<和名は変えないで・・・>
これは余り知られていないことだが、和名を付けるための約束事(命名法)は決められていない。従って、先取権はないので、最初に付けられた和名が何であるか斟酌する必要はなく、その種をどのような和名で呼ぼうと自由である。
さすがに、相当前に分類がほぼ終了しているチョウなどについては、今更、和名を変更することは殆ど見られないが、多少とも、分類をいじくる余地があり、なおかつ、同好者や愛好者が多い群ではしばしば改名が見られる。
例えば、カミキリムシ類などでは、図鑑が新しく発行されると、特に必要とは思えない変更が散見されることがあるし、昨年発行されたバッタ図鑑などでは、分類が大幅に変更されたこともあり、多くの和名が変更されている。キリギリスがニシキリギリスに変わったと言われても、「はい、そうですか」と答えるしかない。これはとても困ったことである。
個人的には、できるだけ、最初に付けられた和名を使用し、よほど不都合がない限り、和名は変更しないようにした方が良いと考えている。
図鑑ごとに違った和名で呼ばれると、経緯を知らない者にとっては、新旧の関連性が解らなくなってしまう。
文献記録を集めて、地域リストを作るのには非常に大きな困難を抱えることになる。
その点、蛾類大図鑑などでは、異名として他の図鑑等で使用された古い和名が収録してあり、大変便利である。
他の図鑑類や総目録などでも、できればこういう配慮も必要だと思う。そうでないと、古い記録はどの種を指すのか、まったく解らなくなってしまう。
分類の再検討論文では、シノニミックリストと呼ばれる学名変遷の一覧表を付けることが、常識である。というより、これがない論文は、ほとんど無意味とみなされる。
しかし、甲虫の分野で、和名のシノニミックリストは殆ど見たことがない。
私が知っているのは唯一、大野(1971)による「日本産ハムシ科名彙」くらいか。
この本には1971年現在での、新旧のハムシの和名が初出文献名と共に掲載してあって便利である。
実は、大野先生は、主としてトビハムシ亜科についての系統分類の論文を多く発表されているが、その中で、かなり多くのハムシの和名を命名および改名されている。
高倉(1989)は「福岡県の甲虫相」として、県内の多くの市町村ごとの分布データをまとめられているが、ハムシは全て大野(1971)に準拠されていて、その和名は、特にトビハムシ亜科の多くが通常の図鑑類や九大総目録の和名と異なっている。
高倉(1989)では総論の部分では全て和名のみで種を示してあるので、おおげさにいうと、大野(1971)を傍らに置いていないと、種が理解できない。
大野先生の論文自体を読み解くためにも、大野(1971)は必携と言うことになる。
分類研究者の中には、時折、所属の再整理や変更に伴って、和名を変える人がいる。和名考 1で上げたルリクワガタが、その例に当たるかも知れない。
この場合は、オオルリクワガタに改名されただけで、実態も学名も変わっていないので、あるいは混乱は起こらないかも知れない。
しかし、学名を見れば解ると言う意味から言うと、和名を変える根拠も同時に無いと言えるだろう。
また、ニセコルリクワガタが、シコクルリクワガタ、キュウシュウルリクワガタ、キイルリクワガタに3分割されたのなら、基産地の四国産はニセコルリクワガタのままで良いではないかと思う。
あるいは、ルリクワガタとコルリクワガタは別系統との認識を明確に示すためには、少し長くなるが、キュウシュウニセコルリクワガタ、キイニセコルリクワガタとした方が、より明快かもしれない。
結論として、馴染んだ和名は変えない方が良いと思う。今回のルリクワガタとニセコルリクワガタの和名を変更すべき理由は乏しい。
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