久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 101号が2023年8月1日に発行されました。
事務局では希望される方にそのKORASANA 101号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。
KORASANA 101号をご希望の方は、このホームページ左上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
KORASANA № 101. 20230801 目次
報文
大對 桂一・渡辺 恭平[ 福岡県那珂川市郊外におけるヒメバチ科6 種の記録 ]・・・・・・・・1
近藤 倫彦[ 福岡県八女市矢部村でグンバイトンボを撮影 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・4
伊形 浩信[ 福岡県におけるミヤマチャバネセセリの記録 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・5
伊形 浩信[ アイノミドリシジミのウラジロガシからの採卵例 ] ・・・・・・・・・・・・・・5
伊形 浩信[ 八女市のスギタニルリシジミ ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
伊形 浩信[ 八女市釈迦岳におけるウラキンシジミンの幼虫採集について ] ・・・・・・・・・7
伊形 浩信[ 福岡県におけるカラスシジミの分布調査報告 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・8
伊形 浩信[ 2021 年 福岡県篠栗町のルリウラナミシジミの記録 ]・・・・・・・・・・・・・11
伊形 浩信[ 福岡県におけるアカシジミの記録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
伊形 浩信[ 福岡のムシャクロツバメシジミのその後 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
伊形 浩信[ 日田市のクロヒカゲモドキ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
伊形 浩信[ 福岡県におけるヒカゲチョウの現状と
福岡県に隣接する大分県西部のヒカゲチョウの記録 ]・・・・・・・・・・・・16
伊形 浩信[ 福岡県におけるクモガタヒョウモンの記録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・19
伊形 浩信[ 福岡県のミスジチョウについて ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
伊形 浩信[ 八女市釈迦岳におけるシータテハの記録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
小旗 裕樹[ 熊本県五木村におけるヒラムネメカクシゾウムシの1988 年の記録 ] ・・・・・・22
小旗 裕樹[ 福岡県新宮町で採集したスギカミキリ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
小旗 裕樹[ クワガタムシブームの最中福岡市南区の路上でオオクワガタの死骸を拾う ]・・・23
小旗 裕樹[ 香川県丸亀城址で採集した甲虫類 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
小野 正則[ 英彦山でアオタマムシを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
小野 正則[ 犬ヶ岳におけるネアカツツナガクチキの記録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・25
小野 正則[ 鷹巣山でヒラヤマコブハナカミキリを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・26
小野 正則[ 鷹巣山でウラキンシジミを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
小野 正則[ 豊前市経読岳でミヤマカラスシジミを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・27
小野 正則[ タッパンルリシジミを八女市御前岳で採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・27
小野 正則[ 福岡県内のミヤマセセリの記録(2022 年) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・28
廣川 典範[ 福岡県では、その和名が絶滅したのかもしれないエゾスジグロチョウについて ]・29
廣川 典範[ 10 月野外のミヤマオオハナムグリ ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
廣川 典範[ 英彦山のチチブニセリンゴカミキリ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
