今年の春の訪れは甑島から 2回目です。
3月23日
朝食後、民宿みかくの後ろの谷間(中甑)を歩いてみました。
草藪の中に踏み込んで、ススキの枯れ草を叩いてみます。
数は少ないながら、それなりの虫が落ちてきます。大部分が耕作地周辺や枯れ草にいる種です。
アミメクビボソハネカクシ*、マルモンホソアリモドキ* Sapintus irregularis (Nomura)、キベリチビケシキスイ、ミツモンセマルヒラタムシ、ケシコメツキモドキ、ゴマフツツキノコムシ、ツヤキバネサルハムシ、ウリハムシ、ツブノミハムシ、ワタミヒゲナガゾウムシ等が採れました。
(アミメクビボソハネカクシ、マルモンホソアリモドキ)
(註. 当初、タチゲクビボソハネカクシとして表示していましたが、写真を見た伊藤建夫さんの指摘で、標本を確認していただいた結果、アミメクビボソハネカクシ Stilicopsis insulicola Ito 九州(長崎西彼杵半島),屋,徳に訂正しました。伊藤さんが新種記載された種です。ご教示いただいた伊藤さんに感謝します。)
このうち、マルモンホソアリモドキはトカラ中之島以南で知られ、上甑島は北限記録になると思います。
国分さんもシロジュウシホシテントウやウスグロチビカミナリハムシを採集されていました。
他にも何か採れないか熱心に叩いていたら、「何をしてる?」との声が掛かりました。
不審に思われて良く声を掛けられるので、「昆虫の調査をやっています」とそれなりの返事をしました。
放棄畑地と思っていたのですが、「そこの枯れ草は俺が刈った」と、斑状に耕作をされている持ち主だったようです。
話を聞いてみると元自衛官で、退職後帰郷して、藪になっていた元畑の所有地を開拓し直して、畑を再生されているとか・・・。
話し好きで、昆虫や生き物、草花にも興味があると言うことなので、採集そっちのけで話し込んでしまいました。
それを築島さんが持参したドローンで空中から撮影したのが次の画像です(右上は人の拡大図)。
画面に映っている墓地以外の範囲は、その植本さんの所有らしいです。
上甑島にも虫に興味のある知人がいたら良いなあと思っていたので、持参した「甑島列島の甲虫類」を渡しました。
「上甑島で砂浜があるところを探している」という話をしたら、「上甑島には殆ど無い。1カ所、昔、砂浜があった場所を知っているから案内してやろう」とのことで、さっそく、宿を引き払って、案内していただくことにしました。
植本さんの軽トラの後ろを付いていくと、中川原のキャンプ場(ここの小さい湿地では築島さんがゲンゴロウ類などを採集されたそうです)を過ぎ、急坂を登って、また急坂で浜に降ります。
なるほど、ここは案内して貰わずには、まず、たどり着けません。
浜を見てガッカリ。あったという浜はずいぶん痩せていて、ごく狭まっており、礫ばかりで砂はありません。
植本さんも、案内したものの拍子抜けで、その後戻って行かれました。
少し叩いてみましたが、ツチイナゴがあわてて飛び出したのと、次の写真の甲虫程度で、先に進むことにします。
採れたのはモンクチビルテントウ、ドウガネツヤハムシ、タイワンツブノミハムシ、サメハダツブノミハムシくらい。国分さんもルリシジミと、カクムネベニボタル、ケオビトサカシバンムシ*、ケナガサルゾウムシ*を採られていました。
さて、上甑島2日目 3月23日の採集地を以下に図示します。ナンバー順に回っています。
次に何処へ行こうかと思いましたが、「牧場へいってみましょうか」との築島さんの提案で、船見山の牧場へ向かいます。
ここは、上甑島の西端の集落桑之浦の集落から少し戻った谷を北へ入ったところです。
(桑之浦、船見山牧場は正面右のポール2本の裏の道を左に300mほど入ったところ)
牧場は山の南斜面を伐採して牛を放牧してありましたが、最近はどこも病気の関係で関係者以外の立ち入りは出来ず、柵の手前の道沿いで少し叩いてみました。
道横は藪を払い伐採してあって枯れ木も多少有りましたが、とにかく風が強く寒いので早々に引き上げました。
ここではキムネチビケシキスイ、ケシコメツキモドキ、ヒメカメノコテントウ、ウスグロチビカミナリハムシ、ワタミヒゲナガゾウムシ、スネアカヒゲナガゾウムシ、ナガクチブトノミゾウムシ*、ウスグロアシブトゾウムシ*が採れました。
