その後も、英彦山に通っております。
今回は、4月30日、5月12日、5月20日の3回分のトビックをかいつまんでお知らせしたいと思います。
次の図が英彦山での今年の採集場所です。
ただ、実験所(九大昆虫学教室付属実験施設)は、コロナ禍のこともあり、パスしています。
2回に分けて報告しますが、まず、今回は、深倉峡です。
深倉峡の入り口、集落の手前300mくらいのところに、前回紹介した、少しの材を積んだ土場があります。
この少し手前に、立派なサルノコシカケを生やしたエノキの立ち枯れが有り、5月12日にFITを吊しておきました。
しかし、5月20日には、見事に千切れて吹き飛んでいました。この上の方はあまりに風当たりが強すぎる場所だったようで、仕方がなく、下の方にかけ直しました。
何が入るか楽しみですが、これで飛ぶようなら、この木はあきらめないといけません。
さらに、土場の先には小枝が積んであり、こちらにもFITを掛けておきました。
5月20日に見ると、なんと、13mmもある大型のハナノミが入っていました。
まだ、こんな大型ハナノミが入る時期ではなく(普通、6月末から8月)、そのことも??です。
13mmということで、ミツオホシハナノミだろうかと思い、畑山さんに写真を送って見ていただいたところ、ミツオではなく、シラホシハナノミだろうとの返事。それでも、シラホシはせいぜい6-9mm程度で、送って標本を見ていただきました。
その結果、正真正銘、シラホシハナノミ♀ということで、こんなに早い時期の発生と、こんなにでかい個体は、例がないそうです。ご教示いただいた畑山さんに感謝します。
さて、いつものように深倉園地の奥に車を駐めることにして、設置してあるトラップ類を回収していきます。
風で飛ばないように、風当たりの少ない谷間の川沿いに、FITとイエローパントラップを置いてました。
樹洞のある立木に掛けたFITには、4月30日から5月12日までに、サイゴクハナムグリハネカクシが無数に(200個体以上?)入っていました。
左上は、ボウサンゾウムシとコブアラゲサルハムシです。他に何も入っていません。
サイゴクは♀がほとんどで、発生末期と思われますが、あるいは、集合フェロモンでも出して集まったのではないかと疑われる状況でした。
さらに、5月20日の回収分は次の通りです。
クロチャイロコガネに、ヒラタハナムグリ、トドマツオオキクイムシと、もう、ヨツボシモンシデムシが入っています。
一方、イエローパントラップの方(5月12日回収分)には、不思議に、ピックニセハムシハナカミキリが2個体も入っていました。
さらに、5月20日には、クロニンフジョウカイ西日本亜種 Asiopodabrus malthinoides takizawai Takahashiと、カスガニンフジョウカイ九州亜種 Asiopodabrus kasugensis futagami Takahashiが入っていました。
(クロニンフジョウカイ西日本亜種♂♀)
西日本亜種は、四国(愛媛県)と九州脊梁沿いに分布し、九州に広く分布するハヤトニンフジョウカイとは微妙に棲み分けています。
本亜種はより、湿気の多い森林を好むので、この渓流沿いは格好の生息地でしょう。
(カスガニンフジョウカイ九州亜種♂)
また、九州亜種は、Takahashi(2012)により宮崎県高千穂町二上山産を基に記載された亜種ですが、その後の記録はありません。
♂交尾器背面の突起が、本州に分布する原亜種より短いことで区別されます。
Takahashi, K., 2012. A taxonomic study on the genus Asiopodabrus (Coleoptera, Cantharidae). Jpn. J. syst. Ent. Monog. Ser. (4), 359pp.
今坂・三宅(2011)において、ヤバケイコクロニンフジョウカイ Asiopodabrus sp.と仮称して深耶馬溪から記録したものは本亜種です。
今坂正一・三宅 武, 2011. 大分県で採集した興味深い甲虫(2008-2010). 二豊のむし, (49): 33-62.