廣川 典範[ 脊振山地のクロソンホソハナカミキリ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
廣川 典範[ 佐賀県脊振山系のタケウチヒゲナガコバネカミキリとジャコウホソハナカミキリ ]37
廣川 典範[ 花に来ていたツノコガネ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
稲畑 憲昭・相本 篤志[ 「鹿児島県本土で採集したクロシオガムシ」の訂正 ] ・・・・・・・39
堤 隆文 [ 福岡県飯塚市におけるクビアカモモブトホソカミキリ及び
ムラサキアオカミキリの記録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
堤 隆文 [ 福岡県におけるザウテルオビハナノミの記録 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・40
堤 隆文 [ 犬ヶ岳でクロホソコバネカミキリを採集 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
堤 隆文 [ 福岡県内における希少なゴミムシダマシ3 種の記録 ] ・・・・・・・・・・・・・41
今田 舜介[ 淡路島周辺島嶼で採集したゾウムシ類 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
今田 舜介[ アカコブコブゾウムシの天敵の一例 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
和田 潤 [ ヒメツチハンミョウから吸汁したオニアカハネムシ♂ ] ・・・・・・・・・・・・43
江頭 修志[ 熊渡山の甲虫類(6)―FIT とFIT 以外で得られた熊渡山の甲虫類― ] ・・・・・・45
江頭 修志[ カラ迫岳でスジグロボタル西日本亜種を採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・52
時津 洋臣[ 大牟田市でムネアカセンチコガネを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
小田 正明[ 祖母山で採集した甲虫類(I) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
野村 周平・西田 光康[ 佐賀県内 2 地点での
2 種の衝突板トラップ(FIT)による甲虫採集の試みと成果の分析 ]・・・・・・・87
城戸 克弥[ 丸山式FIT で得られたうきは市浮羽町新川の甲虫類(1) ]・・・・・・・・・・・109
城戸 克弥[ うきは市浮羽町新川で採集した甲虫類(1) ]・・・・・・・・・・・・・・・・・121
城戸 克弥[ 福岡県沖ノ島産甲虫類の追補(2) ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・151
城戸 克弥[ 森本桂コレクション中の福岡県産ゾウムシ(追補) ] ・・・・・・・・・・・・・155
城戸 克弥[ 森本桂先生が採集した福岡県産マサカカツオブシムシ ] ・・・・・・・・・・・160
城戸 克弥[ 大平仁夫先生を偲んで ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
森田 誠司[ イシダモリヒラタゴミムシDicranoncoides ishidai (Ohkura et Shibata)と
その近縁種 D. apex (Jedli.ka) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・165
森田 誠司[ ヤクシマヒラタゴミムシの雄について ]
Seiji Morita [ The male of Achaetoprothorax hirashimai (Habu) (Coleoptera,
Carabidae) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170
森田 誠司[ 我が国から初めて記録されるシレトコミズギワゴミムシ(新称)
Bembidion (Metallina) elevatum lamprosimile Netolitzky について ]
Seiji Morita [ A New Record of Bembidion (Metallina) elevatum lamprosimile
Netolitzky from Hokkaido, Japan. ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174
緒方 靖哉・今坂 正一・森田 誠司[ あちこちで採集したゴミムシ類 -追加種- ]・・・・・177
緒方 靖哉[ あちこちで採集したナガクチキムシ、ゴミムシダマシなどの甲虫類 ・・・・・・179
緒方 靖哉[ 昆虫採集逸話“我がネキダリス奮闘記” ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・191
緒方 靖哉[ 昆虫採集逸話“最も興奮したカミキリムシ” ] ・・・・・・・・・・・・・・・196
緒方 靖哉[ 昆虫採集逸話“時を経て後で感動した虫たち” ] ・・・・・・・・・・・・・・200
築島 基樹[ 甑島におけるオニギリマルケシゲンゴロウの採集記録 ] ・・・・・・・・・・・203
