久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 93号が4月30日に発行されました。
今回は、原稿が300ページ分以上集まったため、急遽、2冊続けての発行になりました。
と言うことで、94号も1週間後の発行予定です。
事務局では希望される方にそのKORASANA 93号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。
KORASANA 93号をご希望の方は、このホームページ左上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
今号では、久留米昆蟲研究會で2017-2018年に実施した釈迦岳の成果の内、未発表の分類群であった水生昆虫類、トンボ、セミ、チョウなどの報告と、会員有志で2019年に実施した甑島調査の、夏の甲虫、カメムシ、水生昆虫の結果などを中心にお届けしました。
さらに、甲虫類の各研究者には、コメツキ、ハナノミ、ゴミムシなどご専門のグループについて報告・解説していただきました(以上、編集後記より)。
目次
KORASANA № 93. 2020
報文
今坂 正一・有馬 浩一[ 釈迦岳で観察したセミとトンボ ]・・・・・・・1
国分 謙一・今坂 正一[ 八女市矢部村 釈迦岳の蝶(2018年) ] ・・・・・3
司村 宜祥・今坂 正一[ 2018年に福岡県釈迦岳等で採集した水生昆虫類 ]9
小田 正明[ 八女市釈迦岳の甲虫 (I) ]・・・・・・・・・・・・・・・19
久末 遊 [ 英彦山アリ類目録 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
今坂 正一・緒方 義範
[ 英彦山で採集したオオアオホソゴミムシについての訂正 ] ・・・・・40
今坂 正一・國分 謙一・伊藤 玲央・有馬 浩一
[ 甑島採集紀行2019年夏 ]・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
伊藤 玲央・今坂 正一・国分 謙一・築島 基樹・内藤 準哉・有馬 浩一
[ 2019年までに採集した甑島列島のカメムシ類 ]・・・・・・・・・・109
井上 翔太・今坂 正一[ 2018-2019年に採集した甑島のアリヅカムシ ] 123
築島 基樹・中島 淳[ 2018年に鹿児島県甑島で採集した水生昆虫 ]・・127
正木 清 [ ミヤケムネナガコメツキとヒダムネナガカバイロコメツキ(黒色タイプ)について ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133
畑山 武一郎[ シナノヒメハナノミおよび近縁種ミナミシナノヒメハナノミ(新称)について(鞘翅目ハナノミ科ヒメハナノミ族) ]・・・・・・・・・・141
森田 誠司 [ アカヒメヒョウタンゴミムシについて ] ・・・・・・・149
短報
小林 修司 [ 杉の丸太でフクチセダカコブヤハズカミキリを採集 ]・・39
今坂 正一・緒方 義範[ 英彦山産オオキバハネカクシについての訂正 ] 39
小旗 裕樹 [ 福岡県英彦山でトワダムモンメダカカミキリ成虫を採集 ]42
小旗 裕樹 [ 大分県黒岳周辺で鹿糞よりキマダラマグソコガネを採集 ]42
コラム 梅野 忠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154
上甑島の変(ハイブリッド?)なコガネたち
2019年から、会員有志で上甑島・下甑島の昆虫調査を始めた。
従来は、下甑島の調査が主で、上甑島の甲虫相については余り知られていなかった。2019年6月の上甑島では、様々の余所では見られない色彩変化を持つコガネムシ類が見られた。
まず、ナガチャコガネ。九州本土産は明るい黄褐色だが、下甑島産は黒に近い黒褐色。しかしながら上甑島産は本土産よりやや濃い黄褐色から下甑島産より薄い黒褐色まで様々に変化する。
次いで、クリイロコガネ。写真の個体はほぼ黒と言って良い黒褐色。本土産は名前の通り赤っぽい栗色で、色変わりを見たことがない。しかし、困ったことに、上甑島産はさらに淡い黒褐色の個体と、やや黒っぽい栗色の個体を確認している。
それから、ハナムグリ。頭と前胸側縁、そして、脛節背面は緑銅色。本土など、通常はこの部分は明るい赤銅色である。同様の色彩タイプは男女群島産が知られる。
最後に、アオハナムグリ。画面上段は頭と前胸の背面。下段は腹部である。背面は赤銅色から緑銅色まで変化があり、赤みの強いものほど腹部は黒味が強い。五島に背面は赤紫色から赤銅色、腹部は黒色でまったく金属光沢のない五島亜種が分布するが、上甑島産の腹部は黒くても多少銅色光沢がある。
上甑島産のハイブリッドぶりについての解説は、今坂ほか「甑島採集紀行2019年夏」を参照(以上、表紙解説より)。
キュウシュウエゾゼミなど8種のセミと、ミヤマサナエなど6種のトンボの記録。
2018年度はクロヒカゲモドキを筆頭に、オオウラギンスジヒョウモン、メスグロヒョウモン、ミスジチョウ、ミズイロオナガシジミ、フジミドリシジミなど65種が記録されています。
2017年度と併せて、釈迦岳から69種のチョウが確認されました。
釈迦岳周辺で採集されたたカゲロウ目3 科3 種、カワゲラ目6 科32 種、ヘビトンボ目1 科2 種、アミメカゲロウ目1 科1 種、トビケラ目19 科51 種の計89 種が記録されています。
さらに、近隣の、高良山周辺、九重山、五家荘の水生昆虫も報告されています。
このうち、ウチダヒメカワゲラ、アシガラクダトビケラ、キブネクダトビケラ、ミジカオナガレトビケラ、ヨシイナガレトビケラ、ナガレヒゲナガトビケラの6 種は九州初記録、ニセオカモトホソカワゲラは福岡県初記録です。
