種子島5日目最終日
4月26日
いよいよ種子島も最終日になりました。
昨日の晴れも一日限りのようで、朝からどんよりしていて、昼過ぎからまた雨になりそうです。
宿のお姉さんに頼んで、宿の前で記念写真を撮って貰い、早めに準備して宿を出ます。
(宿の前で記念写真)
大浦川と宿のライトFIT
まずは、宿の周辺と大浦川のマングローブ林に掛けたライトFITの回収です。
この2日ほど、天気が回復してからは、逆に夜は低温で、風も吹いていたこともあり、ほとんど何も入っていません。
辛うじて、2箇所併せて、コウセンマルケシガムシ*、☆オオカンショコガネ奄美・沖縄亜種*、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、◎シロモンチビゾウムシ*が入っていました。
なお、今回も、種子島初記録種には和名の後に*を付けることにします。
また、屋久島と種子島の両方が南限と思われる場合は○を、屋久島の記録がなく、種子島を南限とするする種には◎を和名の前に付けることにします。
同様に、種子島を北限とする種には和名の前に☆を付けることにします。
22日の到着時同様、車の中は荷物で満杯状態ですが、ライトFIT等をコンパクトに片付けて出発します。
今日の帰りのフェリーの出航時間は13時45分で、12時半までに手続きをする必要があるので、まあ、なんとかお昼まで時間があります。
(26日採集道程1)
いつものように、中種子町のJAに寄って弁当を買い、原之里に向かいます。
原之里
原之里は広い砂浜に河川が流れ込み、背後には草地と樹林が繋がっており、海浜性甲虫の生息地としては多様性のある理想的な環境です。
(原之里)
昨日までに、大部分のトラップは回収を済ませたのですが、原之里では、唯一、ベイトトラップとイエローパントラップの回収がまだ済んでいませんでした。
防風柵の内側の草地に設置したベイトトラップから回収していきます。
(防風柵の内側)
回収を手伝ってくれていた木野田さんから、「オオヒョウタンが入っていますよ」と声が掛かったので、慌てて見に行くと、確かに、◎オオヒョウタンゴミムシです。
自分で採ったのはこれが初めてで、思わず拾い上げて手に乗せると、ズッシリと重みがあります。
想像した以上にでかいです。
(掌にのせたオオヒョウタンゴミムシ)
ここで採れることは、記録等で知っていたのですが、こんな防風柵の内側の草地で採れるとは思いませんでした。
河川敷やその周辺の砂浜等のベイトトラップも回収したところ、◎ハラビロハンミョウ、◎コホソトビミズギワゴミムシ、◎ヤマトヒゲブトチビシデムシ*、◎キベリカワベハネカクシ、◎フトツヤケシヒゲブトハネカクシ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ*、タネガシマホソケシマグソコガネ、マダラチビコメツキ、ホソサビキコリ、☆シマヒメサビキコリ*、◎スナサビキコリ、ケシツブスナサビキコリ*、〇オオサワシラケチビミズギワコメツキ、〇アカアシコハナコメツキ、チビイッカク*、〇マルチビゴミムシダマシ、アカアシヒメゴミムシダマシ*、トビイロヒョウタンゾウムシ、イネミズゾウムシ*が入っていました。
オオヒョウタンゴミムシとは、対照的に2mm前後の微小種、ケシツブスナサビキコリとチビイッカクは、自宅でソーティング中に顕微鏡下で見つけました。
前者は琉球に広く分布する種で、北限は長崎市です。
後者はトカラ列島以南が別亜種に区別されていますが、種子島産がどちらの亜種に属するのか今のところまだ確認していません。
(左から、ケシツブスナサビキコリ、チビイッカク)
スナサビキコリのザラザラした質感、後翅が退化したシマヒメサビキコリもいました。
後者の後翅は退化していると言え、上翅端くらいの長さはあるようで、チラチラ覗いています(矢印)。
(左から、スナサビキコリ、シマサビキコリ)
(訂正
当初、ハマベオオヒメサビキコリと表示していて、後翅が退化しているはずの割に、長いと表示していました。正木さんに同定していただいたところ、それもそのはず、別種のシマヒメサビキコリと判明したので、そのように訂正しました。ご教示いただいた正木さんに深謝します。シマヒメサビキコリは屋久島と馬毛島の分布が知られているだけです。)
フトツヤケシヒゲブトハネカクシは砂浜の打ち上げられた海藻の下などに見られる種です。
木野田さんや國分さん、私も、海藻はひっくり返して見たのですが、ハサミムシ1匹見つかりませんでした。
しかし、ちゃんと居るのですね。
(海藻をひっくり返す木野田さんと國分さん)
また、ヤエヤマニセツツマグソコガネも琉球系の種ですが、どんどん北上しているようで九州本土各地でも記録が出ています。
草地、河川敷等の灯火で得られることが多いようで、特に糞食というわけでもなさそうです。
あと、アカアシヒメゴミムシダマシも琉球系ですが、本土各地でも記録が出ています。
本種も北上しているのでしょうか?
