年末から暖冬が続いていた久留米でしたが、1月末には逆に、数十年に一度という寒波が訪れ、最低気温がマイナス5℃、おまけに最高気温もマイナス3℃という一日があり、「本当に久留米、北海道じゃないの???」という感じでした。
結果、自宅の古い銅管の水道管が破裂し、1昼夜はそれと気がつかないままだだ漏れで、翌日に慌てて修理していただきましたが、後で検針に来た人の話では水道使用量は通常月の1.5倍とか。
市中至る所で水道管破裂が頻発したので、自然災害として、市の救済措置があると教えていただいたので、水道局に申請に出かけたところ流出分の半額は補填して貰えるとか、まあ、気休めにはなりました。
春は三寒四温、毎年、寒暖の差が激しいのが常ですが、今年は特別その振れ幅が大きいようです。
雪降りの翌日に15℃以上まで上がったりして、訳がわかりません。それでも、ウメの花も散り始め、次第に春めいてきています。
しばらく冷たい雨の日が続いていましたが、3月3日は晴れて暖かくなるとの予報が出たので、冬の間ほったらかしにしていたFITの回収と、この秋から計画していたイエローパンFIT(適宜 YP-FITと略します)の設置に出かけました。
朝のうちは前日からの放射冷却で4℃と寒く、虫もほとんど動いていないので、とりあえずFITを回収することにしました。
12月の末から2ヶ月ほどそのまま放置していたのですが、特に破損もしていませんでした。
1個目のFITには、前胸から前が欠けたヨツボシキバネナガクチキが入っていました。高良山では初めてです。通常、もう少し高い山地で採れると思っていたので意外でした。
次のFITにはオオタマキノコムシの一種とムネスジキスイ、そして高良山では初めてのシリブトヨツメハネカクシが入っていました。
このオオタマキノコ Leiodesは当地では冬季だけ見られる種のようで、前胸中央から上翅合わせ目にかけて顕著な黒筋が有ります。こんなに特徴がハッキリした種ですが、保科さんのモノグラフにも該当する種を見つけられません。
平野さんによると、Leiodesには国内でもまだ未記載のものがかなりあるとのことですから、この種もその1つかもしれません。
さらに、伐採木が積んである場所のFITでは以下のような種が入っていました。ここの伐採木は切られて6年目になり、かなり朽ちてしまい、キノコもの以外はもうあまり採れなくなりました。
その中に、なぜか、チャグロマグソコガネが2個体入っていました。
冬季にイノシシ糞に見られる種で、高良山でもイノシシの増加と共に、本種も毎年見られるようになっていますが、冬季でもかなり動き回るのでしょう。
クヌギ林にかけたFITには、なんと、飛べないはずのハネナシナガクチキが入っていました。
時には樹幹や枯れ木を這い上がり、そして風か振動で、吊したFITに落ち込んでしまったのでしょうか?
九重黒岳のFITではセダカコブヤハズカミキリが入ったりして、飛べない虫が時折入ってくるのも意外性が有って面白いものです。
壊れてしまったか、それとも何も入っていないと思っていた、冬中ほったらかしのFITにも、少しは虫が入っていたのに気を良くしました。
それより今日は、秋から考えていたイエローパンFIT(この後YP-FITと略)を設置することにしました。
というのも、吊しFITは基本的には風の吹かない林内に設置し、主に樹林性・林床性・キノコ食などの甲虫を対照にしています。それも5-6年やって、目新しい物は頭打ちになってきました。
次にやりたいのは林縁や樹冠部のマレーゼトラップなのですが、装置が大仰なのと、そういう場所へのうまい設置方法が見つからなく、グズグズと二の足を踏んでいます。
それで、とりあえず林内では無いオープンな場所に設置できるトラップとして、イエローパントラップを試してみることにしました。それも、少しでも効果を高めたいと思い、FITの機能を追加し、さらに透明ではなく、黄色の衝突板を付けてみました。
(YP-FIT)
このYP-FITですが、100円ショップで売っている黄色のコンテナにノコギリで切れ込みを入れて、A4の10枚入り黄色のクリアーホルダーを使い、差し込み部分に強度増強のために厚紙を挟み込んだものを、その切れ込みに差し込んだだけ。
トラップ液としては、とりあえず、界面活性にもなる消毒用オスバン液の100倍程度に薄めた水溶液を使っています。
(草地の縁にかけたYP-FIT)
ご存じのように、イエローパントラップというのは、主としてハエ類、ハチ類などを対象としたトラップで、なぜかこれらの昆虫は綺麗な黄色〜橙色のものに惹かれて集まり、水面に落ちて捕獲されます。
(草地の中央に設置したYP-FIT)
