4月16日阿蘇-瀬の本方面に出かけました。
この9日前、7日には、阿蘇の細流の有る湿草地にピットフォールトラップを設置していたので、その回収のためです。
水辺の脇に設置したピットには、驚くべき事に、ヒメゲンゴロウが2個体も入っていました。
時々、陸地に這い上がって移動するのでしょうか?
水辺から離れた草地は、まだ芽吹いたばかり。標高1000m近い草地ではまだ虫が動くには早すぎると思い、今回はまだ何も入っていなくても仕方ない、下見のつもりでした。
ところがです。
ピットを覗いて見ると、なんと、セアカオサムシが入っているではないですか。
隣にはニワハンミョウの姿も見えます。
高原の春はせいぜい5月後半から、と思っていたのですが、早くても、やってみるものですね。
ニワハンミョウは山林の道沿いなどで見ることが多いのですが、こんな草地にもいるんですね。
それも、こんな早い時期から。
実は、ピットの設置の時、50m程先を走って逃げるタヌキを目撃していました。
これがもし、黒蜜などのエサ(ベイト)を入れたベイトトラップだったら、たぶん、1つも残っていなかったでしょう。
保存液だけ入れていたコップは、4つがイタズラされていましたが、他は無事でした。
結局、約30個ほど掛けたピットに入っていた甲虫類が次の写真です。個体数は多くないですが、結構種数はあり、ピットもかなり有効な採集方法です。
セアカオサムシが5個体、ニワハンミョウが2個体、前述のヒメゲンゴロウ、マルクビツチハンミョウ、ヒメキベリアオゴミムシ、ニセマルガタゴミムシ、ハッカハムシ、コガタルリハムシ、カキゾウムシ、
そして、ミズタマソウカミナリハムシ(♀のため不確実)かと思われるもの。
当然、裸地〜草地〜湿地で見られるものばかりです(カキゾウムシは?)
右側の小さくて良く見えないのは、セスジハネカクシの一種とトビハムシ類などです。
下の方の2個体のゴミムシに注目してください。
回収の際は、ツヤヒラタゴミムシ(Synuchus)の仲間だろう、ぐらいに考えていました。
帰宅して検鏡してビックリ!!
マルクビゴミムシ(Nebria)の仲間ではないですか・・・。
体長は10mm程度、まだ未熟個体ですが、足が黄色く、肩が張って、後翅がある・・・ということは、チョウセンマルクビゴミムシ Nebria coreica Solskyということになります。
湿地性で、国内では、中部以北の本州の分布が知られています。
国外では、朝鮮半島から中国、シベリアにもいるので、九州にいてもおかしくないのですが、それでも、関西以西でまったく知られていない種ですから・・・。
何か未知のもの狙いで、早春の高原にピットフォールトラップを掛けたわけですが、いきなりの大物出現・大ヒットで、我ながら呆れてしまいました。
九州の阿蘇〜九重の高原では、オオルリシジミを始めとして、中部地方から、西日本各地を飛び越して分布する種が見つかりますが、本種もその代表的な種の1つになりそうです。
そのゴミムシの右横の方に写っているのは、イチゴハムシ、ギシギシクチブトサルゾウムシ、オオシロモンサルゾウムシ、シラフチビマルトゲムシです。
このうち、オオシロモンサルゾウムシ Hadroplontus ancora (Roelofs)はアザミ類につく種ですが、あまり見かけません。
さらに、右側のケシツブみたいなトビハムシ類には、ヒメドウガネトビハムシ、アカアシナガトビハムシともう一種、黒っぽいアシナガトビハムシが含まれていました。
(黒っぽい上翅に褐色紋のあるアシナガトビハムシ♀)
一見、コクロアシナガトビハムシに似ていますが、♀の上翅には肩部から側縁にかけて褐色の部分が有ります。
一緒に採れている♂の交尾器を確認すると、それはどうも、コクロアシナガトビハムシのものに該当します。そうすると、この♀もコクロアシナガトビハムシなのでしょうか?
