今年の春の訪れは甑島から 3回目です。
3月24日
上甑島最終日、凪の里を8時に出発し、3人3様、一番気になった場所へ行こうと、今坂は、牧の辻段から林道を500mほど左に入った土砂崩れ地へ築島さんに送ってもらいます。
この場所は昨年12月に築島さんが偵察した時は何ともなかったそうです。ということは、その後3ヶ月の間に土砂崩れで、通れなくなったことになります。
初日、この地まで来て、ボックス型のライトトラップと、イエローパンも設置したのですが、ミエコジョウカイ以外、見るべきものがなく、紹介していませんでした。
それでも、伐採木(実際は土砂崩れで倒れた木を片付けたと思われます)が道横に積まれており、何か採れるかもしれないと気になっていました。
崩壊地の脇から斜面を降りると、立ち枯れが何本か見つかりました。それらを端からスプレーイングをしていきます。
全体に乾燥が強いようで、あまり芳しくありません。
ベニモンキノコゴミムシダマシが沢山落ちてきただけで、コヨツボシアトキリゴミムシ、コヒラタホソカタムシ*、コモンヒメコキノコムシ*、ナガニジゴミムシダマシ、アオツヤキノコゴミムシダマシ*くらい。
(クロモンキスイ、アオツヤキノコゴミムシダマシ)
かなり太い倒木も見られたので、少し手で崩してみましたが、何も出てきません。だいぶ崩してやっと、クワガタの幼虫と思われるものが1頭出てきました。これは有馬さんへのお土産にします。
(帰宅して有馬さんに渡しましたが、毛深くて、どうもクワガタらしくないということで、それでも何が羽化してくるか、楽しみに飼育されているそうです。)
斜面からやっとの思いで這い上がって来て、土砂崩れ場所の積んである材もチェックしてみましたが、さすがに3月末で材に這っている虫は見当たりません。
この場所は吹きだまりのようで、まったく無風、陽が当たると暖かく、羽虫がフワフワ飛んでいます。
テングチョウが飛び出したので、ネットしました。
国分さんが戻ってきたので、二人で、林縁を叩くことにします。
林縁にヒサカキの花を見つけて叩いてみると、ハナムグリハネカクシが沢山落ちてきます。かなり大小がありますが、全てハラグロハナムグリハネカクシです。
クロチビジョウカイも落ちてきて、あるいは・・と思ったのですが、初日に国分さんが採られていたものと同じ、キュウシュウクロチビジョウカイ*でした。
それから、シロオビチビサビキコリ、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、ミエコジョウカイ*、クロモンキスイ*、ナスナガスネトビハムシ、フキタマノミハムシ、コシキオビモンヒョウタンゾウムシ、ガロアノミゾウムシ、エノキノミゾウムシ、イヌビワシギゾウムシ*、ケナガサルゾウムシ*が落ちてきました。
(コシキオビモンヒョウタンゾウムシ、イヌビワシギゾウムシ)
なお、コシキオビモンヒョウタンゾウムシは下甑島の固有種で、上甑島の記録はまだありません。本種群は種ごとの分布範囲がかなり狭く、地域分化の激しいグループですが、この標本はまだ♂交尾器等も確認していません。ということで、上甑島産が下甑島産と同じかどうかは解りませんが、今のところそういう扱いにしておきます。
この日当たりの良い林道で、国分さんはルリシジミとテングチョウを採集し、キタキチョウ、ムラサキツバメ、ヒメアカタテハ、アカタテハを見られたそうです。
ビロウドツリアブ、ハナアブ類、コオロギバチの仲間なども採集されていました。
それに、ビーティングでヘリグロテントウノミハムシとネジロツブゾウムシも採られていました。
(ヘリグロテントウノミハムシ、ネジロツブゾウムシ)
このうち、ネジロツブゾウムシはかなり珍品で、紀伊半島(三重・和歌山)、土佐沖の島、九州(日南市大島、佐多岬)で記録されており、今のところ、島原半島南端の口之津公園が北限です。
一方、築島さんはこの間、遠目木山へ出かけられていました。
昨日仕掛けたベイトトラップとFITを回収し、林縁などをビーティングされていたそうです。
(築島さん採集、遠目木山産甲虫)
クリノホソヒラタハネカクシ* Siagonium kurinoensis Takai et Nakane、ムツバハバビロハネカクシ* Megarthrus parallelus Sharp、クロツヤメダカハネカクシ*、ヒコサンコバネハネカクシ、タチゲクビボソハネカクシ*、カクムネベニボタル、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、オオホコリタケシバンムシ*、ムネアカチビケシキスイ、ケシコメツキモドキ、カワムラヒメテントウ、キアシクロヒメテントウ、ドウガネツヤハムシ、タノオアラゲサルハムシ、ツヤキバネサルハムシ、タイワンツブノミハムシ、ツブノミハムシ、ヘリグロセダカトビハムシ* Lanka esakii (Chujo et Ohno)、ウスグロチビカミナリハムシ、フキタマノミハムシ、タケトゲトゲ*、ヨツモンカメノコハムシ*、カシワクチブトゾウムシ、ミスジマルゾウムシ*、シラホシクチブトノミゾウムシ、タバゲササラゾウムシ、チャバネキクイゾウムシとかなり面白かったようです。
