一昨年から、私事で、島原半島に月2回程度通わざるを得ない状況になっています。
それでも、苦にならないためと、定期的に行かざるを得ない理由の補強として、FITを島原半島内3カ所に設置しました。
すべて、雲仙市内の国見町・吾妻町、そして最近設置した千々石町です。
国見町のFITは、標高100m程度、細流が流れる谷沿いに設置したものです。
4月1日の回収では、写真左上のアカバツヤクビナガハネカクシ Liotesba punctiventris Sharpを始めとして、ヒゲブトハネカクシ類、ヒメキノコハネカクシの一種、
下段のヘリアカヒラタケシキスイ、セマルハバビロハネカクシ、ヒゲブトチビシデムシの一種、ダルマチビホソカタムシ、アカホソアリモドキ、そして、ガンショキクイムシ多数が入っていました。このうち、アカバツヤクビナガハネカクシとヘリアカヒラタケシキスイは島原半島では初めて採集した種です。
FITを回収する前に、林内で、キノコの付いた倒木にスプレーイングして放置しておいたところ、
写真左上から、ダルマチビホソカタムシ、ヨツモンチビカッコウムシ、クロチビアリモドキ、ベニモンキノコゴミムシダマシ、
中段、クロオビカサハラハムシ、コヒラタホソカタムシ、クロゲヒメキノコハネカクシ、クロヒラタケシキスイ、
下段、カシワクチブトゾウムシ、コヨツボシアトキリゴミムシが落ちていました。
ヨツモンチビカッコウムシは島原半島では1例しか採集記録が無く、綺麗なので、アッと声を上げました。
さらに吾妻町FITの設置場所は林道沿いに少し伐採してある地点。
ここは標高が200m少し、シイ・タブなどの林で、昨年秋には九州初記録となるイチハシホソカタムシが採れた場所です。
このことについては、つい先頃、今坂(2014)として報告しました。
今坂正一(2014)九州初記録のイチハシホソカタムシ. 月刊むし, (516): 42-43.
同じく、アカバツヤクビナガハネカクシが入っていて、このハネカクシは春先にはかなり多く林内を飛び回るようです。
それから、ヒメコブスジコガネとトゲマグソコガネ、キマダラケシキスイも入っていましたが、この3種も島原半島では採集していませんでした。
特にトゲマグソコガネは春先に良く飛び回る種のようで、各地でポツポツ記録されていますが、FITをかけたりしないと、なかなか出会えない種です。
下段のボウサンクチカクシゾウムシなど、飛翔するとはとても思えない種もFITには時々入っていますが、これらの種は結構木々に這い上がり、そして、風や振動やさまざまな要因で落下してくるのでしょう。落葉下性の飛べない虫なども時折入っています。
次のセスジハネカクシ類には未記載種も多く、自身で同定できないグループです。
そして、キノコセスジエンマムシも思ったより良くFITに入ります。
さらに、写真右から、メダカヒシベニボタル、クビアカジョウカイ、タカオヒメハナノミ、クロムネキカワヒラタムシと、
左端は、上翅後ろの方に一対の赤紋を持つミジンムシの不明種(仮称アトモンミジンムシ)、その下の種はベニモンツヤミジンムシ、右へ、アカスジナガムクゲキスイ、アカグロムクゲキスイです。
前に、久留米の高良山のFITで採集した上翅に4つの赤紋を持つミジンムシの不明種(仮称ヨツモンミジンムシ)を紹介しましたが、ちょうど、その前の紋2つが消失したような感じがしますが、同種か別種か、今のところ解りません。2つ並べてみると多少印象が異なり、別種のような気もしてきました。
(左:アトモンミジンムシ、右:ヨツモンミジンムシ)
ミジンムシの中には、まだ、既存の文献では同定できない種がかなり含まれているようです。
最後に、千々石町のFITですが、設置場所は橘湾に面し、常緑樹林の生えている斜面の直下がすぐ海面といった環境で、海抜、2-30m程度の林内です。
回収は翌日4月2日です。
こちらは2個設置したうち、1つは風で飛ばされていたので、1つだけの回収ですが、左から、ハバビロハネカクシ、ケブカハラフトアリヅカムシ、ヒゲブトハネカクシの一種、下段で、ウスオビカクケシキスイ、チビハバビロハネカクシなどが入っていました。
ケブカハラフトアリヅカムシは四国と九州南部で採れていて、長崎の記録は無いようなので、そのうち、野村さんにでも確認していただくつもりです。
そして、右下のものはニセケブカネスイでしょうか?