(コクロアシナガトビハムシの♂交尾器)
斑紋のあるコクロアシナガトビハムシなんて、まだ聞いたことがありません。
高原の裸地〜草地〜湿地の、芽吹いたばかりの、一見、まだ何もいそうに無い地表で、結構、いろいろな甲虫たちが活動しているものです。
さて、次の目的地、瀬の本高原に向かいます。
牧ノ戸峠への登り口のあたりは、ミズナラ・コナラを主とした林が広がっており、先日、低地の高良山で試みた立ち枯れなどのスプレーイングを、今度は1000m以上の高地で試してみようと言うわけです。
ナラ林はまだほとんど芽吹いておらず茶色い木立のみ、南面に当たるためか、林内は明るく乾燥しているようでした。
あちこち探してやっと立ち枯れとキノコの付いた倒木、あわせて3本のスプレーイングを実施したその成果が次の写真です。
左上から、クジュウツツナガハネカクシ Lobrathium kujuense T. Ito、ニセハネスジキノコハネカクシ Carphacis paramerus Schulke、ハスオビキノコハネカクシ、ヒメキノコハネカクシの一種、ヘリトゲヨツメハネカクシ、ホソスジデオキノコムシ、アカハバビロオオキノコムシなどが含まれています。
このうち、クジュウツツナガハネカクシは昨年のハネカクシ総目録の発行後に、年末、伊藤さんによって九重と英彦山から新種記載されたばかりの種です。
Ito T., 2013. Notes on the species of Staphylinidae (Coleoptera) from Japan XVI. Description of a new species of Lobrathium Mulsant et Rey from Kyushu. Elytra, Tokyo, New Series, 3(2): 199-203.
また、ニセハネスジキノコハネカクシも九州では大分県だけで記録されている種です。
それから、狙ったツツキノコムシですが、個体数こそ少ないものの、
ゴマフツツキノコムシ
ミヤマツツキノコムシ Cis nipponicus Chujo 北海道,本州,四国,九州
キタツツキノコムシ
ポリアヒメツツキノコムシ Anoplocis poriae (Nakane et Nobuchi) 本州(長野),四国(香川・愛媛),対
チュウジョウエグリツツキノコムシ
オモゴツヤツツキノコムシ Octotemnus omogensis Miyatake 本州(鳥取・岡山),四国(徳島・高知・愛媛),九州(大分祖母山)
ヒメツヤツツキノコムシ
ミツノツツキノコムシ Odontocis denticollis Nakane et Nobuchi 北海道,本州,四国,九州(福岡)の8種と、
あと同定できなかったCis属の一種の、合計9種も含まれていました。
以上のうち、和名だけで、学名と分布を書かなかった4種は、前回、低地である高良山のツツキノコムシ類として紹介した種です。
期待したとおり、標高1000mの高原のナラ林には、低地では見つからなかったツツキノコムシが未同定種も含めて5種もいました。写真と共に紹介しましょう。
◎ミヤマツツキノコムシ
キタツツキノコムシを細長くしたような種です。普通は黒褐色ですが、この個体はまだ若いのかもしれません。前胸の毛は寝ていて、上翅の立っている毛もより細く短いです。♂の腹孔は1つ。山地では最普通種のようです。
◎ポリアヒメツツキノコムシ
1.4mmと、ヒメツヤツツキノコムシより少し大きい程度。細長くて突起も無く特徴が少ないですが、背面全体に黄白色の短い鱗毛を密生することで区別できます。一見、コキクイムシのどれかのようにも見えます。山地にいる種のようですが、九州本土の記録はなさそうです。
◎オモゴツヤツツキノコムシ
