3月21日、高良山の成果に気を良くして、次は、阿蘇と九重まで足を伸ばすことにしました。
久留米から阿蘇一宮の湿地まで、奥八女と上津江、南小国、瀬の本を経由して片道約3時間、道沿いの菜の花の黄色や紅梅の桃色は目に沁みますが、 サクラの蕾みは堅いままで、まだまだ膨らんではいません。
長い時間かかって湿地にたどり着くと、やれやれ、と言った気分になります。
多少風がありますが、気温は13℃、まあ暖かいですが動くものはまだ何も見当たりません。
草原の全体に沈んだ枯れ葉色は、冬枯れだけでは無く、一面の野焼きの結果のようです。
これが、一月もするとうっすらと緑に覆われてくるので、自然の力はえらいものです。
その、春の息吹に向けて、池の周りにさっそくピットフォールトラップを設置していきます。
昨春、思いがけずここで見つけたチョウセンマルクビゴミムシの記録が、つい最近公表になったばかりでした。
今坂正一, 2015. 阿蘇市一宮町で九州初記録のチョウセンマルクビゴミムシを採集. 月刊むし, (529): 28-29.
柳の下のドジョウを狙って、今年は継続してトラップが続けられるように、放牧されるウシのやって来ない柵の外の湿地周辺に設置することにしました。
設置終わって池の中を覗くと、マツモムシが泳いでいます。水の中はもう虫が動き出しているのでしょうか?
水面に目を凝らすと、居ました、ミズスマシが泳ぎ回っています。
ゲンゴロウ類も見られるかもしれないと思いましたが、まあ、先を急ぐこともあり、今日は、水中をかき回すのは止めておこうと思いました。
さて、阿蘇ではもう一カ所、小流の河川敷にもピットフォールトラップを設置したいと思っていました。
ここは、かつて、ライトトラップでオオサカアオゴミムシを採集した場所の近くの小流です。さて、何が入りますやら。
トラップを設置した後で、懸案のふんどし流しも試してみました。
水質は申し分ないはずで、おまけに、こんな草原の中の小流で試した人も無いと思うので、何が採れるか期待が高まります。
ところが、案に相違して、カワゲラやトビケラなどは多量に見られても、ヒメドロムシはなかなかいません。
場所を数回変えてやってみて、ようやく2種4個体が採れただけ。時期が悪いのか、場所が悪いのか、今日はこんなもののようです。
(左:ヨツモンヒメドロムシ 、右:ミゾツヤドロムシ)
ヨツモンヒメドロムシ Optioservus rugulosusは初めて採集したのですが、九州では福岡県・大分県・佐賀県の記録があります。あるいは熊本県からは初めてかもしれません。
(訂正:当初セアカヒメドロムシとして掲載したのですが、トピックを見られた森 正人さんから、セアカヒメドロムシとあるのは、ツヤヒメドロムシ Optioservus nitidusではありませんか?との指摘がありました。
それで、林 成多さんのウェブサイトなどを参考に見直して、ツヤヒメドロムシの方が正しいと思って一旦、ツヤヒメドロムシに訂正しました。セアカヒメドロムシは2.4-2.6mmと、隣に写っているミゾツヤドロムシより一回り大きいようです。しかし、本個体は1.7mm程度です。
さらに、三宅 武さんから、ヨツモンヒメドロムシの可能性も有るのでは?との指摘がありました。
三宅さんは大分昆会誌「二豊のむし53号」に、三宅・堤内, 2015として、大分県のヒメドロムシの予報を書かれており、そこに解説された2種の区別としては、「上翅の各間室に縦列する細毛は、ツヤヒメドロムシはほぼ1列の白毛であるが、本種(ヨツモンヒメドロムシ)は淡黄色でV字状に並び、背面全体に銅色を帯びて見える。」というものです。
三宅 武・堤内雄二, 2015.大分県のヒメドロムシ科(予報). 二豊のむし, (53): 12-22.