編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・204
(表紙)
今回の表紙は、廣川典範氏の報文「福岡県では、その和名が絶滅したのかもしれないエゾスジグロチョウについて」の中から採用させていただきました。詳細については、29-33 頁をご覧ください。
しばらく時間が空きましたが、またまた、ボリュームたっぷりの101 号をお届けします。99 号、100 号と、特集号が続き、半年以上前から原稿を出していただいた多くの会員各位には、永らくお待たせをして、申し訳ありませんでした。
他にも原稿多数を投稿していただいておりますので、続けて102 号も出す予定です。(編集後記より)
今号では、21名の著者(共著含む)による60編、205ページの大冊となっております。
内容も、ハチ、トンボ、チョウ、甲虫と変化に富んでおり、特に、甲虫では、大作や、示唆に富んだ内容、国内で初めて記録される種の解説などが注目されます。
最初から見ていきましょう。
大對さん・渡辺さんの「福岡県那珂川市郊外におけるヒメバチ科6 種の記録」は、分類学的に難解で記録の少ないヒメバチ科を記録されています。
特に九州の記録は少ないそうで、記録された6種のうち、シワムネホウネンダワラチビアメバチ、イヨヒメバチ、オオイチモンジヒメバチの3種は九州初記録だそうです。
(3種の写真)
近藤さんの、「福岡県八女市矢部村でグンバイトンボを撮影」は、福岡県内ではうきは市の記録があるだけで、福岡県レッドデータブック(2014)では絶滅危惧IA 類とされていて、絶滅が心配されていただけに、重要な記録となっています。
(グンバイトンボの写真)
伊形さんは、福岡県内のレッドデータブック掲載種等、記録が少ない種の探索に、県内隈無く、丹念に探索されて、ミヤマチャバネセセリ、スギタニルリシジミ、カラスシジミ、ルリウラナミシジミ、アカシジミ、ムシャクロツバメシジミ、ヒカゲチョウ、クモガタヒョウモン、ミスジチョウ、シータテハなどの記録を多数報告されています。
従来のレッドデータブックなどの記述で、絶滅に瀕していると考えられていた種であっても、探し方によっては、まだまだ、生息を確認できることを示した勇気づけられる報告と思います。
小旗さんは、熊本県五木村からヒラムネメカクシゾウムシを、福岡県新宮町からスギカミキリを、福岡市南区の路上からオオクワガタを、香川県丸亀城址からホソチビゴモクムシ属の一種、チビクワガタ、モトヨツコブエグリゴミムシダマシ、ホンドクロオオクチキムシの4種を報告されています。
(左から、ヒラムネメカクシゾウムシ、スギカミキリ♂♀)
(左から、オオクワガタ、チビクワガタ)
小野さんは、英彦山からアオタマムシを、犬ヶ岳からネアカツツナガクチキを、鷹巣山からヒラヤマコブハナカミキリを、鷹巣山からウラキンシジミを、経読岳からミヤマカラスシジミを、八女市御前岳からタッパンルリシジミ記録し、2022年度に福岡県内で確認されたミヤマセセリの記録を報告されています。
(左から、アオタマムシ、ネアカツツナガクチキ)
(ヒラヤマコブハナカミキリ)
(ミヤマカラスシジミ)
廣川さんは、表紙に採用したエゾスジグロチョウについての、最近の福岡県下での観察例について、近似のスジグロシロチョウとの斑紋の変異や、発生期、生息環境などの考察を展開されています。
(調査のきっかけとなったエゾスジグロシロチョウ♂)
その独特の語り口については、ファンもいるというのをご本人はご存じでしょうか?
今後もますます、廣川節に磨きが掛かることを期待します。
また、廣川さんは、英彦山のチチブニセリンゴカミキリ四国九州亜種、脊振山地のクロソンホソハナカミキリ、同じく、脊振山系のタケウチヒゲナガコバネカミキリとジャコウホソハナカミキリなどを記録され、
(タケウチヒゲナガコバネカミキリ)
さらに、大分県庄内町平治岳で10月に採集したミヤマオオハナムグリや花に来ていたツノコガネなど、通常とは異なる生態についても報告されています。
堤さんは、飯塚市からクビアカモモブトホソカミキリとアオカミキリ九州亜種を、鞍手町八剱神社からザウテルオビハナノミを、犬ヶ岳からクロホソコバネカミキリを、県内各地からオオクロキノコゴミムシダマシ(鞍手町)、セコブナガキマワリ(英彦山)、ヒメキマワリ(英彦山)を記録されています。
このうち、オオクロキノコゴミムシダマシとザウテルオビハナノミは福岡県初記録で、さらに、後者は従来、上甑島と宮崎県綾町が北限だったので、北限を大幅に更新したことになります。
(左から、オオクロキノコゴミムシダマシ、ザウテルオビハナノミ)
今田さんは、記録の少ない淡路島周辺の島嶼から、ハイイロチョッキリ、ヒサゴクチカクシゾウムシ、スグリゾウムシを報告され、九州大学伊都キャンパスで観察されたアカコブコブゾウムシの天敵の一例としてのセアカゴケグモを報告されています。
和田さんは、下甑島口岳山麓で観察された、オニアカハネムシが、体液中に毒を持つと言われるヒメツチハンミョウから、体液を吸汁する様子を報告されています。
同様の観察としては、ちょうど、月刊むしに今井 邑氏の「早煮えにされたマルクビツチハンミョウに誘引されたアカハネムシ科の2種」という報告が掲載されたばかりで、今井氏によると、アカハネムシ類の♂は積極的にこれらの毒を吸汁し、それを交尾の際、♀に渡し、♀は自身の卵の保護に役立てるという話が、外国の研究論文中に見られると言うことです。
今井 邑, 2023. 早煮えにされたマルクビツチハンミョウに誘引されたアカハネムシ科の2 種. 月刊むし, (626): 53-54.