かつて、黄色のテントにジョウカイボンが多数集まってきたこともあるので、甲虫も黄色という色は好きと思われ、甲虫も多少は入って欲しいと思って、草地の縁や真ん中に掛けてみたわけです。
これを尾根道沿いに5カ所9基を設置しました。
天気は晴れて、気温はどんどん上がり、正午には13℃、そして、午後3時前には15℃まで上がりました。
今年初めての虫採りで、せっかく山へ出てきたので、トラップの回収と設置後は道沿いでビーティングをすることにしました。
しかし、葉上やシキミの花などにも、ツバキヒラタケシキスイやツブノミハムシ、クロノコムネキスイが見られたくらいで、まだハナムグリハネカクシ類をはじめ、春一番に出る虫も見られません。
それで次に、マメヅタ等が絡まった樹幹や、キノコが付いた立ち枯れでスプレーイングをしてみました。
その結果得られたのが次の甲虫たちです。
この時期の採集品としてはよく見られる、越冬中のナガニジゴミムシダマシ、アオツヤキノコゴミムシダマシ、マメヅタが絡む樹幹にはイチモンジハムシも潜っていました。
そして、キノコにはツツキノコムシ類が多いようです。
ツツキノコムシでは、いかにも冬虫然とした、防寒用の長い毛を持つケナガツツキノコムシが多いようです。
他に、マダラツツキノコムシ、キタツツキノコムシ、ツヤツツキノコムシなど。
ヒサゴホソカタムシもいました。
立ち枯れのキノコからは、チビクロモンキノコハネカクシ、ハスオビキノコハネカクシ、コマルガタテントウダマシも落ちてきましたが、後2種は高良山では初めてです。
林床の落ち枝の下面には、照葉樹林特有のキイロアトキリゴミムシがしがみついていました。
さて、久しぶりの虫取りで、少々腰も痛くなりかけたので、今日はここまで。
数日経った3月8日、YP-FITの回収に出かけました。
最奥のYP-FITにはユスリカを始めとした双翅類が無数に入っていました。数日でこんなにも集まるものでしょうか?
確かに双翅やハチ類には効果的なトラップのようです。
(最奥のYP-FIT)
そのうちの甲虫は次の通り。
(最奥のYP-FITに入っていた甲虫)
春一番に出るイタドリハムシ、シダに集まるセマルトビハムシ、オオバコにつくオオバコトビハムシ、枯れ草などにいるナガマルキスイ、砂礫地にいるヒロエンマアリヅカムシ、
なぜかキノコに集まるムネスジキスイ、ゴマフツツキノコムシ、マダラツツキノコムシ、そして、多数のヒゲブトハネカクシ類、ウスチャケシマキムシなどが採れていました。
あと、ケマンサルゾウムシではないかと思われるサルゾウムシが採れていましたが、この種に関する情報が少ないため、確信が持てません。もしそうなら、福岡県初記録になります。ご存じの方がありましたら、ご教示ください。
(ケマンサルゾウムシ?)
奥から2番目では、双翅はそれほどは多くありませんでした。
(奥から2番目のYP-FIT)
採れた甲虫はこんな感じです。
(奥から2番目のYP-FITに入っていた甲虫)
こちらではイヌノフグリトビハムシが多く、タノオアラゲサルハムシやナスナガスネトビハムシも入っていました。
(奥から2番目のYP-FITに入っていたハムシ類)
イヌノフグリトビハムシは、丈の低い草地(例えばオオバコなど)でスウィーピングをすると時々入ります。イヌノフグリを見ても付いているところを見たことが無く、こうして一度にまとまって採れることもありません。
しかし、今回、YP-FITを設置した場所4カ所では、周辺に少なからずオオイヌノフグリが咲いていて、1カ所を除いて、本種が入っていました。ということは、やはり、イヌノフグリにいると言うことのようです。後翅も退化しているようですし、あるいは、黒っぽい体色から推定して、夜行性なのかもしれません。
3カ所目のYP-FITには、ハコベタコゾウムシが沢山入っていました。イヌハコベも周囲には沢山生えています。
(3カ所目のYP-FIT)
ここでも、イヌノフグリトビハムシは多く、ケマンサルゾウムシ?も入っていました。
(3カ所目のYP-FITに入っていた甲虫)
糞などに来るマグソガムシが入っていて、この種は高良山では初めてです。
最後に、一番手前のYP-FITですが、ここでは、高良山では初めてのアサトビハムシ、アザミカミナリハムシと、春にFITに良く入るアカバツヤクビナガハネカクシと、林床性のフトツツハネカクシが採れていました。
(一番手前のYP-FIT)
(一番手前のYP-FITに入っていた甲虫)
3月初めの、まだ野外ではほとんど虫が動いていない時期でも、これだけの虫が採れたと言うことは、YP-FITにも、十分に続けてみる価値がありそうです。
問題はどういう場所に、どういう時期、どれくらいの期間設置するかと言うことでしょう。
草原や、湿地周辺の低茎草地が面白そうで、いろいろ試してみる価値はありそうです。