このトピックは、以下の2編のトピックの続編として2020年4月に投稿したものですが、2023年のリニューアルの際、消失していたので、再録しました。この内容は、2024年7月に発行された久留米昆蟲研究會会誌・KORASANA 102号にも収録してあります。
2020年久留米の春
(久留米周辺の採集地概念図)
筑後川沿いには3月25日、29日、4月2日、4日、6日に出かけました。
〇朝倉市山田(やまだ) 3月25日、29日、4月2日、4日
ここは久留米市の自宅から最も遠い地点で、直線距離で22kmほどあります。
3月25日は、筑後川の堰堤の道を辿りながら、広い河川敷のある場所を探しながら遡っていきました。田主丸の両築橋の下(大刀洗町西原)はかつて良く通った場所です。そして、2kmほど先の床島も、大きな河畔林(と言うより社寺林 or 屋敷林)と砂州が広がっていて、何度か採集したことがあります。
筑後川橋を過ぎ、朝羽大橋までの間の右岸、堰堤下は延々と桜並木でした。
ほぼ満開ですが、花見客は誰もいません。
(満開の桜並木)
朝羽大橋の上流部は砂州が発達しており、大分前に、ゴミムシ類を色々採集したことがあったので、河川敷まで車のまま降りられる道を探しますが、なかなかありません。
河川敷内の農耕地を過ぎ、恵蘇宿橋が見えてきたと思ったら、手前に降りる道があり、ヨシ原の仲間で続いています。ここを降りてみると、川原まで行けそうです。
ヨシ原の先には、砂地や礫の川原があり、多様性のある環境のようです。
(山田の河川敷)
丸石の礫を起こすと、瑠璃色の虫が走り出してきました。
(25日の採集品)
コホソクビゴミムシです。結構沢山いますが、走るのが速くて、なかなか捕まえられません。
少し乾いたところの石下からは、クロコハナコメツキとオオサワシラケチビコメツキ、アオバアリガタハネカクシが出てきました。
水辺をかきまわすと、ヒメガムシとキイロヒラタガムシ、ヒメシジミガムシ、ニセユミセミゾハネカクシも出てきます。
草地ではイチゴハムシやコガタルリハムシも見られました。
この場所はなかなか良さそうなので、イエローパンFITなども設置して通うことにします。
29日は枯れ草に注目し、叩いてみました。
(29日に叩いた枯れ草)
すぐに、クロモンヒラナガゴミムシが出てきて、アレッと思いました。
(クロモンヒラナガゴミムシ)
久留米周辺では枡形山の道端のススキから、大塚君が1頭採集しているだけです。昨年、英彦山のスキー場でも緒方さんがいくつか採集しており、山で採れるイメージでした。川でもススキやオギ、ヨシなど大型のイネ科があれば、いるんですね。
ひょっとして、モリアオホソゴミムシがいるかもしれないと考え、がぜん力が入ります。
大きなゴミムシが落ちてきて、エッ、と思いましたが、残念ながら青色ではなくて黄褐色、アオヘリホソゴミムシです。
(アオヘリホソゴミムシ)
この種も一時福岡県RDBに登録されたほどで、採集例はそれほど多くありません。
ビーティング等で得られたのは次の種です。
(29日ビーティングの採集品)
上記2種以外では、左から、キアシマルガタゴミムシ、エゾヒメゾウムシ、マダラチビコメツキ、ヨツボシホソアリモドキ、セスジヒメテントウ、ヒメカメノコテントウ、ミツモンセマルヒラタムシ、ヨツボシテントウダマシ、クロオビケシマキムシなどが見つかりました。
最近、本州では、ヨツボシテントウダマシの隠蔽種2種が見つかり、そのうちのベニヨツボシテントウダマシは広島県まで報告されています。しかし、今のところ、九州では2種共に見つかっていないようです。
4月2日には、設置しておいたイエローパンFITの回収がてら出かけたのですが、ヤナギの幼木がすっかり芽吹いてました。
(4月2日の山田)
株によって、這っているハムシの種類が違っていて、1本目はムナキルリハムシ、
(ムナキルリハムシ)
2本目には、ヤナギハムシとスジカミナリハムシ本土亜種がいました。
(ヤナギハムシ)
他に、葉のスウィーピングや石起こしで以下のような虫が見られました。
(4月2日の採集品)
