サクラと菜の花に誘われて、春の高良山〜筑後川

2014年3月23日、前日のサクラの開花宣言に誘われて高良山に出かけました。

朝8時、天気は快晴、風は清冽で気温は5℃、日中はかなり上がるという予報でしたが、出がけに吐いた息はうっすら白い色が見えました。

まず、高良山へ車を走らせると、高良神社の参道の桜はちらほらと花が咲き出したばかり。

咲き始めた桜
咲き始めた桜

高良山スカイラインを耳納山(標高400m程度)まで進み、まず、FITの回収です。久しぶりにまた、チャグロマグソコガネ(写真左から2つ目)が入っています。

耳納山FITの採集品
                                                                                耳納山FITの採集品

かつては珍品の冬のマグソコガネでしたが、どうも、イノシシの糞に依存しているようで、イノシシの増加と共に増えたようです。
その他に左から、フトツツハネカクシ、キタツツキノコムシ、セスジハネカクシの一種、ヒゲブトハネカクシの一種です。最後の2種はどちらも未記載種が多く同定できません。

さて、引き返して高良山のFITです。
左の4個体はヘリアカヒラタケシキスイ Epuraea hisamatsui Nakaneでしょうか?
そうだとすると、福岡県からは初めての記録です。
その上の小さいのはムネスジキスイ、この種はほとんど冬しか見かけません。

高良山FITの採集品

                                                                                   高良山FITの採集品

そして綺麗なツマグロチビオオキノコムシ Tritoma nigropunctata (Lewis)、この種は図鑑ではまれ、となっていて、最初採ったときは感激しました。ほとんど、ブナ帯で見つかることが多いのですが、こんな低山でもいるんですね。

他に、カナクギノキクイムシ、ムクゲヒメキノコハネカクシ、マエキミジンムシとヒゲブトハネカクシの一種です。

高良山には、3年前に伐採したクスノキ林があって、そこにもFITほか、さまざまなトラップを下げています。積んである伐採木は大部分がクスノキですが、それでもいいぐあいに枯れて、キノコがあちこちに生え、FITにはさまざまな食材性、食菌性の甲虫が入ります。

高良山の伐採地に下げたFIT

                                                                            高良山の伐採地に下げたFIT

まずFITから。
ホソチビオオキノコムシ、アロウヨツメハネカクシ、クロムネキカワヒラタムシ、

高良山の伐採地FITの採集品

                                                                             高良山の伐採地FITの採集品

右端の丸い2個体はマルタマキノコムシモドキの一種ですが、背面全体に列状では無く長い毛を密生することから、図鑑類の検索表では種まで到達できず、同定できませんでした。ご存じの方がいらっしゃいましたら、ご教示ください。

毛深いマルタマキノコムシモドキの一種

                                                                     毛深いマルタマキノコムシモドキの一種

ほかに、ヒメマキムシ、ムネスジキスイ、セマルタマキノコムシなどが採れています。

次に、キノコピットフォールトラップ(略してキノピット)、
これは私が勝手に名付けて、最近やりだしたトラップで、単に、キノコが生えている木に、ビニールコップにFIT液を入れて固定したもの。

キノピット

                                                                                    キノピット

まだ、設定して1週間だし、時期も早いので、ちょっとした試し気分。
入っていたのは予期したようにキノコにつくツツキノコムシばかりで、
左から、ヒメツヤツツキノコムシ Octotemnus parvulus Miyatake、ツヤツツキノコムシ Octotemnus laminifrons (Motschulsky)、ゴマフツツキノコムシ Cis hieroglyphicus Reitterの3種。

キノピットに入ったツツキノコムシ類

                                                                        キノピットに入ったツツキノコムシ類

ヒメツヤツツキノコムシは川那部(2005)によると北海道から南西諸島までいる普通種ということですが、体長1.2mmほどと甲虫としても極端に小さいため、九州では長崎・大分両県の記録があるだけです。

川那部 真(2005)日本産ツツキノコムシ科検索図説VIII. 甲虫ニュース, (149): 13-17.