以上の結果、英彦山は本亜種の3番目の産地になります。
本亜種はクロニンフジョウカイ西日本亜種に似ていますが、二回りほど小型で、上翅が鈍くつや消し状であることと、♂交尾器の形で区別できます。
さて、先(春の英彦山2)に、落ち葉から採集したコバネナガハネカクシについて報告しました。
種名が決定できずにモヤモヤしたので、5月12日、再度、谷沿いの落ち葉を篩って持ち帰りました。
ベルレーゼにかけて、何とか2種の♂が出てきたので、♂交尾器を確認しました。
この結果、上記大型の3個体の方はホシナコバネナガハネカクシ Lathrobium hoshinai Watanabe 九州(福岡福智山・犬鳴山・湯川山)であり、
右端の小型で細い方はタカクワコバネナガハネカクシ Lathrobium takakuwai Watanabe 九州(福岡英彦山)と判断しました。
♂腹節と、♂交尾器(背面・腹面・側面)を図示しましたので、間違っていたら、お解りになる方、ご教示下さい。
この仲間は、地域ごとに分化していると思っていましたが、1つの地域に数種が同時にいる事を教わりました。
♂交尾器の形や構造は、上記2種で全然違いますので、外形が似ている割に類縁関係は遠いのかもしれません。
落ち葉からは、前回同様、沢山のフクオカツヤツチゾウムシと、ムネボソヨツメハネカクシ属の一種、それに、ヒコサンアバタコバネハネカクシ(あるいはイヨアバタコバネハネカクシ?)、マエバラナガクチカクシゾウムシ、破片になってしまいましたが、ヤマトマンゲツガムシなどが出てきました。
また、コヤマトヒゲブトアリヅカムシと思ったものは、腹部の陥没が広いので、クボタヤマトヒゲブトアリヅカムシのようです。
思いがけなかったのは、キイロチビコクヌストモドキが出てきたことで、福岡県からは英彦山から1例知られるだけのようです。
落ち葉の探索も、もっと積極的にやる必要がありそうです。
周辺を叩いたり、スウィーピングしたり、幹掃きしたりして4月30日に採集したものが次の写真です。
ハイノキからツマキヒラタチビタマムシが落ちて、樹幹にはクロジュウニホシテントウ、(仮称)コケチビドロムシ、ケシマルハナノミが、枯れ木や葉上からタカオマルクチカクシゾウムシ、タカオヒメハナノミなどが落ちてきました。
しかし、4月30日のここでの最大の珍品は、宮崎さんです(失礼)。
彼はアセス仲間ですが、現地でご一緒したこともなく、もちろんプライベートでもなく、初めて採集地でお会いしました。
(記念写真、左から、宮崎、今坂、國分)
宮崎さんは、カエデの花に集まるカミキリを掬いに来られたそうで、花の付きも虫の出も悪く、シーズンが遅れているようだと話されていました。
宮崎さんは、この日採集された標本を託されて、英彦山調査に協力してくださるそうで、その後も採集品を送ってきて頂いています。
ピックニセハムシハナカミキリが入っていて、アレッと思ったのですが、先に書いたように、その後イエローパンにも入っていたので、この谷では少なくないもののようです。
ヒメツチハンミョウ、ミヤマフトヒラタコメツキもまだ採集していません。
深倉園地も虫取りができる場所が少ないので、林道を遡ってみました。
すぐに車止めのゲートがあり、その右手にちょっとした谷間がありました。
ここに雨の後だけ流れそうな沢があり、ナガゴミムシなどを狙って4月30日にピットフォールトラップをかけておきました。
解りにくいですが、赤矢印の先が埋めたコップです。
5月12日に見てみると、ヒメマルクビゴミムシ英彦山亜種が10個体ほど入っていました。
しかし、2週間近くも放置していたので、大部分が壊れていました。
その後もかけ続けてみたのですが、途中、大雨が降ったことで、トラップは水浸しになり、何も入っていませんでした。
この場所は余り期待できないので、他を探すことにして、5月20日に撤収しました。
この谷には、FITも2基吊しておきました。
5月12日の採集品が次の写真です。
クロチャイロコガネ、ミヤケチャイロコガネ、クシコメツキ類、クロホソゴミムシダマシ、トドマツオオキクイムシ、ムナビロアカハネムシなど。
山地性のニッコウミズギワゴミムシとカクモンチビオオキノコも入っていましたが、これらは少ない種です。
さらに、5月12日、保科さんから教えて頂いた、尿素トラップなるものを試してみようと思いました。
まず、白幕を敷きます。
その上から尿素肥料を撒いて、落ち葉を被せます。
1週間後、この落ち葉を篩いにかけて残渣を持ち帰りました。
しかし、ピットフォールトラップ同様、先日の大雨で白幕には水が溜まった状態で、篩いも空しく、出てきたのは次の写真のように同定の難しいハネカクシばかり、しかも少数でした。
今後、もう少しかけ続けてみて、改良しながら様子を見ようと思います。
4につづく。