それで確認すると、ヨツモンヒメドロムシの方がより特徴が合うので、三宅さんの説に合わせて訂正します。
ヒメドロムシもなかなか難しいですね。
ちなみに、上記文献には、大分県産29種の素晴らしい標本写真と共に、まだ、未記載と思われる新種候補が6種も掲載されています。
ご指摘・ご教示いただいた森さん、三宅さんにお礼申し上げます。)
2種のうち、ヨツモンヒメドロムシは上流から中流、ミゾツヤドロムシは源流から上流域で見られる種のようです。
水の中は、ようやく少ないながら虫が動き始めたというところでしょうか・・・。
川から上がる途中の草原はまだ一面灰色で、まだ、生き物の気配は感じられません。
そんな中で、一カ所で蕗の薹が顔を出していました。
九州はこの数日暖かく、今日も、阿蘇外輪の800m近い標高の地点ですら15℃くらいには上がってきています。
それでもう、あちこち、虫が飛び回っているような感覚に陥るのですが、小さな蕗の薹を見ると、まだまだ、虫が出てくる季節には早い事が解ります。
瀬の本に向かって走っていくと、林の向こうに黒い煙が上がっていました。
何だろうと、煙の方向へ曲がって、林道を進んでいくと、真っ赤な炎が見えました。
野焼きを今やっているのです。
主体の広い草原の大方はもう済んでいるようですが、あちこちやり残した狭い範囲の野焼きを、次々に進めて行っているのでしょう。
瀬の本のレストハウスに近づくと、道路沿いからも大きな炎が上がっていました。
一陣の風に煽られた炎は、一瞬、赤い龍の様にも見えました。
こうした火の勢いを調整するために、ボランティアも含めて、大勢の人が周辺を取り囲むように移動して、火を見守りながら野焼きが進められているようです。
テレビのニュースでは、この野焼きが終わると、阿蘇に本格的な春が来ると言われていますので、それが続行中の今日は、「春まだき」ということになります。
お腹もすいたので、ここでお昼にします。
駐車スペースに車を停め、道横の陽だまりに腰掛けて、弁当を開きます。
会社に勤め始めた20年前から会社には毎日、10年前にそこを辞めてからは虫取りの時だけ、カミさんがこんな風な弁当を作ってくれます。
量は自宅でのお昼よりやや少なめ、満腹で動けなくならない程度にしてもらってます。
1個だけのプチトマトと、デザート(?)のコンニャクゼリーがご愛敬です。
さて、午前中は虫取りの準備ばかりだったので、午後は少し虫の顔が見たいと思い、瀬の本のはずれの雑木林で虫取りをしてみることにしました。
ここは、昨春もツツキノコムシ類などを探したところです。
昨年結構見つかったカワラタケもほとんど無く、今年はキノコのついた立ち枯れは2-3本しかなかったのですが、とにかくスプレーしてみました。
結果、キベリハバビロオオキノコムシ Tritoma pallidicinctaがいくつか落ちてきただけで、ツツキノコを始め、キノコものの虫は全然見られませんでした。
左の個体は上翅側縁が黄褐色でいわゆるキベリですが、右の個体は肩に赤紋があるだけで、側縁は黒いままです。一見、別種みたいに見えますが、各部分の形は同じようで、これらは色彩変異と思われます。
どうも、スプレーイングは無理のようで、早々に、高良山で試して期待が持てた、ハンマーリングに切り替えます。
(注意:お知らせするのを忘れていましたが、ハンマーリングの際は、特に立ち枯れの際は、頭上は注意して下さい。衝撃で折れた枝が、時に、頭や肩をゴーンと直撃する場合があります。ヘルメットを着用されると良いかと思います。)
林内には、なぜか、細い立ち枯れが沢山あって、樹皮がめくれているものが多かったので、そういったものを主に叩くことにします。
ビーティングネットにスッとカミキリが落ちてきたのを見ると、クモノスモンサビカミキリでした。
樹皮下で越冬していた個体でしょう。
その他、ベニヒラタムシやクロウリハムシ、ノコギリホソカタムシ、ツノブトホタルモドキ、ムネアカチビケシキスイ、ヒメヒラタハネカクシ、