ヒメツヤツツキノコムシに良く似てますが、1.5mmあり、二回りくらい大きい感じです。♂の大あごは左右同形、前胸は印刻のためツヤが無く、点刻は大きく、毛を疎生します。四国と九州の山地と鳥取・岡山で記録されているようで、山地では割にいるようで雲仙岳でも採集しています。
◎ミツノツツキノコムシ
♂は前胸の中央に稜のある3角形の突起があり、両サイドの角ばりと共に、ミツノの元になっています。♀はこの角は無く特徴が少なく前種などとも似ています。こちらも山地性のようで、同様に雲仙岳でも採集しています。
◎未同定種
2.4mm前後、♂は腹孔が1つ認められ、前胸と上翅の立った毛はかなり長く、点刻も浅いけど大きいです。キタツツキノコムシとキムネツツキノコムシ Cis subrobustus Miyatakeに似ていますが、よく解りません。
また、前回も紹介したゴマフツツキノコムシですが、今回の個体は、上翅の黄色地に黒い不規則な模様がよく見えるので再度写真を掲載します。
ただ3本のスプレーイングでしたが、多少のキノコにも、結構、多種類のツツキノコムシ類が生息しているものですね。
山地と低地で違った種類がいるのも面白く、機会があったらまたやってみようと思います。
車の所まで戻ってくると、車道の反対側の斜面にアシビの花が一面に咲いていて、コブシの花も咲いていました。
思いついて掬ってみると、コブシには結構虫が集まっていました。
コブシの花弁に茶色い食痕が残っていたのは、ムネアカオオノミハムシ Luperomorpha collaris (Baly)の食害でした。この種はあちこちで見られますが、ほとんど、1個体ずつで、まとまって採れることは少ないようです。
おまけにホストも知られていないようで、何を食べるのかと思ってましたが、花喰いだったとは気がつきませんでした。
この後、午後の黒岳でもやはりコブシの花を食害していたので、ホストの1つと考えて良いと思います。
このコブシとアシビの花で見つけたのが次の写真の甲虫たちです。
左上からカバイロコメツキ(九州産は黒いです)、シロジュウシホシテントウ(紅型・グミにいました)、ヒメカメノコテントウ、ナガハムシダマシ、クロウリハムシ、
左の黄色いのはキスイモドキ、下の黒っぽい斑のムシはツノブトホタルモドキ、ケシキスイが3種(ムネアカチビケシキスイ、キバナガヒラタケシキスイ、キベリチビケシキスイ)、これらはコブシの花粉に集まっていたと思われます。
ツブノミハムシと思われたのは全てキアシツブノミハムシ、ノイバラだの、キイチゴだの、いろんな花だの、低地ならツブノミハムシがいる場所全てに本種がいます。
ヨツモンキスイ、ウスチャケシマキムシ、
ハナムグリハネカクシの仲間は、高良山など低地のハラグロハナムグリヨツメハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp)よりは明らかに小型で別の種と思いながら、該当種は見つかりませんでした。
この類は各地にまだ未記載の種がいるようです。
また、いつもの花に群れてるクロフナガタハナノミと思ったものは、♂の腹部の把握器(赤矢印)や腹節末端(緑矢印)の形から、タケイフナガタハナノミ Anaspis takeii Chujoと判明。山地で早い時期にいるものは本種を疑った方が良いかもしれません。
図鑑類には北海道・本州のみで九州の記録がありませんが、既に長崎県雲仙岳から記録(今坂,2001)しています。
(タケイフナガタハナノミ♂)
今坂正一(2001)島原半島の甲虫相3. 長崎県生物学会誌, (52): 56-73.
最後に、標本を見直していたら、見慣れぬケシキスイが見つかりました。
セアカヒメヒラタケシキスイ Epuraea submicrurula Reitterかな?とも思いましたが、確信が持てず良く解りません。
(セアカヒメヒラタケシキスイ?)
午前中はこれにて採集終了。
午後は九重の黒岳まで走って、下げているFITの甲虫を回収予定(以下次号)。