(ナガクチブトノミゾウムシ、ウスグロアシブトゾウムシ)
ナガクチブトノミゾウムシは珍品のようで、九州(佐多岬)、徳之島、沖縄の記録が見つかりました。上甑島は北限記録のようです。
築島さんはハヤトニンフジョウカイ、コクロヒメテントウ、カワムラヒメテントウ、コマルノミハムシ、キイチゴトビハムシ、シラホシクチブトノミゾウムシを採られていました。
次に、本日メインの採集場所の1つ、なまこ池に向かいます。
ここは上甑島の主観光地で、長い砂州が汽水湖を抱き込んだ国内有数の、珍しくて風光明媚な地です。
20年ほど前に国分さんが家族旅行で訪れて、「クロツバメシジミの食草であるタイトゴメが浜一面に生えていたのを見た。」と言われていたので、あるいは砂浜が延々と続いているのかと期待しました。
しかし実際は、ここも大きな丸石の礫浜で砂浜はほとんどありませんでした。
(なまこ池の砂州、実は礫浜の外洋側、林縁の足下はほとんどタイトゴメに被われる、右上は拡大図)
多分、時期にはクロツバメシジミが乱舞しているのでしょう。
調べてみると、このチョウは上甑島の記録だけで、下甑島では記録されていないようです。
砂州(長目の浜)上は海岸植生の樹林で、ウバメガシが多く見られました。
風当たりの強くない側の日だまりには、葉上に虫が見られ、陸側のヤマザクラにはハラグロハナムグリハネカクシもいました。
採集できたのは次の写真の通りです。
(なまこ池-長目の浜で採集した甲虫)
ウバメガシ葉上にはガロアノミゾウムシが多く無数にいました。また、ハナムグリ、ハヤトニンフジョウカイ、ヒメトサカシバンムシ*、クギヌキヒメジョウカイモドキ、フタモンヒメナガクチキ*、フタイロカミキリモドキ、ムシクソハムシ、クロケシツブチョッキリ、ムネスジノミゾウムシ、オビアカサルゾウムシ*等が落ちてきました。
ここは、他の場所とは植生が全く違うので、夏季にライトトラップを実施すると面白そうです。
風が強いのと、気温が上がってこないのとで、国分さんも築島さんも、あまり採れなかったと話されていました。
国分さんはルリシジミを採集し、キタキチョウとモンキチョウを目撃、風が強くて採れなかったそうです。
築島さんは上記以外に、ベニシジミ、アカアシオオクシコメツキ、オオフタホシテントウ、ズマルトラカミキリ、ウスアヤカミキリ、コナライクビチョッキリを採集されていました。
(アカアシオオクシコメツキ、オオフタホシテントウ、ズマルトラカミキリ、ウスアヤカミキリ)
そろそろお腹もすいてきたので、昼食場所を物色し、眺めの良い駐車場で車を停めました。ここが長目の浜展望所でした。
良い機会なのでここで3人並んで記念撮影です。
(記念撮影、左から、築島、国分、今坂)
それから弁当を済ませて、ふと見ると、すぐ横に菜の花のお花畑が広がっています。
多少は訪花性の昆虫が来ているものと考えて、なるべく花を散らさないように、ソッとスウィーピングをしてみます。
(菜の花などで採れたハナアブ、ハナバチ、ヒシバッタ、ウシカメムシなど)
国分さんはルリタテハを見つけて追いかけられましたが、残念ながら取り逃がしたそうです。
築島さんが、二人のショットをドローンで上空から撮影していたので、ついでに3人でいるところも撮って貰いました。
期待と異なり、菜の花にいたのは、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、クロフナガタハナノミ、クロウリハムシ、コマルノミハムシ、ダイコンサルゾウムシ*くらい。
周辺の林縁を叩いて、キムネヒメコメツキモドキ、チャイロズマルヒメハナムシ* Litostibus festivus (Motschulsky)、ベニヘリテントウ*、タイワンツブノミハムシ、ツブノミハムシ、ウスグロチビカミナリハムシ、クロケシツブチョッキリ、ハスジカツオゾウムシ、ツツノミゾウムシ*、エノキノミゾウムシなどが落ちてきました。
ヨツモンカメノコハムシ*も見られて、甑島にも入っていたか・・・、という感じです。