(クロツヤメダカハネカクシ、ヒコサンコバネハネカクシ)
(ムツバハバビロハネカクシ、タケトゲトゲ)
タケトゲトゲも、少なくとも37年前はいなかったはずで、ヨツモンカメノコハムシ同様、その後侵入してきた可能性があります。
特に注目されるのはヘリグロセダカトビハムシで、本州、四国、土佐沖の島で知られている珍品です。
本種がカラーで図示されるのは今回が初めてと思います。
(ヘリグロセダカトビハムシ♂、♀、♂♀で色が違うのが興味深い)
今坂はかつて本種を鹿児島県本土で採集していますが未記録です。1日の半分くらい、ちらちら陽が当たるようなフウトウカズラにいます。日当たりが良すぎたり、暗い場所の株にはいません。鹿児島県産の写真を紹介しておきます。
11時前になり、上甑島での採集もこれで時間切れ、国分さんの車に便乗して里港へ向かいます。
里港で築島さんと待ち合わせして、フェリーの時間までゆっくりあるので、港前の新しくて洒落たレストランで昼食。
前夜がカレー、朝食はパンだったので、少し贅沢して、海鮮丼を堪能しました。
上甑島にもこれてお別れ、12:50のフェリーで下甑島へ向かいます。
途中、中甑島と下甑島北端の藺牟田との間には、現在急ピッチで「藺牟田瀬戸架橋」の工事が進んでいまして、来年2020年には完成と言うことのようです。
そうなると、上甑島から中甑島を経て下甑島まで、車で一足飛びに行けることになり、両島の調査はかなり楽になります。
下甑島北端の鹿島港(藺牟田)に13:35着。
藺牟田から吹切の地峡の上をハイウェイのような道が通り、現代的な明るい芦浜トンネルを抜けると20分余りで長浜に着いてしまいました。
今坂が37年前に下甑島を訪れた際は、こんな良い道はなかったはずで、と言うより、確か芦浜より北へは車の通れる道は通じてなかったはずです。
上甑島では道の良さは特に感じませんでしたが、下甑島では、特に大きな街が並ぶ東海岸には、まっすぐ伸びた広い幹線道路が貫通しており、北端の藺牟田から南端の手打まで、30分余りで行けそうです。
まずは、下甑島でメインの採集地、尾岳へ向かうことにします。
長浜から西側への横断道を10分ほど登ると、自衛隊への分岐が現れ、5分ほどで自衛隊の基地に尽きます。その先が尾岳(標高604m)への登山口で、このあたりの標高は450mです。
37年前にはそこから左に曲がった当たりに、林道の入り口が有り、この林道は尾岳の西山腹を北上して山頂直下まで続いており、終点に車を停めて、山頂まで約30分で登ることが出来ました。
写真で解るように、すぐ目の前の中央に大石が有り、車の通行を止められています。
築島さんは前回、この道も探索しましたが、2-300m程度で、灌木や草で通りにくくなり、数百メートル進むと、うっそうと暗くなって、通行どころか、採集も難しくなるそうです。
標高を稼いだせいか、上甑島よりさらに気温は低く風当たりも強いので、持参したもののライトFITの設置は諦めて、イエローパンFITだけ3つほど設置します。
それから道沿いの林縁を叩いてみます。ニワトコの花も咲いていましたが、必ずいるはずのキイロチビハナケシキスイが見られません。アオキの花にも何もいません。
ツワブキにはフキタマノミハムシがいましたが、草地の葉上から飛び出すのは黒いカワゲラくらい。
道路沿いは風が強いので、旧林道を入ってみることにします。
時々、立ち枯れや倒木があるたびにハンマーリングやスプレーイングをしながら、樹葉を叩き、草をスウィーピングしながら奥へ進みます。
枯れ木からはカタモンムクゲキスイ*、ツシマツヤゴミムシダマシ、キノコヒラタケシキスイ、キマダラケシキスイ、ヒサゴホソカタムシ、ダルマチビホソカタムシ、キタツツキノコムシ、モリモトヒメナガクチキ、アカオビニセハナノミ、ドウチビキカワムシ、クチキムシ、マルツヤキノコゴミムシダマシ、コマルキマワリ、シラケツチイロゾウムシ、チビクチカクシゾウムシ*、マダラクチカクシゾウムシ*、ヒサゴクチカクシゾウムシなどが落ちてきました。
(カタモンムクゲキスイ、ツシマツヤゴミムシダマシ)
このうち、ツシマツヤゴミムシダマシは対馬と下甑島のみで知られている種です。
アオモジの花があちこちに咲いており、少ないながら訪花性のホシハネビロアトキリゴミムシ、ハラグロハナムグリハネカクシ*、ハヤトニンフジョウカイ、キイロニンフジョウカイ、クロチビハナケシキスイ、クロモンキスイ*、クロノコムネキスイ*、ナガハムシダマシ*も見られました。