前回見ていない種としては、上段左のナラノチャイロコガネ、2段目左から、カワチゴミムシ、マルクビゴミムシ、ノグチアオゴミムシ、ドウイロミズギワゴミムシ、ヒメスジミズギワゴミムシ、その下の列は、ヒョウゴミズギワゴミムシです。
その他、ダイコンサルゾウムシ、アザミホソクチゾウムシ、クロコハナコメツキが採れました。
ミズギワゴミムシ3種のうち、ドウイロとヒメスジの方が、ヒョウゴより見かけないのですが、ここでは、ドウイロが1番の優占種のようです。また、ヒョウゴは久留米周辺では初採集です。
期待したイエローパンFITには、トビケラ類がワンサカ入っていましたが、甲虫はチョッピリでした。
(山田のイエローパンFIT)
中に、イッカクが1個体入っていて、この仲間は、前胸のツノの形で同定するので、帰宅してから、ジックリ見てみました。
(朝倉市山田で採れたイッカク)
ツノは細長く、ホソアシイッカクでも、チビイッカクでもなさそうです。残るはツノボソイッカクで、この種は図鑑類では本州・四国の分布が記されており、九州では知られていません。
それではと、調べてみたら、自身で既に、筑後川流域の大刀洗町西原から記録していました。
今坂正一, 2011d. 久留米市高良山とその周辺の甲虫1 -未記録種と興味深い種-. KORASANA, (79): 31-48.
しかし、何か引っかかります。あれこれ検索してみたところ、同じ2011年に、ツノボソイッカク近似の、ニセツノボソイッカク Mecynotarsus antennalis Hashimoto et Sakaiが四国(徳島・高知)から新種記載されています。
と言うことで、記載文を確認してみました。
Hashimoto, K. & M. Sakai, 2011. A new species of the genus Mecynotarsus (Coleoptera, Anthicidae, Notoxinae) from Japan. Jpn. J. syst. Ent., 17(2): 415-420.
2種の区別は、前胸のツノの形と、♂交尾器の形、そして、触覚の形で区別できるようですが、前2項は付図との比較ではなかなか難しそうです。
しかし、触覚は解りやすく、ツノボソは3節以降もこん棒状でなのに対して、ニセツノボソでは各節端は広がり、ノコ歯状になるようです。
改めて、前記写真を見ると、確かにノコ歯状になっているので、この個体はニセツノボソということになります。
2011年に記録した西原産も同様で、筑後川産はニセツノボソイッカクと言うことで良さそうです。九州からは初記録と言うことに成り、ツノボソイッカクの記録は訂正、抹消したいと思います。
(註: その後、中村さんのご教示によると、上記新種記載論文の約半年前に、Kejval, 2011が発表されたことが判明し、現在は後者が記載した、Mecynotarsus forticornis Kejvalを本種の学名として使うべきだそうです。ご教示いただいた中村さんにお礼申し上げます。)
4月4日には、クロホシホソアリモドキも採れ、この種も久留米周辺初です。
(クロホシホソアリモドキ)
さて、次は4kmほど戻った床島です。
○大刀洗町床島(とこしま) 4月6日
右岸は大きな河畔林が発達し、複雑に水路が見られ、砂地の河川敷も大きく広がっています。河川敷に降りてみました。
(床島の河川敷)
水際まで砂地で礫はほとんどありませんが、見つかった虫達は山田と大部分同じです。
(床島の採集品)
それでも、ヤナギ林ではミドリトビハムシの一種が見つかり、ミドリトビハムシの仲間は、久留米の中心部近くの河川敷のヤナギにはスズキミドリトビハムシがいて、同じ水系の日田市大山(標高180m)までいくと山地性の未記載種のキュウシュウミドリトビハムシがいます。
この地点はその間にあるので、♂交尾器を確認したところ、スズキの方でした。標高(相当内陸だが、標高は23mしかない)から考えてもまだまだ低地であり、納得です。
(スズキミドリトビハムシ)
筑後地方では、奥八女の日向神ダム(標高300m)のヤナギにはキュウシュウが沢山います。
小さい黄色い花のアブラナ科にはミドリサルゾウムシがいました。
(ミドリサルゾウムシ)
その2kmほど手前、両筑橋下、右岸の河川敷、大刀洗町西原にも寄ってみました。