(和田図版)
江頭さんは、延々と熊渡山の甲虫ファウナの解明を続けられ、前回までに、827種を記録されています。今回はその(6)として、2020年までに採集された136種を追加され、963種記録されたことになります。
中でも、2016 年に新種記載されたワタナベヒメゾウムシは特筆され、本種の解説にはタイプ産地は岡山県で、分布地として、本州(岡山・山口)、九州(福岡・大分)」と書かれているにもかかわらず、岡山県以外の具体的な産地は書かれていないそうです。データを伴う福岡県(九州でも)の記録として、重要ということです。
(江頭図版、ワタナベヒメゾウムシは最下列右端)
江頭さんはまた、福岡県2例目となるスジグロボタルを、八女市星野村カラ迫岳から記録しています。
(スジグロボタル)
時津さんは、大牟田市からムネアカセンチコガネを報告されました。
小田さんは、1999年頃からおりに付け大分県豊後大野市尾平(祖母山)に採集に通われていましたが、このたび、それを取り纏めて、793種の甲虫を報告されました。
特に、畑山さんに同定を依頼されたハナノミ科に貴重な種が含まれているようで、畑山さんのご教示によると、未記載種のヒコサンハナノミ、ニセカグヤヒメハナノミが含まれていたようです。
(ヒコサンハナノミ)
このうち、ヒコサンハナノミについて、畑山さんは以下のように解説されています。
「本種は、英彦山深倉峡と貝吹峠で、2020 年と2021 年に、今坂正一氏がL-FIT で2♂3♀を採集されていたため、ヒコサンハナノミと仮称されたが、未発表である。また随分古い記録ではあるが、1975 年に1♂が屋久島で採集されていて、これも未発表であるので、今回が本種の初めての記録と言うことになる。
♂♀とも体色は黒褐色で、上翅は暗黄色毛に被われ、毛紋を持たない(カラー写真は前ページ)。♂の頭部は赤褐色を呈する。この様な赤褐色の頭部をもつハナノミは特異で、ヒメハナノミ族においては稀に見られるものの、ハナノミ族においては、本 Mordellaria 属のみならず近縁属を含めて、近隣地域からは知られておらず、特筆すべき種と考えられる。」
「佐賀県内2 地点での2 種の衝突板トラップ(FIT)による甲虫採集の試みと成果の分析」は、国立科学博物館動物研究部のアリヅカムシ類の世界的権威である野村さんと、KORASANA99号で佐賀県産甲虫目録を発表された西田さんの共同報告です。
野村さんは佐賀県大町町の出身で、最近は地元佐賀県での調査も精力的に行われています。
今回の報告は、武雄市朝日町柏岳に地上式FIT3 基と吊下式FIT3 を設置し、佐賀市三瀬村椎原峠にも同様に地上式FIT3 基と吊下式FIT3 を設置し、2022年5月中旬から7月中旬までの間に、各3回回収して、地点間、および、地上式と吊下式のFITで得られた種構成について、考察された報告です。
(野村・西田図版1・調査状況)
この結果213種を記録されていて、内訳は表1の通りです。
(表1)
このうち、佐賀県からは昨年記録されたばかりのツノコガネが大量に捕獲され、県内から記録のないアリヅカムシ(Euplectus sp.、Leptoplectus sp.9)とヤマトヒメコケムシ、クリイロタマキノコシバンムシ、ゾズニセスジキノコシバンムシ、ヒメアカマダラケシキスイなどが得られたそうです。
(野村・西田図版2)
結論として、