(左から、フトツヤケシヒゲブトハネカクシ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ、アカアシヒメゴミムシダマシ)
極めつきは、タネガシマホソケシマグソコガネで、今のところ、数少ない種子島の固有種です。
比較的最近、Ochi et al. (2011)により新種記載された種で、種子島の砂浜に限って発見されています。
今回も10個体得られており、少ないわけではないようです。
(タネガシマホソケシマグソコガネ)
Ochi, T., Kawahara, M. & M. Inagaki, 2011. Taxonomic notes some Japanese copropfagous lamellicorn beetles (Coleoptera, Scarabaeoidea) VIII. Description of a new species of the genus Psamodius and a new species of the genus Trichiorhyssemus (Aphodiidae) from Tanegashima Is., Southwest Japan. Kogane, Tokyo, (12): 69-77.
多少時間があるので、付近を叩いてみます。
木野田さんは、フタホシシリグロハネカクシ、アオバアリガタハネカクシ、クロクシコメツキ、オバケデオネスイ*、ヨツボシテントウダマシ、チャイロテントウ、ミヤケヒメナガクチキ*、ケオビアリモドキ*、〇ウスアヤカミキリ、☆オキナワツヤハムシ、セアカケブカサルハムシ、☆コウスアオクチブトゾウムシ*を採っていたし、
國分さんもキボシツツハムシ、ドウガネサルハムシ*、ウスグロチビカミナリハムシ*を追加されていました。
私はクシコメツキ、〇アカアシコハナコメツキ、ナナホシテントウ、ホソキカワムシ*、ワタミヒゲナガゾウムシ、トビイロヒョウタンゾウムシ、コフキゾウムシを採りましたが、あまりめぼしいものは落ちてきません。
時間がもったいないので次に進みます。
事前に調べていた場所のうち、まだ調べていないのは、種子島空港周辺です。
このあたりも種子島では高地になりますが、余り情報が無く、採集していませんでした。
(26日採集道程2)
国道58号線に戻り北上しますが、国道沿いはあまり良さそうなところはありません。
浜津脇から新種子島空港線(県道583号)に入り、標高を上げていくと、道沿いでも特に谷沿いは比較的発達した樹林があります。
次回にはこのあたりも調べる必要がありそうです。
空港に着いて、駐車場に車を止め、木野田さんに頼んで、榎戸さんに電話を掛けていただきました。
まだ10時半だし、彼も今日、帰ると聞いていたので、あるいは、空港で会えるかと思ったからです。
ところが、既に朝の便で経ったとのことで、東京に戻られていました。
今回の結果など詳細を聞きたかったのですが、少し残念です。
生姜山
さて、フェリーの時間までまだ2時間ほどありますので、良いと聞いていてまだ訪れていない、生姜山付近に行ってみます。
空港から少し戻って、右折し、生姜山公民館を過ぎて左折、尾根沿いの道をどんどん北上していくと、周囲には発達した林も見えます。
この先をどんどん下っていくと、大野林道の上辺りに出そうです。
道横は防風林のつもりか、かなり大きな木が残って居ますが、林の厚みは薄くて、その先は耕作地だったり、植林地だったりします。
なお、生姜山は山の名前と言うより、地域名(字名)のようです。
場所をちゃんと見つければ良さそうなところですが、時間がありません。
適当に木があるところで車を駐め、林縁を叩いてみます。
(防風林風の道横の林)
思ったより虫が落ちてきて、それも、今までとは若干違ったものが混じっています。
今回の採集は主として東海岸に集中しましたが、やはり、全域で満遍なく見る必要がありそうです。
木野田さんは〇コキムネマルハナノミ*、〇ウスアヤカミキリ、セアカケブカサルハムシ、ウスグロチビカミナリハムシ*、☆コウスアオクチブトゾウムシ*、〇クロホシクチブトゾウムシ*、シロアナアキゾウムシを、