○大刀洗町西原(にしはら) 4月6日
この河川敷はかつて、よく通った場所で、ベイトトラップやライトトラップも実施し、かなり多くの種を採集・記録しています。
それもあって、今回は、かえって、別の種を採集すべく、むしろ別の地点に探索していたわけです。
それでも、そろそろ河川敷特有の種が出てくると思って、訪ねてみました。
(両筑橋、橋下)
思った通り、ヤナギは芽吹き、花も咲いていました。
(河川敷のヤナギ)
叩いてみると、さっそく、ニセキベリコバネジョウカイが無数に落ちてきて、すぐに飛び立ってしまいます。ようやく、1個体だけ写真を撮りましたが、動きが速くて、ピントは合っていません。
(ビーティングネットに落ちたニセキベリコバネジョウカイ)
何度叩いても、他に何も落ちてこないので、このジョウカイは何を狙って群れているのでしょうか?ヤナギの花粉を食べているようにも見えないのですが・・・。
なお、本種とキベリコバネジョウカイは、良く似ていて、時に混同されますが、本種は必ず、大河川の砂地にヤナギの生えている場所で早春に見つかるのにたいして、キベリコバネジョウカイは雑木林の林縁などで、シイの花~クリの花の咲く頃、晩春から初夏にこれらの花上で見つかります。
雄では、中肢の腿節が大きく膨れるのがキベリで、ニセキベリはほとんど膨れないので区別しやすいのですが、雌は慣れないと難しいです。
ここのヤナギでは、カメノコテントウも落ちてきました。本種はヤナギハムシの幼虫を補食します。
(カメノコテントウ)
他の種が落ちてこないので、ヤナギはすぐにあきらめて、石起こしすると、ゴミムシ類が走り出てきます。短時間でしたが、以下の写真の種が得られました。
(西原の採集品)
ゴミムシ類は全て朝倉市山田と同じです。
そのほか、下段は、カメノコテントウ、ナミテントウ、モンイネゾウモドキ、コガタルリハムシ、そして、ニセキベリコバネジョウカイです。
最後に最も自宅に近い地点です。
〇久留米市北野町大城橋(おおきばし) 3月25日、4月6日
(大城橋左岸)
ここには、川探索の帰路、駄賃替わりに駐車場のある河川敷ということで寄ってみました。
(25日の採集品)
なぜか、川岸は細かい砂で被われていて、生えている植物も、川沿いの他ではあまり見ないものが多いようです。
採集品は左上段から、アオバアリガタハネカクシ、アサトビハムシ、メダカチビカワゴミムシ、ナトビハムシ、スイバトビハムシ、ダイコンハムシ、アサトビハムシ、
下段がダイコンサルゾウムシ、チビコフキゾウムシ、イラクサヒメゾウムシ、チャバネクシコメツキ、クワハムシです。
草地で一瞬チカッとし、その後もヒリヒリ痛んだので、ここにはイラクサがあるなと思いました。それまで、エゾヒメゾウムシと思っていた種も、イラクサの存在から、改めて検鏡してみると、まばらに白い鱗毛が生えていて、イラクサヒメゾウムシであることを確認しました。
また、チャバネクシコメツキは草地性の種ですが、久留米では初めてです。
(4月6日の大城橋)
4月6日にも、時間があったので寄ってみました。川沿いにサイクリングロードが走っていて、これは日田まで続いています。
左手に見える枝はやっと芽吹いてきたところで、ちょっと叩いてみたら、ナガタマムシが落ちてきました。よく見るとこれはクワの木で、落ちてきたのはクワナガタマムシでした。こんなに早くから出ているんですね。
(クワナガタマムシ)
イラクサっぽいものも沢山あり、群落を作っていたのでスウィーピングしてみました。
しかし、イラクサヒメゾウムシは入らず、代わりに、ナガカメムシの一種が沢山入りました。これは、先年、大分のカメムシ屋の伊藤君がわざわざ取りに来て、久留米市田主丸町菅原の筑後川河川敷産を、九州初記録と言うことで、一緒に報告した種です。ここでも沢山見られ、イラクサと思った群落の大部分はホストのアオミズ(イラクサ科)のようでした。
(クロマダラナガカメムシ)
伊藤玲央・今坂正一, 2018. 九州における2初記録種と2稀種のナガカメムシ類の記録. Rostria, (62): 67-70.
最後におまけの、西原のサクラをご覧下さい。4月6日、満開でした。
(両筑橋を望む)
(サクラと愛車)