さて、次は、と考えて、昨日比較的虫の多かった牧の辻段へ行くことにしました。
3人三様、好きなところへ行くことにして、国分さんは風車周辺の明るい草地に、築島さんは遠目木山へ向かいます。
今坂は牧の辻段の北斜面で落ち葉を採集し、そのあたりを探索することにしました。
林床の落ち葉の層は余り発達してなくて、けっこう乾いています。林内は石垣の段状になっていて、里の街が近いせいか、常に、人に使用されていた林のようです。
後日、自宅で簡易ベルレーゼで抽出して、クロズホナシゴミムシ、ハバビロハネカクシ、ルイスセスジハネカクシ、ヒコサンコバネハネカクシ、マメダルマコガネ、マルキマダラケシキスイ*、クリイロムクゲキスイ*、フタモンヒメナガクチキ*、クロテントウゴミムシダマシ、オチバゾウムシの一種、ヒサゴクチカクシゾウムシが出ました。
さらに、ツチゾウムシの一種* Trachyphilus sp.も1個体採れました。
本属は、それまで国内から3種が知られるだけだったものが、森本ほか(2015)により88種が分類・記載されています。主として、北九州から西日本で山ごとに多数の種に分けられていますが、甑島を含む南九州の記録は無いようで、甑島産は種の決定ができないだろうと思います。
(クリイロムクゲキスイ、ツチゾウムシの一種)
森本 桂・中村剛之・官能健次(2015) 日本の昆虫 Vol. 4 クチブトゾウムシ亜科(2), 758pp.
それから、林道沿いに下りながら林縁を叩いてみます。
ふと見るとトンボが縄張りを張っていて、よく見るとウスバキトンボ!!です。
3月にウスバキトンボとは・・・北部九州では考えられません。
しかし、後日、鹿児島昆虫同好会のメーリングリストでは、この日各地で本種が目撃された話題が飛び交っていましたので、南九州ではそれほど不思議なことではないのでしょう。
道横にあった立ち枯れをスプレーしてみましたが、種不明のデオキノコとダルマチビホソカタムシ、セマルチビヒラタムシ*くらい。
林縁の葉上からはカタモンマルハナノミ* Sacodes amamiensis (M. Sato)、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、シロジュウシホシテントウ、コモンヒメコキノコムシ*、マダラニセクビボソムシ、マダラアラゲサルハムシ、カシワクチブトゾウムシ、ミスジマルゾウムシ*、シラホシクチブトノミゾウムシが落ちてきました。
(セマルチビヒラタムシ、コモンヒメコキノコムシ)
このうち、カタモンマルハナノミは薩摩半島南端から石垣島まで記録されている種で、上甑島が北限になります。
夕刻の待ち合わせ時間になり、遠目木山へ出かけていた築島さんの車に拾って貰ってから、国分さんと待ち合わせし、市の浦のトラップを回収へ。
国分さんはルリシジミとアカタテハ、そしてやはり、ウスバキトンボを採られたようです。
築島さんは遠目木山でベイトトラップを掛けてきたとのこと。
(訂正:当初、ケブカヒゲナガとして紹介していましたが、九州大学の広渡教授から「キオビクロヒゲナガ」だろうとご教示いただいたので訂正しました。広渡教授にお礼申し上げます。キオビクロヒゲナガは北海道,本州,四国,九州,対馬に分布する種のようです。)
市の浦のトラップは前回書いたように大したことはなかったのですが、途中、築島さんは朽ち木を崩して、クロツツマグソコガネ*とコゲチャミジンムシダマシ*を採られていました。
それから、今夜の宿へ。
1日目、22日は食事付きの宿でしたが、本日は、築島さんのが見つけてきた合宿所。古民家を再利用した宿「凪の里」で、ガス・水道・炊飯器・一人一合のお米・食器・寝具・水洗トイレ・給湯器の風呂が付いていて、一人一泊3000円。
古民家だけあって、全室畳敷き、炬燵付、炊事場は土間で懐かしい感じがしました。
学生などの夏季合宿などに良く使用されるそうです。
築島さんが、飯炊きから、レトルトカレーの温め、配膳、盛りつけ、後片付けまで、全て、やってくださったので、年寄り二人は「食べる人」をやっていれば良く、楽をさせていただきました。
宿は里町中薗の西側海岸沿いにあり、終日、梢を吹き渡る強い風の音を聞きながらの就寝でした。