平尾台の昆虫調査 4
3月30日には久留米市の百年公園のサクラ(ソメイヨシノ)も満開になりました。カミさんを誘って、花見に行き、記念写真を撮ってもらいました。
毎年、この歳になってくると、生存確認みたいなものです。
あと、何度、花見に行くことやら。
(満開のサクラの下で)
そして、4月5日、國分さんと今年5回目になる平尾台に行きました。
今回は、塩坪の穴近くの菜の花から採集を始めます。
(満開の菜の花)
國分さんはさっそく採集準備で、それから、チョウを探しに行かれました。
私は菜の花の間に置いたイエローパントラップの回収をしてから、菜の花をスウィーピングします。
イエローパントラップには前回同様、ハチ・ハエと共に多くのオオダイコンサルゾウムシが入っていて、さらに、ダイコンナガスネトビハムシ、アカバツヤクビナガハネカクシ、ケナガセマルキスイ、ウスチャケシマキムシ、マルクビツチハンミョウ、コガタルリハムシ、ヒメドウガネトビハムシ、イヌノフグリトビハムシ、キスジノミハムシ、ナトビハムシが入ってました。
(アカバツヤクビナガハネカクシ)
本種は平地から低山まで、草地でも樹林でも、どこでも飛び回っているんですね。
草地を徘徊している種もハムシなど結構入っています。
(マルクビツチハンミョウ)
菜の花をスウィーピングすると、相変わらずオオダイコンサルゾウムシが多数動き回っていて、他に、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、ズグロキスイモドキ、コクロヒメテントウ、ヨツボシホソアリモドキも入りました。
いよいよジョウカイも出てきて、春真っ盛りに入ったようです。
(菜の花に群れていたオオダイコンサルゾウムシ)
スウィーピングしたネットの中に、1mmに満たない黒い点が2つ見つかったので、ゴミかもしれないけれど念のため持ち帰っておいたところ、ムクゲキノコムシで、それも2種入っていました。
1種は前胸の点刻が特徴的で、コゲチャナガムクゲキノコムシ、もう1種は良く解りませんが、ウスイロムクゲキノコムシ(Ptinelia)の仲間*のようです。かつて九州産をムクゲキノコムシの専門家 澤田義弘博士(茨木市)に同定していただいて返していただいたので、それらとの比較で同定しています。
(コゲチャナガムクゲキノコムシ)
本種は北海道から琉球まで分布し、平尾台では既に、昨年、落葉篩いで得て記録しています。
(ウスイロムクゲキノコムシの一種)
大分県産のPtinelia sp.を同定していただいていますが、同じかどうかは不明です。ムクゲキノコムシ類は森林の落葉下に生息する種群ですが、菜の花など花の上にも上がることもあるんですね。良く飛翔する種群は空中を浮遊してカーネットに入るのですが・・・。
その後、いつもの林縁に移動します。
(林縁の草地)
ピットフォールトラップにはなぜか沢山のフトカドエンマコガネが入っています。草地にはシカの糞も見られ、もう、こんな都市近郊までシカが広がってきているのでしょうか?
(ピットフォールトラップに入ったフトカドエンマコガネ)
地元の人の話では数は多くないものの、雄ジカを中心にした群れがいくつか見られるそうです。
また、1♂ですが、ヒメオサムシが入っていて、一瞬、狙っていたセアカオサムシかと思ったのですが、残念でした。
(ヒメオサムシ♂)
そろそろ、啓蟄もだいぶ過ぎたこともあり、オサやゴミなど歩行虫が出てきても良さそうなのですが、まだ見られません。
他に、セスジハネカクシの一種、アカセミゾハネカクシ、セマルトビハムシ*など。
イエローパントラップには、相変わらず多数のハナバチとハエが入っています。
(イエローパントラップに入ったハチとハエ)
春先に草地で活動し始めるイタドリハムシ*が多数入っていました。オドリコソウチビケシキスイも相変わらず多いようです。
新顔はセンチコガネ、シラフチビマルトゲムシ、ツノブトホタルモドキ*、ナナホシテントウ、ダイコンナガスネトビハムシ、ヒレルホソクチゾウムシです。ツノブトホタルモドキは近くにクヌギがあって入ったのでしょう。
次に林内のFITを回収します。
(林内のFIT)
何か見慣れぬ虫が入っていて、確認したところ、ブンゴヒノモトタマキノコムシ*でした。
(ブンゴヒノモトタマキノコムシ、左から、背面、側面)
(ブンゴヒノモトタマキノコムシ、腹面、頭部に大牙が見える)
この種は、Hoshina(2015)によって、大分県朝地町と湯布院町塚原の個体を元に新種記載された種で、今までの所、大分県以外では採集されていないと思います。当然、福岡県初記録です。。
Hoshina, H., 2015. Description of a second species of the genus Hinomoto (Coleoptera, Leiodidae) from Japan. Elytra, Tokyo, (N. S.), 5(1): 13-16.