「地上式と吊下式はそれぞれの仕様が全く異なり、衝突板の面積も非常に異なる(地上式の方が8 倍以上大きい)ので、ここでは量的な比較はあまり意味がない。しかし今回の結果に限って言えば、吊下式を設置せず、地上式だけでもFIT で採集できる種数の3/4 をカバーしていた。
しかし他方、残りの1/4 近く(50 種)は吊下式でないとカバーできなかった。つまり、単純な数値の上の比較では、地上式の方が効率的であるように見えるが、地上式だけだと、両方の様式のFIT を設置した場合に比べて、1/4 ほどを採り漏らしてしまう可能性がある、ということが今回の結果で明らかになった。
一方、吊下式のみの設置では全体の約半数しかカバーできない。装置の簡便さと回収の容易さを考
慮すると、予想以上に効率的ではあったが、吊下式だけではインベントリーの調査としては大いに
不足であると感じざるを得ない。」と述べられています。
(野村・西田図版3)
(野村・西田図版4)
城戸さんは、今回はうきは市浮羽町新川での調査結果を、丸山式FITで得られた分(299種)と、その他の採集方法の分(594種)の合計、782種を記録されています。
城戸さんの説明によると、丸山式FITを設置された分田地区の植生は次の通りです。
「この場所は林道にU 字型に囲まれ、直径がわずか50m にも満たない雑木林である。林相は高木としてアカマツ、ツブラジイ、アラカシ、コナラ等が見られるが広葉樹は萌芽をなしているものが多い。中略、落葉相は貧弱で浅く、乾燥している。植物相から見ても当地が乾燥した地であることがうかがえる。アカマツは10 数本混在しており、中には直径50cm にも達するものがある。南西面は広い谷やヒノキの幼木に囲まれ、北西面はヒノキの幼木が植えられ、日当たり、風当たりが強い地である。」
つまり、標高325mの広大なスギ・ヒノキの植林地の中に僅かに残されたアカマツ混じりの雑木林(50m×50mより狭い)ということです。
城戸さんもコメントされていますが、この地では、300m余りの低標高にも関わらず、通常、ブナ帯など高標高で見つかる種が、ヤマトナガヒラタムシ、ヤマトセスジムシ、アイヌコブスジコガネ、ツヤケシビロウドコガネ、オニチャイロツヤハダコメツキ、セグロチビオオキノコムシ、キボシチビオオキノコムシ、 ルリサルハムシ、アカタマゾウムシなどが記録されています。
(城戸図版1)
また、県内では稀な、あるいは、県初記録の種も、キノコゴミムシ、ツノブトホソエンマムシ、クビナガハネカクシ、キョウトアオハナムグリ、ウドハナボタル、スジバネキノコシバンムシ、クロツツヒラタムシ、オオメアカヒラタケシキスイ、ホソコゲチャセマルケシキスイ、ルイステントウダマシ、クシヒゲニセクビボソムシ、クビアカドウガネハナカミキリ、ムナキルリハムシ、クロオビキノコヒゲナガゾウムシなどが記録されています。
(城戸図版2)
すでに、城戸(2023, さやばねニューシリーズ, 49 号) として記録されていますが、特に、ホソアシカミキリモドキの発見は注目されます。本種の確実な既産地は台湾・種子島(Kono,1937 原記載)と対馬(秋山,2000)で、当地での記録は3頭目、日本本土での初記録となります。
(城戸図版3)
上記のように、一見、虫屋が有望と思わない場所であっても、上記のような様々な興味深い種や、1年間に782種の甲虫を採集されていることを考えると、甲虫ファウナの解明は、途方も無いことのようにも思えます。
