<和名の混乱>
昨年、カワトンボ類が整理されて、ニシカワトンボがカワトンボに変更された。さらに、オオカワトンボは新しくニホンカワトンボに、カワトンボは新しくアサヒナカワトンボと言う和名に改名された。
また、昨年ルリクワガタ類も再検討されて、長く親しまれてきたルリクワガタがオオルリクワガタに変更され、ニセコルリクワガタは3種に分割されて、キュウシュウルリクワガタ、キイルリクワガタが新しく加わり、元のニセコルリクワガタはシコクルリクワガタに和名を変更された。
以上の文章から、過去と現在の関係、何がどうなったのか、分類と和名、種の実態と分布範囲について把握できる人は少ないに違いない。
それぞれのグループを専門にやっている人でないと理解が難しいのではないかと思う。
私自身、最初に上げたカワトンボ類については、あまりよく理解できていない。
学名は学問の進展に応じて、刻一刻変化していく。命名規約は学名の安定を第一義に決められているが、それは、常に変化するものを、可能な限り正当に変化させ発展させて行く目的で作られていると理解している。
従来国内で1種だと思われていた種群が、実際は2-3種混じっていたというのは、よくある話である。極端な場合は10種以上に別れる場合も有る。
私自身が専門にしているクビボソジョウカイ類などはその典型で、図鑑類には数種しか掲載されていないが、現在では120種以上が知られている。
また、ヨーロッパ産の学名があてられていた国産の種が、実は別の種で有ることが解って、新名が付けられることも多い。日本産の多くが、この課程を通って、現在の種に落ち着いている場合がむしろ多いのである。
逆に、よく知られていたはずの種の学名が、よくよく調べてみたら実は余り知られていなかった学名のシノニム(同物異名:同じ種に複数個の別の名前が付いていたという意味)ということが判明し、改名されることもある。
基本的に、学名は研究が進めば変化するもの、と考えた方が良さそうである。
一方で、だからこそ、和名はかつては余り変えられなかった。
和名は、ほとんどが自然発生的、あるいは農業や応用の部分では実用的に付けられ、慣用的に使用されてきたものである。
割と最近まで、官公庁の公文書や、地方同好会での種の取り扱いでは、和名のみで使用されることも多かった。
その場合、和名を変えると混乱することもあり、必要以上に和名を変更することは行われなかったようである。
和名は基本的には日本産か、あるいは日本人が取り扱う種に付けられた名前である。
外国産に和名を付けるのは付けたい人の勝手で、そのことに言及するつもりはないので、ここでは日本産に付けられた和名について限定して考えている。
外国に同じものがいようといまいと、亜種が同じか別かに関わらず、仮に、所属が変わろうが、種小名が変わろうが、カブトムシはカブトムシで良いわけである。
しかし、昨今は、冒頭に上げた例のように、分類学的な再検討に伴って、学名と和名を同時に変更しようという風潮が見られ、このことがかえって和名混乱の元になっているように思われる。
私は2002年に、和名についての小文を書いたことがある。
今坂正一, 2002. 和名と亜種和名についての一提案. 月刊むし, (373): 36-37.
その後、5年以上経過しているが、提案したことについても、ほとんど改善されてはいないように思われるので、上記の文と多少重複するが、和名について、数度に分けて考えてみたい。
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