ツヤツツキノコムシも♂の左の大顎だけに大きなキバ状突起がある種で、こちらも普通種のようです。またゴマフツツキノコムシは佐賀県の記録が無く、長崎県でも最近記録したばかりです。というふうに、この仲間は同定が難しく案外見過ごされているようです。

普通種といえども、1種は福岡県初記録になるわけで、試みは成功と言えます。
これらのツツキノコムシは普通の採集では、ほとんど見えないサイズで、ちょっと目先を変えて採り方を考えるとこんなものです。

さらに、この伐採地には、キノピットと同時にエサを入れない所謂ピットフォールトラップも設置しておきました。

ピットフォールトラップの設置場所

                                                                     ピットフォールトラップの設置場所

入っていたのは、アカハバビロオオキノコムシ、ムナビロヒメナガゴミムシ、コブマルクチカクシゾウムシ、クロヒメヒラタホソカタムシ Synchita tokarensis (Nakane)。

ピットフォールトラップの採集品

                                                                       ピットフォールトラップの採集品

最後のクロヒメヒラタホソカタムシはちょっと小さいので拡大してみます。

クロヒメヒラタホソカタムシ

                                                                                クロヒメヒラタホソカタムシ

前にも、冬期の落ち葉篩で採集していますから、冬期、落ち枝などについて地表で越冬しているのでしょう。

ムナビロヒメナガゴミムシは林床に多い種ですが、本州産の、マルムネヒメナガゴミムシとの関係は良く解りません。

他にキスイの一種、アカホソアリモドキ、コケムシの一種、ヒゲブトハネカクシの一種(未同定)、ヒメキノコハネカクシの一種、オバボタルの幼虫などが入っていました。

思ったより、さまざまな虫が寒い中でも動き回っているものです。

トラップ類を回収し終わって時計を見ると午前10時すぎ、それでもまだ、10℃くらいでしょうか。

それではと、日当たりの良い、道沿いの灌木を少々ビーティングしてみましたが、ツブノミハムシが見られたくらい、桜が咲き出したと言っても、まだ、葉上などには虫は見られないようです。

それでは、山を下りて、暖かい平地で採集してみましょう。
山道を善導寺方面に向かって降りると、高良山では珍しい渓流沿いに出ました。

木漏れ日の中を羽虫が飛び交っています。

羽虫が飛び交っていた林道

羽虫が飛び交っていた林道

数年前に高良山スカイラインを飛び交う羽虫をスウィーピングして歩いて多数のヒゲブトハネカクシをはじめ、多くの浮遊甲虫を採集したことを思い出して、ちょっとスウィーピングをしてみましたが、すべてオドリバエやヒメガガンボ、ユスリカなどの双翅類でした。浮遊甲虫には一寸ばかり時期が早いようです。

日当たりの良い沢沿いの砂礫地が見られたので、ここにも、ピットフォールトラップを設置することにしました。そのうち、何が入るか楽しみです。

ピットフォールトラップを設置した沢

                                                                      ピットフォールトラップを設置した沢

さて、平地まで降りてみると、善導寺の溜め池横の桜並木では、もう三部咲き程度、満開まであと一週間程度でしょうか。

溜め池横の桜並木

                             溜め池横の桜並木

水を抜いたままの溜め池は、もう永く使っていないのかもしれません。

水を抜いたままの溜め池

                          水を抜いたままの溜め池

底まで降りていくと、ツクシもいっぱい出ています。

ツクシ

                               ツクシ

菜の花にはハナアブとハバチとナナホシテントウ、ダイコンサルハムシ、そして、微小なハナムグリハネカクシの一種が群れていました。

菜の花

                              菜の花

この仲間はかなり地域により固有種が多く、まだ未記載のものも含めてかなりの種があるようで、普通種の割に同定しにくいグループですが、♂交尾器の形から、ハラグロハナムグリヨツメハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp)だろうと考えています。

(キイロハナムグリハネカクシと♂交尾器、後の訂正参照)

(2015年4月9日訂正:2015年になってから、ハナムグリハネカクシの仲間の見直しをしておりますが、その後の調べで、高良山にはハラグロハナムグリヨツメハネカクシが多産することは明らかです。しかしながら、ここに示した標本は、中央片が太短くて先端が尖り、側片の先端が広がる♂交尾器の特徴から、キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelumと考えられます。

それで、一応、上記写真の説明としてはキイロハナムグリハネカクシに変更します。)

溜め池の底は一面ヨシが生えていたようで、刈り取られた枯れヨシで敷き詰められていました。

刈り取られた枯れヨシ

                           刈り取られた枯れヨシ

その枯れヨシを掻き分けてみるとセスジゲンゴロウの一種が出てきました。
冬前には多少とも水があり、枯れ葉の下で越冬していたのでしょう。

持ち帰って♂交尾器を確認するとカンムリセスジゲンゴロウ Copelatus kammuriensis Tamu et Tsukamotoでした。筑後川流域では、セスジゲンゴロウ類の中では本種が最も良く見られるようです。

(カンムリセスジゲンゴロウと♂交尾器)