場所を変え、採集方法を変え、時期を変え、調査することで、予想以上の種が見つかることは、この前の、野村さん・西田さんの報告でも同様に述べられているとおりです。
さらに城戸さんは、「福岡県沖ノ島産甲虫類の追補(2)」で、2022年6月に、福岡県レッドデータブック調査の一環として行われた、筑前沖ノ島の調査結果を報告されています。78種を追加報告され、沖ノ島産は269種が記録されたことになったそうです。
また、先年から続けられている福岡県産ゾウムシ類のまとめの一環として、「森本桂コレクション中の福岡県産ゾウムシ(追補)」を追加・報告されました。オトシブミ科、ミツギリゾウムシ科、ホソクチゾウムシ科、ゾウムシ科など92種です。
城戸さんは、森本先生の標本の整理の最中に発見された福岡県(九州)初記録のマサカカツオブシムシも記録されています。
(マサカカツオブシムシ)
そして、城戸さんによる昨年末に逝去されたコメツキムシ研究の大御所・大平仁夫先生への追悼文も登載されました。
(大平先生の図版)
(大平先生に調べていただいたコメツキ)
森田さんは、次々に、国内から記録されていないゴミムシや、ほとんど、正体が知られていないゴミムシの紹介を続けられていますが、今回は、以下の3編です。今回も詳細な再記載なども付けられていて、ゴミムシ屋さんは必見です。
「イシダモリヒラタゴミムシDicranoncoides ishidai (Ohkura et Shibata)とその近縁種 D. apex (Jedli.ka)」
(イシダモリヒラタゴミムシ図版)
「ヤクシマヒラタゴミムシの雄について」
「我が国から初めて記録されるシレトコミズギワゴミムシ(新称)Bembidion (Metallina) elevatum lamprosimile Netolitzky について」
緒方さん・今坂・森田さんで、前報の「あちこちで採集したゴミムシ類」(緒方・今坂・森田, 2022)に2 種を追加記録しました。
追加したのは、ミナミアトワアオゴミムシ(石垣島 底原ダム)と、ヨツモンヒメアトキリゴミムシ(沖縄本島 末吉公園 首里)です。
(ミナミアトワアオゴミムシ)
緒方さん・城戸さんは、緒方さんの「あちこち・ちょこちょこ採集記」シリーズの一環として、「あちこちで採集したナガクチキムシ、ゴミムシダマシなどの甲虫類」を報告されました。
各地で採集されたナガクチキムシ科18種を始め、ナガヒラタムシ、オスグロオオハナノミ、アトコブゴミムシダマシ、オオモンキゴミムシダマシ、オオユミアシゴミムシダマシ、カラカネチビキマワリモドキ(福岡県初記録)、オオサルハムシなど21科172種を記録されています。
(左から、カラカネチビキマワリモドキ、ツヤヒサゴゴミムシダマシ)
緒方さんは本来、カミキリ屋さんですが、「昆虫採集逸話“我がネキダリス奮闘記”」はそのカミキリ屋さん垂涎の的のネキについて書かれたエッセイです。国内や留学された北アメリカのネキダリス採集について紹介されています。
(ネキダリス図版)
さらに、ご自身のカミキリ採集記「昆虫採集逸話“最も興奮したカミキリムシ”」も書かれています。
(タイ産のParamimistena 属の珍品カミキリ、新里さんが新種記載予定とか)
最後に、カミキリ屋の緒方さんが、さまざまな雑甲虫を採集し、「あちこち・ちょこちょこ採集記シリーズ」を連載された経緯の説明として、「昆虫採集逸話“時を経て後で感動した虫たち”」を書かれたようです。
築島さんは上甑町中甑からオニギリマルケシゲンゴロウ(甑島列島初記録)を報告されています。