキスイ*、マルヒラタケシキスイ、ミツモンセマルヒラタムシ、ナミテントウ、チャイロヒメハナノミ、クロスジイッカク、ヒゲブトゴミムシダマシ、ヒメスナゴミムシダマシ*、ヤクカサハラハムシ*、ウスモンツツヒゲナガゾウムシ、シラカシノキクイムシ*があり、これらは、有馬さんや大塚さんらの白布から採集した分も含まれています。
総計45種の甲虫を採集していました。
このうち、シラカシノキクイムシは翅端に多くのトゲトゲを持つ奇妙で綺麗なキクイムシです。
ホストとして、イチイガシ・シラカシ・ウラジロガシを上げてあることから、相当発達した照葉樹林に限って生息する種と思われます。
(シラカシノキクイムシ)
午後9時前になって羽アリの飛来は無くなり、甲虫の飛来はダラダラと続いているようですが、何となく、顔ぶれは変わってきているようです。
約束なので、大塚さんの白布のFITを回収し、そして、戻ってきて、自身のFITも回収しました。
白布には、どんどん、蛾の飛来が増えてきたようです。
國分さんは大忙しで、蛾の採集は手一杯になり間に合わないようです。
(蛾が増えた白布)
そろそろ止めたいと思いつつ、有馬さんに伝えると、有馬さんも、「やめましょうか」との返事。
蛾はますます増えてきて、「蛾屋さんは、この時間からが本番だなあ」と思うほど。
特に、小型の蛾が沢山集まっています。
(蛾がいっぱい)
「甲虫も、この後、2時間くらいやったら、内容が相当違ったのだろうな」と思いながら、疲れには勝てず、9時半過ぎには片付けに掛かりました。
白布に吊したFITの採集品は、中くらいのタッパー一杯になり、この内容物は、帰宅して3日ほどは手つかずでした。
その後、腹を決めてエイヤーとソーティングを始めます。
少しずつ少しずつ小分けにして、顕微鏡下でソーティングしていきます。
午前中から昼食を挟んで夕方まで、ほぼ、一日がかりで、羽アリの海に埋もれていた甲虫とカメムシ、水物などを拾い出しました。
白布に吊したFITの甲虫は全部で42種入っており、白布から直接採集した45種に及びませんでした。
他の場所での結果では、FIT分はいつでも白布で採った種数より多い傾向があるので、この方法を始めたのでしたが、今回は残念でした。
それでも、このうち小型種を中心に、半数以上の、ヒラタコミズギワゴミムシ、クリイロコミズギワゴミムシ、ヨツモンコミズギワゴミムシ*、ミドリマメゴモクムシ、クロズホナシゴミムシ、スジミズアトキリゴミムシ、コモンシジミガムシ、クロズトガリハネカクシ、チビクビボソハネカクシ*、リュウキュウダエンチビドロムシ*、チャイロツツクビコメツキダマシ、ツマグロツツカッコウムシ、オオメアカヒラタケシキスイ、キイロアシナガヒメハナムシ*、キイロチビヒラタムシ、フタオビホソナガクチキ、ホソスナゴミムシダマシ*、ヒコサンヨツコブゴミムシダマシ*、ヒメウスイロハムシ*など25種は、白布では採集できなかった種です。
(白布に吊したFITの甲虫・小型種のみ)
ホソスナゴミムシダマシとヒメウスイロハムシが入っていたのは意外でした。
(左から、ホソスナゴミムシダマシ、ヒメウスイロハムシ)
白布から直接採集した種と合計すると、全体で67種にもなるので、FITは白布に吊すべきだと思います。
中に、コメツキダマシの一種が1個体だけ入っていて、通常は調べもせずに、専門の畑山さんに投げるのですが、何だろうと思って調べてみました。
当初、簡単に解る普通種と思ったからですが、調べてみると、思った種に当てはまりません。
そのうち、長い前胸の形から、ピカッと閃いて、鈴木さんの報告の図版を思い出したわけです。
何と、1回目の冒頭に述べたチャイロツツクビコメツキダマシと解って、2度、ビックリ!!
(チャイロツツクビコメツキダマシ)
さっそく、畑山さんに報告すると共に、綾町に同行された諸氏に吹聴して回ったことは、ご想像通りです。
何と言っても、国内で2頭目ですからね。
繰り返しますが、絶対、白布にはFITを吊すべきです。私は今後も続けます。
コメツキダマシ類はあまり、オープンな場所で遠くから白布に飛来したりする種群ではありません。
3箇所のFITの回収品を一緒にしてしまったので、何処で入ったかは特定できませんが、あるいは、樹林に囲まれた大塚さんの白布に吊したFITに入ったのかもしれません。
つづく