いろんなものが、枯れヨシに潜り込んでいる可能性があるので、篩った残渣を持ち帰って自宅で簡易ベルレーゼにかけることにしました。

篩にかける

                             篩にかける

その結果、先にトピックで紹介した(紛れ種3種にご注意 http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=139)
アシベコバネセスジハネカクシを始め、

アシベコバネセスジハネカクシ

                          アシベコバネセスジハネカクシ

オオシリグロハネカクシ、アロウヨツメハネカクシ、ホソクビアリモドキ、ヨツボシテントウダマシ、ミツモンセマルヒラタムシ、ミドリマメゴモクムシ、セスジヒメテントウ、イチゴハムシ、ドウガネサルハムシ、ヌカキビタマトビハムシ、アルファルファタコゾウムシなどが出てきました。

アシベコバネセスジハネカクシは文字通り、ヨシ(芦)の下に住んでいるようです。

ほとんどの種が、草地から水辺にかけている種です。

このうち、ヌカキビタマトビハムシはホストとしてヌカキビが知られていますが、多くのイネ科植物を食べるようです。九州では福岡・大分の記録がある程度で記録としては少ないですが、いるときは多くの個体が見つかります。

ヌカキビタマトビハムシ

                           ヌカキビタマトビハムシ

さて、この堤の上で日なたぼっこをしながらの弁当を食べて、一ぷくしてから筑後川へ向かいます。
筑後川は黄色一色、菜の花(セイヨウカラシナ)で彩られています。

黄色一色の筑後川

                             黄色一色の筑後川

とにかく、吉井町の河川敷の池まで行ってみることにしましょう。

吉井町の河川敷の池

                            吉井町の河川敷の池

しかし、吉井町の池は、一見良さそうでしたが、ヒメガムシとキイロヒラタガムシがいただけで、早々に引き返します。

田主丸まで戻ってくると、畑脇にいっぱい野菜クズが捨ててありました。

捨ててある野菜クズ

                            捨ててある野菜クズ

冬期はこの中にもかなり虫が集まっているはずですが、中が腐っていると手を突っ込んでみるのが躊躇われて、それではと、最近流行のスプレーイングをやってみることにしました。

シューッとスプレーしてしばらく待っていると、ハネカクシを初めとして、次々に虫が走り出てきます。
まるで煙に追われた火事場のようです。

野菜クズから出てきた甲虫

                            野菜クズから出てきた甲虫

出てきたのは、画面左下から、オオアカバコガシラハネカクシ、ヒメホソコガシラハネカクシ、ハコネエンマムシ Margarinotus sutus (Lewis)、ナトビハムシ、キイロセマルキスイ、

上の段がキボシヒラタケシキスイ、クビボソハネカクシ、ダイコンハムシ、クロズトガリハネカクシ、キヌコガシラハネカクシ。

ナトビハムシやダイコンハムシがいたと言うことは、ダイコンの野菜クズだったのでしょう。
その他は腐ったものに湧くウジなどを捕食していたものと思われます。

このうち、ハコネエンマムシは九州では福岡・佐賀・長崎の三県から記録があり、福岡県では腐ったサトイモから採れた添田町の1例だけが知られています。腐った野菜に集まるようですね。

ハコネエンマムシとその各部分

                        ハコネエンマムシとその各部分

さらに、下流へ下がり、大刀洗町西原まで戻ってきました。
上水敷の浅い水溜まりでカンムリセスジゲンゴロウをすくい、河原の深い水たまりの中を探ると、クレソンの根元から、コガタノゲンゴロウが見つかりました。

河川敷にあった水溜まり

                           河川敷にあった水溜まり

コガタノゲンゴロウ

                           コガタノゲンゴロウ

最近、九州のあちこちでは、本種の増加が顕著で、ちょっと深い止水域があると、人為的な防火用水みたいなところでも、河川の水溜まりでも、結構、何処でも見られます。
1990年代には一旦、ほとんど見られなくなったのですが、2000年代に入った頃から徐々に復活・増加して、最近では、ここぞという場所には必ずいます。

それでも、リスト作成のためチェックしている筑後地方からは、1955年の梅野による高良山の記録しか無かったので、当然いるはずの筑後川で確認できて良かったです。

帰り際に、水際を走る銅色のゴミムシを慌てて押さえて持ち帰ったところ、ドウイロミズギワゴミムシ Bembidion stenoderum (Bates)でした。

ドウイロミズギワゴミムシ

                           ドウイロミズギワゴミムシ

この種はすでに筑後川で記録されていますが、他に県内では知られておらず、九州内では大分県の記録があるだけです。

一日中走り回って、いろんなことをやって虫取りをしましたが、3月末のこの時期としては、結構沢山の虫と出会えたような気がします。