この個体は、前胸の前縁が特に広くなって後縁はすぼまり、逆三角形に似た形になっているところが、図鑑類の本種の図と異なり、ちょっと気になるところです。
通常のニセケブカネスイと思われる熊本県白髪岳産と並べてみます。
(左:千々石産ニセケブカネスイ?、右:白髪岳産ニセケブカネスイ)
前胸の形はハッキリ違うほか、上翅の間室も、千々石産はかなりフラットなのに対して、白髪岳産はかなり盛り上がるようです。
別物かもしれません。
帰宅時間を気にしながら、それでも天気も良いし、あと30分は大丈夫と思いながら、千々石海岸の西の連なり、通称マガリの海岸と言っている所にやってきました。
ここは50mほどの断崖が3km余り続き、石ころゴロゴロの海岸です。
断崖と海岸道路の間は、狭い農耕地や荒れ地があり、畑の縁は石積みされていて、以前、この縁の石をひっくり返してゴミムシやコメツキを採ったことを思い出し、短時間での採集にうってつけと考えたわけです。
車を止めた脇の石からひっくり返していくと、ハマベオオヒメサビキコリ、コスナゴミムシダマシ、ニセマルガタゴミムシ、ナガサキヒメナガゴミムシ、カラカネゴモクムシ、アカアシマルガタゴモクムシ、シラフチビマルトゲムシ、微小なカタモンチビコメツキなどが次々に見つかります。
ちょっと前から、コハナコメツキとクロコハナコメツキの区別が良く解らないことに気がつき、少しこの仲間の標本を集めてみたいと思い始めていました。
確か、この場所でもこの仲間がいたような気がして探していくと、乾いた場所の石の下を黒くて小さいコメツキが素早く走り去るのが目に付きました。
慌てて押さえようとして、石の間の隙間に落としてしまいました。
こうなると、ムキに成り、採れるまでドンドンおこしていきます。
それも、上品に虫だけ押さえようとすると逃げられてしまうので、サッと虫の周りの泥ごと毒ビンの中に投げ入れていきます。
こうして30分ほど、あらかた簡単におこせる道沿いの石をおこしてしまったので帰宅することにしました。
標本は泥まみれで、洗剤で多少は落とし、水を切って並べたのが、次の写真です。
写真の右上(緑矢印の先に)にポツンとケシツブみたいな楕円形の黒点が見えると思います。
それについては最後に種明かしします。
さて、よく見ると、ハマベオオヒメサビキコリの中には、さらに小型で、腹節中央に小突起のあるツシマヒメサビキコリも混ざっていました。
右下の方に分けた3個体がそうです。
改めて2種を並べてみます。上が背面、下が腹面、左の小さいのがツシマで右の大きいのがハマベです。
(左:ツシマヒメサビキコリ、右:ハマベオオヒメサビキコリ)
ツシマの腹節2節目と3節目の後縁中央に小突起(緑の矢印の先端)があるのが解ると思います。この特徴を見つけたのはこのあと紹介する松尾さんで、この種を記載された大平仁夫博士も、この特徴は松尾さんに指摘されて納得されたことを文章に書かれていました。
ムキになって追いかけたコハナコメツキの仲間は、海岸沿いなので当然アカアシコハナコメツキかと思っていました。
しかし足は黒く、それでも足の黒いアカアシコハナコメツキも混じっていることがあるので、念のため、♂交尾器を確認することにしました。
前述のように、この仲間の区別は難しく、つい最近、九州ではコメツキ屋さんとして知られる堤内さんに比較標本を送っていただき、松尾さんには文献のコピーをいただいて同定のポイントを教わったばかりです。
そうやって♂交尾器を取り出してみてみたところ、コハナコメツキ Paracardiophorus pullatus pullatus (Candeze)でした。
この千々石海岸のちょうど反対側、島原半島東岸の島原市水無川で、1976年1月に採集したただ1個体(♂)のコハナコメツキの仲間は、大平博士により学名に私の名前をつけていただいてシマバラコハナコメツキ Paracardiophorus imasakai Ohiraとして知られています。
Ohira, H., 1995. New or little known Elateridae (Coleoptera) from Japan, XXXI. Jpn. J. syst. Ent., 1(1): 95-97.