上の方、左から、ヒゲナガホソクチゾウムシ、モンイネゾウモドキ、ガロアノミゾウムシ、クロアシムクゲキスイ、ムネスジノミゾウムシ。
大部分が、元々樹皮下に生息する種か、あるいは樹皮下で越冬する種です。
トビハムシは全てキアシツブノミハムシ。これはアセビの葉にいました。
ハンマーリングでなくとも、立ち枯れの皮剥きをセッセとやっていけば、多分同じような種が得られたと思います。
しかし、樹幹をコンと叩くだけのハンマーリングの方が、よほど手軽であるし、樹皮を剥がして住処を無くしてしまう皮剥がしより、ハンマーリングの方がよほど環境に与える負担は少ないと思われます。
その他に、タマキノコムシの一種も5頭落ちてきました。
一見、高良山で紹介したノコギリマルタマキノコムシにも似ていますが、触角を見ると第7節は8節と同じくらい小さくて、全く違いました。Agathidiumであることは間違いなさそうですが。ヒゲナガマルタマキノコムシにも似ていると思いますが、よく解りません。
早春のまだ虫が出ていない山地でも、ハンマーリングが一定の効果があることを確かめたので次の目的地九重へ向かいます。
九重黒岳に今年もFITを掛けることにしました。
それも先日こしらえた新型をです。
昨年とほぼ同じ場所に掛けたのですが、一カ所、樹洞の入り口にも掛けてみました。
あるいは樹洞に出入りする虫が入ってくれないかな、とそれを期待しています。
そろそろ帰宅の時間が近づいたのですが、今日はまだ、満足に虫取りをしていません。
帰りがけに、適当なところがあったら、あと少し、叩いてみましょう。
ハンマーリングは、大木は駄目なので、幼木の多い林を選んで叩いてみます。
道の反対側にはクヌギ林もあって、こちらでも、幼木や立木の枯れ枝を叩いていきます。
落ちてきた虫たちが次の写真です。
圧倒的に多いのは、ツノブトホタルモドキで、ミズナラやクヌギにはこの時期、多くが樹幹や葉のない梢に集まっているようです。瀬の本でも、ちょっと前の高良山でも本種は落ちてきました。
次いで、左上の黒い点は、クロアシムクゲキスイとアカグロムクゲキスイ、右端のはアカオビニセハナノミです。
その左下、大きいキクイムシはマツノキクイムシ、隣2個体はワダオオキクイムシ Pseudohyorrhynchus wadaiです。
大あご基部は三角に側方へ突出し、大変面白い顔をしてます。
黄褐色の触角先端の球桿にはまったく横皺(線)はなく、近似のルイスオオキクイムシなどから区別できます。本種はまだ大分県からは記録されていないようです。
さらに、その横の黄褐色の細長い虫はヒラタクチキムシダマシ Prostominia lewisiです。
本種は以前はクチキムシダマシ科とされていましたが、現在はチビキカワムシ科に含められています。
(ヒラタクチキムシダマシ)
一見、チビヒラタムシやキスイムシの様にも見えますね。
クヌギの樹幹から落ちてきたので、樹皮の溝にでも潜んでいたのでしょう。そういう意味では、確かに、チビキカワムシの仲間と言えそうです。
こちらも正式記録としては大分県から知られていないようです。
後は、何かの葉上にいたと思われるキアシツブノミハムシ。
低地ではツブノミハムシですが、標高が高いと大抵本種です。
そろそろ、持ち時間も無くなったので帰途につきます。
さすがに、この時期の阿蘇・九重では、まだ、虫もあまり見ることができませんでした。
それでも、ハンマーリングのおかげで、大分県の記録が知られていない2種もみつかり、出かけて来たかいがあったというものです。
来るシーズン中の新採集法として、期待は高まるばかりです。
飯田高原から九酔渓、玖珠町、天瀬、日田を経て延々と1時間半、筑後川沿いの堤防道路を走る頃には夕焼けが迫ってきていました。
広い河川敷の上に、2つのプロペラ付きパラセールが、夕日に照らされて浮いていました。