國分さんは、☆オオカンショコガネ奄美・沖縄亜種*、クロハナボタル、◎クリイロジョウカイ、クロウリハムシ、ニセホソヒメカタゾウムシ*、ダイコンサルゾウムシ*を採られていました。
山地で夏に居るクリイロジョウカイが、こんな時期に、こんな低山で採れるとはビックリです。
(クリイロジョウカイ)
私も他に、フタホシシリグロハネカクシ、キアシシリグロハネカクシ*、〇オオシリグロハネカクシ*、アオバアリガタハネカクシ、タチゲクビボソハネカクシ*、セダカマルハナノミ*、ルリナカボソタマムシ、〇シロウズヒラタチビタマムシ、◎ヒゲナガコメツキ、〇クロミナミボタル、〇セボシジョウカイ、クロヒメナガシンクイ*、◎アミダテントウ、フタモンクロテントウ、チャイロテントウ、ヒサゴホソカタムシ、オキナワカミキリモドキ、〇マダラニセクビボソムシ*、◎クチキムシ*、〇コマルムネゴミムシダマシ*、アカガネサルハムシ、(仮称)キノダアラゲサルハムシ*、クロアラハダトビハムシ*、ヘリグロテントウノミハムシ、キイチゴトビハムシ、☆キベリヒラタノミハムシ、◎カシワクチブトゾウムシ、◎ツツゾウムシなど、全部で32種が採集できました。
大野林道につぐ種数です。
このうち、クロアラハダトビハムシは琉球系の種で、九州本土にもいることになっていますが、九州で採集した記憶がありません。
(クロアラハダトビハムシ、左から、背面、頭部前面、矢印は前頭隆起)
そろそろ、時間も迫ってきたので、懸案の落ち葉採集をすることにして、林に分け入ってみました。
(生姜山の林内)
かなり大きな木が繁ってはいますが、少し下がると植林地になりそうです。
木があるのはやはり、尾根道の両横だけかもしれません。
大木の根際や窪地などの落ち葉を篩い、残渣をポリ袋に溜めていきます。
小流の周りに濡れた落ち葉が溜まっていたので、それもかまわず篩います。
2-3kg分の残渣が溜まったところで切り上げて、車に戻りました。
國分さんたちも、帰り支度を始めたようです。
(車に戻る國分さんたち)
この生姜山の落ち葉は、帰宅後3日ほどかけて簡易ベルレーゼに掛けましたが、かなり面白いものが出ました。
アリヅカムシは野村さんに送りましたが、その他の13種は全て種子島初記録種、うち1種は屋久島固有種とされていた種です。
コウセンマルケシガムシ*、◎コアカツブエンマムシ+、ケシツブムクゲキノコムシ*、シンドシウム属ムクゲキノコムシの一種*、ツノフトツツハネカクシ*、◎カワベナガエハネカクシ*、☆マルダルマコガネ*、マルキマダラケシキスイ*、☆ダルマコメツキモドキ*、◎アナムネカクホソカタムシ*、◎ケバダルマツツキノコムシ*、ホソゲチビツチゾウムシ*、オチバゾウムシの一種*です。
ムクゲキノコムシ2種はいずれも、沢田さん同定の標本と比較して同定しました。
前者は北海道から沖縄まで、後者も本州から琉球まで、どちらも広く分布するそうです。
(左から、シンドシウム属ムクゲキノコムシの一種、ケシツブムクゲキノコムシ)
ムクゲキノコムシの仲間は微小で落ち葉の中に生息しますが、風などに巻き上げられて空中に上がると、軽すぎて降りてこられず、何処までも浮遊していくそうで、いきおい分布は広くなってしまうようです。
ダルマコメツキモドキは沖縄本島から新種記載された種で、トカラ中之島・宝島、奄美大島に分布し、種子島は北限記録になります。
近似の本州、四国、九州に分布するツブコメツキモドキとは、前胸側縁のトゲが顕著なこと(矢印)、触角の形、前胸腹板突起の形(白矢印)などで区別できます。
(ダルマコメツキモドキ)
また、従来、屋久島固有種と考えられていたケバダルマツツキノコムシが見つかったのも特筆すべき事です。
(ケバダルマツツキノコムシ)
本種は本州、四国、九州に分布するダルマツツキノコムシに良く似ていますが、頭に1対の小さな角を持ち(矢印)、背面の点刻は強く、微毛を伴うのが特徴です。
さらに、マメダルマコガネ似の種も出てきました。
2個体とも赤褐色で、すぐ近くの、屋久島固有のヤクシマアカチャマメダルマコガネと言う種があるので、その未熟個体かとも考えました。
念のため、日本産コガネムシ上科標準図鑑の解説を読んでみると、どうも、この種ではなく、マルダルマコガネのようです。
岡島秀治・荒谷邦雄監修, 2012. 日本産コガネムシ上科標準図鑑. 444pp. 学研教育出版.