(Hoshina, 2015の付図を改変引用)
タマキノコムシと言いつつ、7mm近くあって大型、縦長でキバが大きく、一見、チビクワガタをごく小さく、少し丸くしたような、あるいはマグソコガネにキバをつけたような印象の虫です。
典型的な冬虫で、塚原では、草原の中にある疎林に新しく出来た側溝を、冬期に這っているのが見つかると言うことで、当時、現地を見に行きましたが、見つけることが出来ませんでした。
草原近くの疎林と言うのは、平尾台も一緒です。
FITでは、他にミナミナガヒメタマキノコムシ、チャバネコガシラハネカクシ、ミゾムネマグソコガネ、ネアカマルケシキスイ、ホソチビオオキノコ、(仮称)ヨツモンミジンムシ、ヤツボシヒゲナガゾウムシ*なども採れていて、なかなか楽しいです。
(チャバネコガシラハネカクシ、ネアカマルケシキスイ)
トラップ回収が済んでから、やっとビーティング。
サクラの咲き残りにはケシジョウカイモドキ*とズグロキスイモドキがいた程度、なかなか花にも葉にも虫がいません。
石起こしでも虫は見つからず、今日は黒ヘビが出てきました。アオダイショウの子供ですかね。
(石起こしで出てきたヘビ)
石の上を歩いているシラクモゴボウゾウムシは見つけましたが。
その後、採集場所で、地元の人と話していたとき、ふと國分さんの肩の所に赤い虫が這っているのに目が留まり、捕まえて見るとアカサビシギゾウムシでした。
國分さんが、タブの木の下でも通るか叩くかしたとき、くっついてきたのでしょう。
タブの花を掬って採れる種ですが、本州(山口)、九州、トカラ口之島、奄美大島、徳之島、沖縄本島と、分布が広い割に、どこでも数少ない珍品です。
(アカサビシギゾウムシ)
この種は故・森本 桂先生が、私が採集した島原半島口之津公園産をホロタイプに、同じ久留米昆の城戸さん採集の城山産をパラタイプに、1981年に新種記載された種です。
Morimoto, K., 1981. On some Japanese Curculioninae (Coleoptera: Curculionidae). Esakia, (17): 109-130.
先生が逝去される直前に九州大学総合博物館で開催された「特別展示 森本 桂コレクションとゾウムシ学」のパンフの表紙にも、丸山さん作成の素晴らしい写真で使われた種です。
偶然ではありますが、私も城戸さんも、森本先生への追悼文の中でこの種の事に触れています。鉄錆色の渋くて綺麗な種です。
色んな意味で、私にとっては森本先生を象徴する種と言えると思いいます。
それから、前回できなかった、クヌギ林の下にある池にトラップを設置に行きました。
元々耕作地の治水のための溜め池と思われますが、現在は使用されていないようで、堰も切って水を落としてあります。
中央に狭い水溜まりがあり、イノシシのヌタ場になっているようで、無数の足跡がありました。岸辺にイエローパンを置き、ピットフォールトラップを埋め、木にはFITを吊しました。
(イエローパントラップとピットフォールトラップ)
昨年見つけたキノコの付いた倒木にもFITを吊しました。昨年、この倒木でホソナガニジゴミムシダマシのペアを採集しています。
(倒木に付けたFIT)
明るい林内を不規則に飛び回るチョウを見つけて、ミヤマセセリだと解りました。
國分さんに伝えると、彼も見つけて、採集もしたそうです。
つづく