4月7日、春の冷雨の高原のパート2、トラップ編です。
阿蘇一宮の池は、この一週間来の雨で、氾濫していたようで、池にはゴミが浮き、ピットフォールトラップもゴミと泥を被っていました。
トラップの中身は、当然大部分が泥で、ようやく、抽出できた虫は以下の通り。
アシミゾナガゴミムシ、ホソフタホシメダカハネカクシ、アロウヨツメハネカクシ、コクロアシナガトビハムシ、ザウテルメダカハネカクシ?、セスジハネカクシの一種(未同定)などです。
次回に期待しつつ、埋め戻してきました。
次に、立山牧野の小流の砂地に埋めたピットフォールトラップです。
トラップを覗き込むと、アイヌハンミョウが結構入っています。
埋めたのが先月21日ですから、こんな早くから、アイヌハンミョウって、活動しているのですね。ほとんど、まだ、虫は何も動いていないと思っていましたが・・・。成果は以下の通り。
砂地では、ヒメスナゴミムシダマシも沢山入っていました。
少し上の草地ではニワハンミョウが。
小型の虫はイチゴハムシ、ホソフタホシメダカハネカクシ、セスジハネカクシの一種(未同定)、スジミズアトキリゴミムシなどです。
マルガタゴミムシの仲間が1個体(♂)入っていました。
マルガタゴミムシやニセマルガタゴミムシよりやや小さめ(8mm)、足が黒く、銅色光沢がほとんど無いので、この2種とは違って見えます。
中根(1984)の解説を読んでみると、マルガタゴミムシやニセマルガタゴミムシは上翅の会合部小条の基部に孔点があり、本種はそれが無いので、この2種とは明らかに別種のようです。
(黄色矢印→会合部小条基部の孔点があるべき位置、赤色矢印→ニセマルガタゴミムシの孔点)
そして、足が黒いこと、前胸背および体下にはほとんど点刻が無いことにより、本種はツヤマルガタゴミムシ Amara obscuripes 本州,九州のようです。
当然、初めての採集で、怪我の功名といったところ。
前回、ここでヒメドロムシを探してみようと思わなかったら、ピットフォールトラップも掛けていません。
中根の解説によると、本種は長崎原産で、本州,九州と東シベリアから南志那までいるそうですが、長崎県のファウナに本種も含まれることは、今回、この個体を調べて初めて知りました。九州では、大分県でも記録されています。
中根猛彦(1984)新シリーズ 日本の甲虫 (66). 昆虫と自然, 19(2): 46-49.
帰りの牧草地は、前回(3/21)から比べると相当緑が濃くなっています。ただ、重苦しい霧の中です。
ここから、牧ノ戸峠を経て、黒岳に向かったのは前回述べた通りです。
弁当も、運転しながらのパンやおにぎり囓り。
冷雨の中では、座って、弁当開きをする気にはなれません。
さて、黒岳のFIT回収です。
由布市に入って少し走った雑木林のあたりから黒岳駐車場の先まで、道路から少し入ったくらいの場所4カ所に2個ずつ、計8個のFITを掛けています。
第1FITがこれ。
そして成果が次の写真。
雨風でかなりトラップが揉まれたようで、羽が伸びきったり、壊れたものも多いようです。
それでも、上の段左から、ヨツボシキバネナガクチキ、ベニヒラタムシ、チビモリヒラタゴミムシ、ベーツホソアトキリゴミムシ、下に行って、アカホソアリモドキ、クロムネキカワヒラタムシ、アカオビニセハナノミ、
小さくて、ほとんど見えていませんが、クロアシムクゲキスイ、アカグロムクゲキスイ、クロモンヒメヒラタホソカタムシ、前回紹介したキュウシュウハナムグリハネカクシなども入っていました。
特筆すべき種として、次の2種を上げることができます。
まずは、ニセデオネスイ Europs ferrugineum 北海道,本州,四国です。
2mmに満たないほど小さくて、一見、ホソデオネスイやコバケデオネスイの♀にも似ていますが、触角第9節が球桿部の10, 11節からやや離れ、かつほぼ同じ幅で太く、側頭は短く、前胸前角は丸まり、上翅は細長く偏平で、条溝も浅い、などの点で区別できます。
九州では大分県の記録があります。
(訂正:九州の記録が無い様に書いてましたが、堤内さんからのご教示で、既に大分県豊後大野市清川町御嶽山(三宅武・堤内雄二,2013). 二豊のむし, (51):14-17.から記録されていることを教えて頂きました。)
さらに、アリノスコブエンマムシ Eucurtiopsis ohtanii 本州(埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・三重・兵庫),四国(徳島),九州(福岡英彦山・大分),伊八です。
(アリノスコブエンマムシ、左:背面、右:斜背面)
黒岳では、先年も採集しているので、自身では2度目なのですが、何度見てもへんちくりんな形に魅了されます。
次いで第2FITですが、1基は吹き飛ばされ、2基目も破損していて、辛うじて2個体が残っていました。
左はホソニセクビボソムシ、右はヒゲブトハネカクシの一種(未同定)でしょう。
1週間以前の春の嵐はもの凄い風と雨でしたから、場所によってはこんな状態です。
第3FITが例の樹洞、あと1基は立ち枯れに掛けました。
入った甲虫は以下の通り。明らかに樹洞に関係ありそうな種は、今回は含まれていません。
数的には、もう1基の立ち枯れに集まったと思われるハネカクシ類が多かったようです。
左から、キュウシュウハナムグリハネカクシ、オオウスバハネカクシ、ヒラタハネカクシ、ニセハネスジキノコハネカクシ Carphacis paramerus、アカバネツツガタハネカクシ Hypnogyra tubula、セスジハネカクシの一種(未同定)、セミゾキノカワハネカクシなどです。
糞虫は、クロマルエンマコガネとミゾムネマグソコガネ。
モリモトヒメナガクチキ、ニホンホソオオキノコ、セモンホソオオキノコ。
キクイムシはPhloeosinus属、あと、樹幹のコケにいるアナアキゾウムシの一種 Protacallodes masumotoiと、アトジロカレキゾウムシ。
第4FITも1基は飛ばされていて、1基だけの成果が次の写真。
ツマキツヤナガハネカクシ Nudobius pleuralis、ネアカクサアリハネカクシ Pella japonica、キノコヒラタケシキスイ、ツノブトホタルモドキ、アロウヨツメハネカクシ、ダルマカレキゾウムシ、ニホンホソオオキノコ。
ごく小さい幼虫は、オオオバボタルの幼虫のようです。
第4FITはヤナギの立ち枯れに掛けたものですが、オオオバボタル幼虫はそんな木にも登るのですね。
昨年も思いましたが、雨や風でかなり不完全な状態になっているトラップに、これだけの虫たちが入っていると言うことは、寒暖の差の非常に大きい春先には、木々の芽吹きもほとんど無く、それだけに、地表まで燦燦と陽の当たる林床で、暖かい日だけでしょうが、想像以上に多くの甲虫が活動しているのですね。