永年、その記録だけが知られていましたが、その後、水無川は雲仙噴火火砕流と土石流が流れて、地形がまったく変わってしまいました。
そのため、本種はほとんど幻の虫と思われていましたが、最近になって、上記堤内さんが大分県の佐伯市内で再発見して、写真の図示も含めて記録され(堤内, 2012)、私にも標本を分けて下さいました。
堤内雄二(2012)大分県のコメツキムシの記録(3).二豊のむし, (50): 1-10.
噂では、島原でも再確認されているそうです。
そういうこともあり、千々石にもシマバラコハナコメツキがいないとは限らないと思い、比較標本と首っ引きで比較してみましたが、残念ながらコハナコメツキでした。
(千々石産コハナコメツキと♂交尾器)
♂交尾器の側片の先端、内側の矢印で示した斜めの部分がコハナコメツキでは短いのですが、シマバラコハナコメツキではさらに短いようです。
機会があったら、また、自分の名前の付いた虫を再採集したいものです。
そして、予告したケシツブです。
正直言って、私はこの虫を採集したという意識はまったく有りませんでした。
帰宅してから顕微鏡下で虫と泥とを区別しているうちに、この虫を発見したのです。
たぶん、ハマベオオヒメサビキコリやコハナコメツキなどを泥ごと毒ビンに入れていた際に、すぐそばにいたこの虫も巻き添えを喰って入ってしまったのでしょう。
次の写真がその拡大図です。
体長2mmほど、まさしく和名もそのものズバリ、ケシツブスナサビキコリ Rismethus ryukyuensis Ohira 九州(長崎),天草,屋,口永,ト(中,宝),奄,喜界,徳,多良間,石,西,与那国,波照です。
この種は、松尾さんのご教示によると、G. Lewis(1894)が Meristus scobinula Candezeとして、長崎から報告したのが、国内の最初の記録だそうです。
Fleutiaux(1947)は本種をタイプとしてRismethus属を創設しています。
その後、前記のように琉球では各地で採集・記録されたものの、九州を含めた日本本土からは再発見されていないようです。
G. Lewisが記録した種は中国が基産地で、長く日本産は同種として扱われてきましたが、日本産はそれとは違うとして、大平(1999)により石垣島産を基に新たに新種記載されています。
Ohira, H., 1999. New or little-known Elateridae (Coleoptera) from Japan, XL. Elytra, Tokyo, 27(2): 409-416.
九州本土(長崎)からは120年ぶりに採集されたわけで、さっそく松尾さんには採集場所をお知らせしました。
あの環境にいる虫ということが解れば、早晩、県内のあちこちで発見されるでしょう。
この虫も琉球系の、というより、長崎産甲虫相の特徴の1つである九州西廻り分布を示す典型的な種のような気がします。
今坂正一(1979)九州西廻り分布をする甲虫について. 長崎県生物学会誌, (17): 5-16.