(マルダルマコガネ、左から、背面、腹面、側面)
マルダルマコガネは、トカラ中之島・諏訪之瀬島・悪石島、奄美大島、徳之島で記録されており、種子島は北限になります。
隣の、屋久島ではヤクシマアカチャマメダルマコガネしか記録されていませんので、両島で近似の別種が棲み分けているのは興味深いです。
最後に、カブトガニ的な体型のハネカクシですが、アリヤドリの仲間*だろうと思うだけで、属も全く解りません。
形が面白いの紹介しておきます。
ご存じの方はご教示下さい。
(アリヤドリの仲間?)
この後、西之表港に直行しました。
(26日採集道程3)
往きと違って、帰りは余裕を持って港に着きました。
受付の窓口を探しましたが、港の建物の中ではなく、埠頭にあるプレハブ小屋でした。
鹿児島港の受付もそうでしたがが、何故か、種子島航路の受付は解りにくい場所にあります。
建物の待合室に戻って、弁当を広げ、その後で土産物を物色します。
あまり種類は多くなく、探すと、近くの別棟に土産物専門店がありました。
國分さんはそちらまで買いに行かれました。
運転手と同乗者は、別に乗船すべし、ということで、私だけ車に戻って待機すると、フェリーが入港してきました。
(帰りのフェリーが入港)
ポツポツ雨が降り出して、往き同様、帰りも雨です。
それでも、ほとんど風は無く、べた凪で、船が揺れなかったのは助かりました。
船内で、佐多岬通過のアナウンスがあり、出てみると、右側に見えていました。
(船の現在地の提示・赤いのが船)
(中央右の尖ったところが佐多岬)
定時に鹿児島港に着くと、木野田さんの奥さんが出迎えに来られていました。
当初、都城まで送るつもりでしたので、回り道せずに済み、大変助かりました。
その上、薩摩吉田ISの高速入り口付近まで先導していただいたので、迷わなくて済みました。
木野田さん、何から何まで、大変お世話になりました。ありがとうございました。
ここから國分さんと二人、九州道をひた走り、途中、SAで夕食とさらなるお土産を物色して、久留米着は午後9時半過ぎ。
短いけれど長くて有意義な種子島行きでした。
その後、1ヶ月近くかかってソーティングと同定を済ませたわけですが、種がまったく特定できない(同定の手がかりすらない)ものを除いて、309種を数えることが出来ました。
このうち、既に種子島から記録されていた種が152種、種子島新記録種が157種です。
また、琉球系の種で、種子島が北限記録になった種が17種です。
一方、本土系の種で屋久島の記録がなく、種子島が南限記録になった種が72種、そして、屋久島と共に南限になった種が56種です。併せると128種になります。
つまり、本土系の種で、種子島・屋久島を南限とする種が、採集した種の41.4%にもなるわけです。
旧北区系と東洋区系の種の分布境界(渡瀬線)は、これよりやや南の、トカラ列島にあります。
しかし、甲虫類としては、トカラ列島は島嶼の面積が小さく、生息できるニッチェが少ないのか、記録されている種数は多くありません。
結局、実質的な意味で、種子島・屋久島の南側が、旧北区系甲虫にとっての分布境界線と言えると思います。
今回の調査では、本土系の種が次々に出現して、その事を実感しました。
後は、そのような種の中で、種子島でどの程度の種が固有化できた可能性があるかという問題ですが、亜種化程度の軽度のものを含めると、以下の14種を上げることが出来ます。
ハバビロハネカクシの一種
タネガシマホソケシマグソコガネ
ビロウドコガネの一種①
ネアカクロベニボタル
コクロハナボタル
クロハナボタル
ニンフジョウカイの一種A
ニンフジョウカイの一種B
キムネツヤミジンムシ?
(仮称)ツマキモンマルミジンムシ
(仮称)メスアカアオオビナガクチキ
(仮称)キノダアラゲサルハムシ
(仮称)タネガシマクビボソトビハムシ
オチバゾウムシの一種
種子島で確認できた309種のうちの14種ですから、最大で、当初予想したのとほぼ同様の、4.5%程度の固有種率になりそうです。
おわり