釈迦岳周辺での確認種数は、2017 年の記録 (司村・今坂, 2018) と合わせると計93 種になります。
小田さんの「八女市釈迦岳の甲虫 (I)」では、304種の甲虫が記録され、ムラサキスジアシゴミムシ、オオダイセマダラコガネ、ルイスナカボソタマムシ、ツヤバネベニボタル、ルイステントウ、ルイスマルムネゴミムシダマシ、ヨコヤマヒゲナガカミキリ、カスガキモンカミキリ、ヒメシギゾウムシ、トドマツアナアキゾウムシ、ババナガクチカクシゾウムシ、ユリコヒメクチカクシゾウムシ、クロモントゲトゲゾウムシ、イケザキアシブトゾウムシ、トネリコアシブトゾウムシなど、2017-18年の釈迦岳の調査では得られていない種が含まれています。
英彦山から47 種のアリがリストアップされています。この内チャイロムネボソアリは福岡県初記録です。
希少種のヒコサンムカシアリとミヤマアメイロケアリは記載されて以降、英彦山では再発見されていないので、現在の生息状況について調査が必要と、結ばれています。
緒方(2019)で報告されたオオキバハネカクシ(今坂が同定)は、本種の誤りであったので、訂正しました。
同様に、緒方(2019)で報告されたオオアオホソゴミムシも、正しくはモリアオホソゴミムシであるとして訂正し、2種の区別点や生態の違いなどを報告したものです。
小旗さんにより、トワダムモンメダカカミキリ(英彦山)、キマダラマグソコガネ(黒岳)が報告されています。
(トワダムモンメダカカミキリと、キマダラマグソコガネ)
次は、今坂ほかの甑島夏の採集紀行です。
甑島列島からすでに、989種の甲虫が記録されています。
(甑島夏、図版1)
今回の目玉は、表紙の解説で述べられたように、上甑島と下甑島で色や形が違うものを並べた、図版1に載った種です。
これらの種は、特に上甑島において、さまざまな地域からの、別の個体群が侵入し、ハイブリッドとなっていることが示唆されます。
これら、侵入した種の甑島以外の出発地と、運んできた海流を推定したのが、図52です。それぞれの種についての説明は本文を参照下さい。
次の図版は下甑島で得られた興味深い種です。
以下の図版は、甑島での採集地と、調査に参加したメンバーなどです。
(採集地と、調査に参加したメンバー)
以上 、上甑島 267種、下甑島 418種、合計 550種 1亜種の甲虫を記録しました。
その結果、甑島列全体では 132種増えて 1124種 1亜種が記録されたことになります。
また、チョウは31種を記録したことになります。
甑島列島産31科142種のカメムシ目異翅亜目が記録されています。
図示された18種は甑島列島から初めて記録された種です。
ミナミスケバチビカスミカメやヒロズカメムシ、ウスモントビイロカメムシのような南方系種も発見されています。
この結果、甑島のカメムシ類は241 種になります。
甑島では11種のアリヅカムシが記録されています。
このうち野村(2015)によると、キヒゲアリヅカムシの近似種、アラメヒゲナガアリヅカムシの一種、オオアシナガアリヅカムシの一種、オオトゲアリヅカムシの一種の4種は、未記載種ながら下甑島の固有種と考えられています。
今回、9種が報告され、このうち、ナガスネアリヅカムシの近似種、ヤマトオノヒゲアリヅカムシの近似種、オノヒゲアリヅカムシ属の一種の3 種は甑島列島から初めて記録される種で、それぞれ、甑島列島固有種の可能性があります。
甑島から35種の水生昆虫を記録されています。
そのうち、本島の新記録と思われる種は、ケシウミアメンボ、コガタノゲンゴロウ、ホソゴマフガムシ、ヒメドロムシ科の7種の計10種です。
ヒメドロムシ科のうち、ナガアシドロムシ属の一種とヒメツヤドロムシ属の一種は未記載種と思われ、ツブスジドロムシについても検討中のようです。
紀伊半島・四国・九州の黒色、大型のEctinus属についての解説です。
九州産は、四国・紀伊半島産とは、別種、あるいは別亜種として認識でき、暫定的に、ミヤケムネナガコメツキと表示されています。
四国・紀伊半島のヒダムネナガカバイロコメツキは、原産地の岐阜県産とは、種々の差があります。
さらに、中部地方以北では、この種を含めて、上翅が茶褐色を呈する大型 Ectinusが数種報告されていて、今後、検討する必要があると指摘されています。
シナノヒメハナノミは長野県松本市扉鉱泉産1♀を基に渡慶次稔氏によって1953 年に記載された種です。
非常に稀な種のようで、その後、神奈川県南足柄市大雄山から記録されているだけです。
しかし、畑山氏の手元には北海道から石垣島までの広い範囲からの個体が集まっているようです。
これらの標本を検討された結果、北海道から九州、甑島までがシナノヒメハナノミ、トカラ中之島と奄美大島、石垣島産は、台湾から知られている近縁種ミナミシナノヒメハナノミ(新称)の日本初記録となるようです。
(シナノヒメハナノミと、ミナミシナノヒメハナノミの分布図)
森田氏は、御研究中のClivina 属の中から、九州から沖縄方面に分布するアカヒメヒョウタンゴミムシをとりあげ、種の特徴、近縁種との区別点などを解説されました。
さらに熊本県産を記録し、図示されています。
なお、久留米昆では、次次回、95号を2020年末に発行したいと考えています。会誌には会員からの原稿を、無制限に受け付けています。
発表する機会や会誌が見当たらない虫屋・研究者の皆さん、久留米昆に入会すれば、いくらでも発表できます(1年間の会費:3500円)。
奮って入会し、原稿をお寄せ下さい。
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