樹葉上からは、成虫越冬と見られるタカオヒメハナノミ、アカホソアリモドキ、マダラアラゲサルハムシ、タノオアラゲサルハムシ、クロオビカサハラハムシ、ツブノミハムシ、キアシツブノミハムシ、カシルリチョッキリ*、ヒラセノミゾウムシ、ムネスジノミゾウムシ、アロウヨツメハネカクシが採れました。
ツブノミハムシと思った中にキアシツブノミハムシが混じっていて、尾岳はさすがに山地!と変に感心しました。キアシツブノミハムシは長く、ツブノミハムシのシノニムとして扱われていましたが、小宮博士はちゃんと区別して記録されています。
(キアシツブノミハムシの腹面:前腿節が黄色いのが特徴、カシルリチョッキリ)
葉上からミドリオオキスイが落ちてきて、アレッと思いました。
本種は九州では珍品で、対馬では比較的多く見つかるものの、長崎県では平戸のみ、福岡・佐賀・大分県の記録がありません。本州ではブナ帯で比較的見られる種と思います。甑島の北方系昆虫の代表種の1つになるかもしれません。
(メツブテントウ、ミドリオオキスイ)
メツブテントウ*は、樹幹から落ちてきたと思います。
実は当初、すっかり忘れて掲載していなかったのですが、今坂が尾岳の廃道になった林道を歩いている間、国分さんと築島さんは登山口駐車場に車を回して、尾岳の山頂をめざして、登山をされていました。
自衛隊敷地のすぐ先に、数台が駐められる駐車場があり(このあたりが標高450m)、尾根沿いに2kmほど、山頂が604mですから、標高差150mほどです。
この登山道沿いはあまり木は大きくはなく、多少、上り下りがある程度で、比較的楽な道で、二人は採集しながら登ったので、1時間半ほどかかったそうです。
山頂は多少見渡しがきき、ドローンを飛ばして、自分たちや周囲の様子を撮影されています。
国分さんはアカハラクロコメツキ*、クロオビセマルヒラタムシ*、ゴマフツツキノコムシ、アラメヒゲブトゴミムシダマシを採られていました。
築島さんも、かなり多様な種を採集されていました。
クリノホソヒラタハネカクシ*、カクムネベニボタル、ミエコジョウカイ*、アミモンヒラタケシキスイ、クロオビセマルヒラタムシ*、ムネスジキスイ*、ゴマフツツキノコムシ、キタツツキノコムシ、ドウチビキカワムシ、ナガハムシダマシ*、オビレカミキリ、タノオアラゲサルハムシ、ツブノミハムシ、サメハダツブノミハムシ、ムネアカオオオオノミハムシ*、カシワクチブトゾウムシ、クワゾウムシ、ムネスジノミゾウムシ、クスアナアキゾウムシなどを採られていました。。
(ムネスジキスイ、ムネアカオオオオノミハムシ)
築島さんの採集品にはハナムグリハネカクシが3種含まれていて、ハラグロハナムグリハネカクシ*がやや多く、それを小さく淡色にした種(仮称・コシキハナムグリハネカクシ*)とクロハナムグリハネカクシそっくりの種*が入っていました。
(コシキハナムグリハネカクシ♀、クロハナムグリハネカクシの近似種♀、ハラグロハナムグリハネカクシ♂)
(コシキハナムグリハネカクシ♂、クロハナムグリハネカクシの近似種♀腹側)
クロハナムグリハネカクシの近似種は♀で、♂交尾器が確認できていないので種は確定できません。腿節がやや黒ずむので、この種の近似種であることは確実です。
さすがに、尾岳には、上甑島では見られなかった山地性の虫が多いような感じがします。
今夜の宿は手打(下甑島南端)の合宿所「きまま館」なので、今日は尾岳のみで切り上げることにします。
林道を長浜まで戻ってから、東海岸沿いの幹線道路を南下します。
手打の唯一あるスーパーで夕食用のつまみやビール、明日朝のパンを調達してからきまま館へ向かいました。
宿は手打の海岸通りの一番東、駐在所の先を一筋裏に入ったところ、普通の2階建ての住宅です。
宿は鍵が掛かったままの無人で、予約した築島さんが経営者に電話し、鍵を借りに行ってくれました。
尾岳では標高が高いせいで寒いと思ってましたが、海岸近くまで降りてきてもなお、待ってる間も寒くて、この2-3日は冬に戻ったようです。
この宿で2泊する予定ですが、我々の宿泊場所は一階で、翌日は二階に別の客と相宿だそうです。
と言っても、結局、その相宿の人たちとは出くわすこともなく、本当に泊まったの?と思ったほど、気配も音もしませんでした。
鍵が来るなり中へ荷物を運び込み、炬燵と、エアコンを付け、風呂へお湯を入れます。
室内もまったく普通の住宅で、必要な物は全てそろっていて、紹介してくださった野崎さんが「快適な宿ですよ」と言われた意味が解りました。これで、一人一泊2500円です。
風呂に入って暖まり、やっと人心地がつきました。
合宿所と言うことで、カップ麺やら即席ラーメン、ウドン等々、それぞれ色々持参したので、今日はそれで済ますことにしました。